暴走が止まりません
学校の最寄駅に到着したイナとフウは改札の外で待っていたエリカとの合流を果たした。
「お待たせしました」
「お気になさらず。さぁ行きましょうか」
エリカはすでに目を輝かせている。
この時点で早くもイナは嫌な予感を感じ取る。
「姫ちゃんは体育祭何に出るの?」
「騎馬戦ですよ。ボクはライオン族だからみんなに推薦されて」
電車の中でフウが尋ねるとエリカはため息をつきながら体育祭の参加種目を明かした。
騎馬戦は体格が大きく力の強い種族が花形を務める競技であり、フウたちトラ族やエリカたちライオン族などはその極致ともいえる存在である。
エリカはその種族故に大多数のクラスメイトから推薦される形で参加することになったのである。
「へー、ウチも騎馬戦出るんだー。一緒に頑張ろうねー」
「は、はい」
フウに気安く肩を叩かれたエリカはやや萎縮気味に答えた。
そんなこんな話しているうちにエリカの家の最寄駅への到着を告げる車内アナウンスが響いた。
「で、先輩。コスプレするんですよね」
「そんなところでしょうか」
「任せてください。衣装ならたくさんありますから!」
エリカは目を輝かせながら興奮気味にそう言い放った。
イナにはすでに何かを着させようとしている魂胆が見え見えではあったが他に頼れる人物がいないため、エリカに一任することにした。
大きな門をくぐり、玄関を通るとそこではツバキが待機していた。
彼女は事前にエリカから連絡を受けており、事情を把握して待っていたのである。
「やあやあ。イナちゃんがコスプレしてみたいって聞いたから待ってたよ」
「体育祭の種目用の仮装なのですが……」
「まあ気にしないの気にしないの。ついてき」
ツバキは緩い口調でのらりくらりしながらイナたちを案内した。
ツバキに案内されて訪れた一階の一室には色彩豊かな様々な衣類がズラリと掛けられていた。
イナとフウは普通ではまず見られないような光景に圧倒された。
「すご!これ全部コスプレ衣装!?」
「全部ってわけじゃないけど、半分以上はそうかな」
「さすがはお金持ちです……」
イナたちが案内された先はコスプレ衣装や外行用の礼服、私服をまとめた倉庫部屋であった。
礼服私服はツバキ用、エリカ用で細かく分けられており、別の一角にはコスプレ衣装が詰め込まれるように並んでいた。
「好きなの見てきなよ。試着もしていいからね」
ツバキに言い放たれたフウとエリカは我先にとコスプレ衣装の中に飛び込んでいった。
イナは二人の後を追う形でそこに向かっていく。
「イナっちはどんなコスプレが似合うかなー」
「先輩の体型ならー……これとかどうでしょう」
「うわー!いいねそれ!」
フウとエリカは衣装を見ながら二人ではしゃいでいた。
それを着るのがイナであることをいいことに言いたい放題であり、さらにフウは自分も仮装する側であることを完全に忘れている。
「先輩、これ着てみてください」
エリカは衣装を一着持ち出すとそれをイナに手渡した。
イナは何も知らずにそれを受け取り、試着室に向かう。
そして数分後、イナは鏡に映った自分の姿を見て絶句することとなった。
「あの……これ、肌の露出が多くないですか?」
イナは縮こまるような姿勢になりながらエリカに訴えかけた。
イナが今着用している衣装はエリカが熱中している魔法少女アニメの敵役のものである。
だがそれは胸元が大きく開いており、ヘソ出し衣装に加えて大腿部が半分以上見える上に横にスリットが深く入っているミニスカートと肌の露出が非常に多い。
局部以外はすべて見えているようなものであった。
「エッ……」
「男子に見せるには刺激が強すぎるなこれは」
エリカがオタク的な視点から語彙力を失う一方、フウは冷静に呟いた。
とは言いつつも二人ともしっかりカメラを起動してイナの姿を写真に収めている。
「撮らないでください!?」
「いいものを見せてもらいました。次は何を着てもらいましょうか」
「今度はこれ着てもらおう」
今度はフウが衣装を持ち出してきた。
「露出が多いのは着ませんからね」
「大丈夫」
警戒するイナを絆しながらフウは衣装を試着させた。
「……ッ!?」
イナは着せられている最中に衣装の正体に気づいてしまった。
それは幼稚園児や保育園児が着用する水色のチャイルドスモックであった。
しかも丁寧に黄色い帽子も小道具でついている。
「あの、これ、見えちゃ……」
イナは前屈みになってスカートの裾を抑えながら主張する。
下のスカートの丈がやたら短く、おまけに尻尾用の通し穴が用意されていないため普通に歩くだけでもパンツが見えてしまいそうであった。
さっきのに比べれば露出面ではかなりマシとはいえ、あくまでマシなだけでまともではない。
「ウワーッ!イナっち可愛いよーッ!」
「女子高生が園児の格好をしてるのが……いい!」
フウはイナの園児服姿に大喜びであった。
エリカも鼻息を荒げながらカメラのシャッターを切りまくっている。
イナはツバキに助けを求めようと彼女の方に視線を送るがなぜかツバキは親指を立てて頷くのみである。
このにイナを助けてくれる人物は誰一人として存在しなかった。
「先輩に似合いそうな衣装がまだあるんですけど」
「ウチも今思いついたのがあって……」
「勘弁してください!」
エリカとフウの暴走は止まらず、イナはずっと着せ替え人形にされ続けるのであった。




