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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
波乱の学園祭
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周りの声が気になります

 課題テスト一日目の放課後、生徒たちが個々に解散する中でフウは教室の席で項垂れていた。

 前日イナに試験対策を詰め込まれてなんとか今日を乗り切ったばかりであるにも関わらず、その試験があと二日もあるという現実を目の当たりにして憂鬱であった。


 「どうですか?赤点は回避できそうですか?」

 「ギリギリなんとかなりそうって感じー。明日の科目ってなんだっけ?」

 「化学と世界史ですね」

 「うえー……」


 明日の試験科目をイナから確認したフウはまた渋い顔をした。

 化学は彼女が特に苦手とする科目である。

 その苦手ぶりは前期もイナに対策を教えられた上でようやく赤点をギリギリで回避できたほどであった。


 「帰って対策ですね」

 「さすが学年一位様は言うことが違うなー」


 項垂れていたフウは上半身を起こして伸びをしながら緩く言い放った。

 イナは前期の試験では二連続で学年一位である。

 今回の試験対策も抜かりはない。


 「ちょっとトイレ行ってくるー」


 フウはイナにそう言い残すとふらりと教室を出ていった。

 彼女の荷物は教室に置いたままであり、戻ってくるつもりがあることを示唆している。

 イナはフウの荷物を自分の席に寄せ、軽い自習をしながらフウが戻ってくるのを待つことにした。


 教室の一角や廊下からクラスメイトの話し声が聞こえてくる。

 主な話題は試験対策であったがそれとは特に関係ない雑談も多々としてあった。

 そんな中、とある話し声がイナの耳に届いた。


 「三組のフウちゃんの噂知ってる?」

 「噂ってどんな?」

 「放課後に学年一位の子とずーっとイチャイチャしてるって噂」


 廊下で立ち話をしているのは他のクラスの女子生徒のようであった。

 どうやら自分とフウのことを噂しているらしく、イナは盗み聞きする形で聞き耳を立てた。

 イナにとってフウとの関係は二人だけの秘密ということにしており、フウにも釘を刺しているため周囲がどう認識しているのかが気になったのである。


 「あーそれ聞いたことあるわ。私もお昼休みに食堂で一緒に食べてるとこ見たことあるし」

 (まあ、それぐらい普通でしょう)


 イナは教室から聞き耳を立てながら率直な感想を抱く。

 友人同士、同じ席で昼食を取るのはごく普通の範疇である。


 「でもさ、あのスポーツ万能で明るいフウちゃんと物静かなイナさんが仲良くしてるんだろうね。普通ならまず関わらないだろうに」

 (私もそう思ってましたよ)


 イナとフウとの交友関係は様々な偶然が折り重なってできたものであった。

 まずフウがアステリアに転入してきたこと、イナのいる二年三組にやってきたこと、イナの前の席に座ったこと、そしてイナと目が合って声を掛けられたこと。

 そこからの積み重ねがあって今の関係に繋がっている。


 「前にフウちゃんから直接きいたことあるんだけどさ。イナさんと家が隣同士なんだって」

 「あー、だから帰り道一緒に歩いてるのね」


 イナは家が隣同士であるという情報がフウの口から直接語られていたという事実を初めて知ることとなった。

 フウは交友関係がかなり広いため、イナの知らないところで友達を作っていることも多い。

 その交友範囲はイナですら把握しきれていないほどであった。


 (あの子は周りにどこまで喋ったんですか……?)


 イナはさらに注意深く聞き耳を立てた。

 フウが自分の言葉に耳を傾け、忠実に守ってくれていることは承知の上で彼女がどこまで自分のことを周りに吹聴しているのかを確かめたくなったのである。 


 「夏休みの花火大会でも二人でいるところを見たって話もあるよ。しかも神社の裏の方に入っていったって」 

 

 花火大会当日のことを話題に出されたイナは思わず硬直した。

 神社の裏から二人っきりで花火を見ていたがそれと同時にキスもしている。

 もしそれを見られていたのではと仮定すると気が気でない。

 

 「さあ?何してたんだろうね」


 話し声の続きを聞いたイナは安堵でほっと胸をなでおろした。

 もしその先を目撃されていたのであれば友人を超えた関係と見られるのは確実である。


 「お待たせー!」


 トイレから戻ってきたフウがイナに声をかけるとバッグを回収してイナの肩を叩いた。

 このあとは家に帰ってから試験対策である。


 「やっほー!」

 「やっほーフウちゃん。今日もイナさんと一緒?」

 「うん。この後家でテスト勉強教えてもらうんだー」


 フウは廊下ですれ違った生徒に挨拶をした。

 その隣でイナが小さく会釈をする。


 「イナっちー、今日のお昼どうする?」

 「今日は家に帰って各自で食べるってことでいいですか?今持ち合わせが少なくて」

 「じゃあそれでいいよー」


 イナとフウはこの後の予定を打ち合わせる。

 そんな二人の後姿を見た生徒たちはあることに気づいた。


 「あれ見た?」

 「がっつり尻尾絡んでたね」


 イナの尻尾にがっつりとフウの尻尾が絡んでいるのが見えていた。

 これでは口にせずとも公然とアピールしているも同然である。

 話し声が聞こえたイナは後ろを振り返ると慌ててフウの尻尾を払いのけた。


 「何さー。夏休みの間はなんてことないみたいにしてたのにー」

 「いつもやってたんですか?」


 イナはフウの発言に軽くショックを受けた。

 どうやらフウは夏休みの間から密着すると尻尾を絡めていたらしく、イナ自身もそれに気付いていなかったのである。

 しかも口ぶりからするにフウは意図的にそれを行っていたようである。


 「みんなの前でやっちゃダメですよ」

 (もしかしてデキてる……?)

 (あれってもうただの友達じゃないような……)


 イナとフウのやり取りを見ていた生徒たちには二人の関係が友人の枠を超えた何かのように思えたのであった。

 

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