フウさんが輝いています
体育祭の開催まで二週間を切り、アステリアの生徒たちはその練習に熱が入りはじめた。
その日の体育の授業は体育祭の花形競技、騎馬戦の練習があった。
「よーし!いっちょやったりますかー!」
騎馬の上に乗ったフウが肩を回しながら意気込んでいる。
騎馬戦は四人一組、計三組によるクラス対抗の一騎討ちである。
フウは当然のように大将を務めることとなった。
イナは騎馬戦には参加しないため、他の参加しない生徒たちと共に騎馬戦に参加する生徒の様子を見物することとなった。
イナの視線を感じたフウに気合が入り、彼女の目つきが切り替わる。
今の彼女はいつもの明るい女子高生ではなく、クリテアの頂点に君臨するトラ族のそれになっていた。
「とにかくウチが上で頑張るから、みんなはウチが落ちないようによろしく!」
フウは騎馬役を務めるクラスメイトたちに上から言い渡した。
彼女には騎馬戦のセオリーなどはわからない、ただ自分がやれるだけのことをやるだけである。
フウは鞍上から対戦相手を睨みつけた。
相手が友人だろうと容赦はしない、絶対強者たるトラ族に睨まれて委縮しない他種族などほぼ存在しないようなものであり、彼女が大将であるという事実だけで一定の圧力が発揮された。
「突っ込めー!」
フウの強さは圧倒的であった。
真っ向からの力押しではまず負けることはなく、女子としては大きめの体格もあって体勢で優位を取られることもない。
正攻法では正面から鉢巻を奪い取り、多少の搦め手も持ち前のフィジカルで強引に真っ向勝負に仕切り直す。
まさに天下無敵、一騎当千の大活躍ぶりであった。
「どーよ!カッコよかったっしょー!」
フウは得意げにピースサインを出した。
その視線の先にはもちろんイナの姿があった。
(つっよ……)
イナはフウの活躍ぶりを見て感動を通り越して唖然とするばかりであった。
彼女だけでない、クラスメイトも、他のクラスの生徒たちも、皆フウの強さを目の当たりにして呆然としていた。
『無対策では彼女に勝てない』誰もがそう感じずにはいられない。
彼女が放つ輝きは周囲の目を眩ませるほどのものであった。
体育の授業後、他のクラスでは騎馬戦でのフウの様子で話題は持ち切りであった。
噂は学年全体で普及し、騎馬戦に参加する女子たちは皆フウへの打倒に燃えていた。
「なんかみんなウチの話してるー?」
「そりゃああれだけのことをすれば当然ですよ」
フウは呑気に口走り、イナがそれに突っ込みを入れた。
「さ、考えましょうか」
「考えるって何を?」
「対策の対策です。今日の結果だけを見ていい気になってると本番で足元掬われますよ」
イナはフウに忠告した。
頭が回るキツネ族からの言葉ということもあり、フウはそれを蔑ろにすることはできなかった。
放課後、フウたち騎馬戦に参加するクラスメイトの女子たちは教室で対策会議を開いた。
会議の中心となるのはもちろんイナである。
普段はこういった行事に積極的でない彼女だが騎馬戦はフウが花形を務めるということもあり、その輝きを陰らせないように躍起になっていた。
「騎馬戦で勝つための対策を考えます。まず、今日の結果を見て他のクラスの方たちは間違いなくフウさんへの対策を立ててくるでしょう。そこで私たちでその対策への対策をします」
「対策の対策っていうとどんな?」
「まずはどんな対策ができるかを考えてみましょう。もし自分たちがフウさんと騎馬戦で戦うとします。ですがフウさんと正面からぶつかってもまず勝てません。ならどうやって戦いを挑みますか?」
イナはクラスメイトたちに議題を提起した。
クラスメイトたちは自分がフウと対戦することを前提に真剣に作戦を考える。
「うーん……思いつかない。イナさんならどうする?」
「そうですね。私なら上で戦っても勝てないなら下を崩しに行きますかね」
イナは具体的な作戦内容を提示した。
騎馬戦の勝利条件は決して上だけで決まるものではない。
仮に鞍上同士で戦っても勝てなくても騎馬が崩れれば勝負はつく。
小柄で単純な力も弱いイナが提案するからこそ、その対策内容は他のクラスメイトたちにとっても具体的で納得のいくものであった。
「さっすが学年一位、頭いいー」
「今は褒めても何も出ませんよ。皆さんなら騎馬を崩すためにどんな手を使いますか」
「上の手を掴んで後ろに下がれば上を落とせるね」
「下から下に体当たりして強引に崩すとかかなぁ」
イナが中心となり、クラスメイトたちは真剣に議論を重ねた。
考え得る作戦、その対策に関する考察が白熱していく。
こうしてイナは高校入学以来初めて学校行事に対して真剣に取り組む姿勢を見せたのであった。




