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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
波乱の学園祭
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パフォーマンスの内容を考えます

 幼少期に鑑賞していたアニメ、マジカルウィッチ・スノウを改めて一話から見返したイナとフウはそのまま二話以降も鑑賞していた。

 二話を見ている途中、見覚えのあるシーンが次々と出てくる。


 「あっ、このシーンなんか覚えてる」

 「ノワルディーヌが怪物を作るシーンですね。悪役がその回の敵キャラを生み出すシーンもシリーズの定番です」

 「ユキちゃんはまだ戦うことに迷ってるみたいですが」

 「ウィッチスノウが成長していくのを見るのもこの作品の醍醐味ですから」


 エリカはフウやイナの感想に補足するように解説を入れた。

 第二話が後半に差し掛かり、その回の山場となるシーンがやってきた。


 『どうしても私にしかできないなら、私やるよ!』


 妖精から説得され続け、ついに主人公が戦う意志を決めた。

 その意思に応えるように彼女の右手首に変身アイテムのブレスレットが装着される。


 『マジカルウィッチ・トランスレーション!』


 画面が切り替わり、ユキが右手を天高く掲げながら叫んだ。

 すると画面に淡い青色のエフェクトが無数に発生し、フウたちの記憶にも残っているシーンが流れ出した。


 「おー!変身シーン来た!」

 「変身シーンもこれまでの魔法少女ものとは一味違うところがありまして、展開がスピーディーなんですよ」


 エリカの解説通りに変身シーンでは目まぐるしくカットが変わり、ユキの身体を包んでいた青白い光がウィッチスノウの衣装に変わっていって徐々に全体が明らかになっていく。

 最後に衣装の胸元に大きなリボンが現れてウィッチスノウへの変身が完了した。


 『白雪の使者!ウィッチスノウ!』

 「キター!記念すべき初名乗りですよ!」

 「おー可愛いー!」

 「ポーズも懐かしいですねー」


 ウィッチスノウの変身から名乗りまでの一連のシーンを見てイナたちは大盛り上がりであった。

 そのまま戦闘シーンに移行し、ウィッチスノウは手元に武器となる長い杖を呼び寄せた。

 すると次の瞬間、ウィッチスノウは杖を振り回して怪物に全力の殴打を仕掛けた。


 「えーっ!?ウィッチスノウってこんなに荒い戦い方するの!?」

 「しますよ。むしろ歴代で一番容赦のない格闘戦をやるので一部のファンからは猛吹雪なんて言われたりしてます」


 ウィッチスノウは可愛らしい見た目とは裏腹にシリーズ屈指の激しい格闘戦を行うことがファンに知られている。

 これまた自分たちの記憶と違う姿を見てイナとフウは衝撃を受けた。


 数分間の格闘戦パートを経てお待ちかねの必殺技のシーンがやってきた。

 バンク映像に切り替わり、ウィッチスノウがポーズを決めると杖の先が青く光る。


 『マジカルウィッチ・スノウバースト!』

 

 ウィッチスノウが技名を叫ぶと手にした杖の先から青いビームが放たれた。

 ビームは怪物に命中し、怪物自身が光に変わって消し飛んでいった。


 「あんなに格闘しても最後はビームで決めるんですね」

 「子供たちが安全に必殺技のシーンを真似できるようにっていう事情があるので……」


 そんなこんなしながら約二時間ほど鑑賞を続け、イナたちは一度休憩を挟むことにした。


 「名乗りと必殺技のポーズはウチがちゃんと決めるとして、そこまでの流れはどうする?」

 「ノワルディーヌがあんまり出てこなくて私がどんなパフォーマンスをすればいいのかわかりませんね。今のところ印象的なシーンもありませんし」


 イナたちは仮装リレーのパフォーマンスの内容について話し合い始めた。

 原作への理解と解像度を深めた上でそれをパフォーマンスでどう活かすかが議題であった。


 「ノワルディーヌが話の中で目立ち始めるのは話の後半からなんですよね。まだ序盤ですし、初登場以外の印象が薄いのは仕方がないかと」

 「ところでこれって全部で何話あるの?」

 「四十七話ですね」

 「よ、四十七……」


 エリカから淡々と発せられる情報にフウは圧倒された。

 フウはともかくとしてイナはアニメへの馴染みが薄いため、それがとてつもない長さに思えてならなかった。

 一話辺り約二十五分、それが四十七話もあるためとても一日では追い切れない。


 「今からポーズの練習してみるから姫ちゃんちょっと見てくれない?」

 「よろこんで!では名乗りのポーズを動画を見ながらやってみましょう!」


 フウが思い立って言い出すとエリカはそれに同調て携帯で動画を開いた。

 動画にはウィッチスノウの変身から名乗りまでの一連のシーンが収められており、名乗りは十秒程度の短時間ではあるがポーズの取り方や動きの流れ、コツなどをエリカとフウは二人で入念に確認していった。


 二人がポージングの練習に夢中になる中、イナは下から誰かが階段を登ってくる足音を聞きつけた。

 おそらくフウの母親であろう。

 しかしイナの声はフウとエリカに届きそうになかった。


 「おやつ持ってきたからよかったら一緒に食べ……」


 フウの母親は部屋を覗き込むなり娘の姿を見て表情が張り付いたまま動かなくなった。

 何も事情を知らないため、まさか年頃の娘が本気で子供向けアニメの真似事をしているとは想像もしていなかったのである。

 フウもポーズをとったまま硬直し、今の自分を客観的に見てみるみる顔が赤くなっていく。

 イナとエリカも何も言えず、気まずい空気が流れる。


 「ま、まあ女の子だし、たまにはこういうことやりたくなってもおかしくないわよね。あっ、よかったらこれ娘と一緒に食べてね」


 イナは小さく会釈をしてフウの母からおやつを受け取った。

 要件を済ませたフウの母は目の前の光景から目を背けるようにそそくさと退散していった。

 

 「違うのママ!これは学祭でやるパフォーマンスの練習で!」


 フウは慌てて部屋のドアから上半身を乗り出して弁明した。

 その日、彼女は丸一日母から誤解を受けることになったのであった。

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