新学期が始まりました
夏休みが終わり、新学期の始業式の日がやって来た。
イナとフウは約十日ぶりの制服に袖を通し、いつものように家の前で待ち合わせをして学校へと向かった。
「おはよー!今日からまた学校だね!」
「おはようございます。朝から元気ですね」
新学期早々にフウはウキウキしていた。
というのも、自分が最も輝ける学校行事である体育祭が近く控えているのをつい先日知ったからである。
新学期初日の教室に入ると、そこには一学期と変わらぬ様子のクラスメイトたちの姿があった。
「おっはよー!みんな元気してたー?」
フウは教室に入るなり元気な声で挨拶をしながらクラスメイトのグループの中に入り込んでいった。
イナは先に席に着くとクラスメイトと明るく会話をするフウの姿をそっと見守るように眺めた。
フウがクラスメイトと会話を弾ませているところへ担任のウィズが入ってきた。
クラスメイトたちはそれぞれの席に着き、ウィズの一声を待つ。
「おはようございます。皆さんが何事もなく出席してくれて何よりです」
ウィズは抑揚に欠けた声で新学期の挨拶をした。
それから体育館に移動し、数十分程度の始業式を経たイナたちは教室に戻るとレクリエーションを始めた。
内容は提出課題の回収と体育祭の参加種目決めである。
「先生ー!一人何種目まで出られるんですかー?」
フウは種目決めが始まるや否や開口一番にウィズに質問した。
「参加種目は一人三種目まで、騎馬戦と仮装リレー以外のリレー競技の掛け持ちはできません」
ウィズは体育祭のルールをフウに説明した。
アステリアの体育祭は学年クラス別の対抗戦になっており、参加種目の掛け持ちができるようになっている。
「フウちゃんがいれば女子は百人力だなー」
「でも三種目までしか出られないし、どこに出てくれるかなー」
クラスメイトの女子たちは早くもフウの活躍に期待を寄せている。
先の体力テストでも他を凌駕する成績を見せたこともあり、早くもエースのような扱いをされていた。
「うーん、どれに出ようか悩むなー」
フウは黒板に書き出された種目を見ながら唸った。
百メートル走、走り幅跳び、玉入れなど定番の競技や借り物競走、仮装リレーなどのユニークな競技まで幅広く揃っている。
三つ参加することを大前提としてフウは大いに悩んだ。
(どこに参加しましょうか……)
フウとは別にイナも参加種目で大いに悩んでいた。
彼女は運動が苦手というほどではないがキツネ族としては運動面でやや鈍臭いきらいがある。
悩んでいるうちにあれよあれよとクラスメイトの参加競技が決まっていくがイナはそこに割り込むようなことはできなかった。
「ねえイナっち、仮装リレーっていうの面白そうじゃない?」
フウは後ろを振り向いてイナに耳打ちした。
どうやらフウは仮装リレーに興味があるようであったがイナは無言で首を小刻みに横に張った。
仮装リレーは競技としての加点がない所謂茶番だが仮装して走るという性質から参加者が非常に目立つ。
大々的に目立つことをよしとしないイナには見過ごせない問題であった。
「ウチも一緒にやるって言ってもダメ?」
フウは二人で参加する旨の誘いをかけた。
仮装リレーの参加者は四名であり、まだ誰も立候補していないため余裕はある。
「フウさんはいいんですか?」
「まだ二つ出られるし別にいいっしょ。はいはーい!ウチとイナっちで仮装リレー出まーす!」
フウはイナの懸念を一蹴するとイナを巻き込んで仮装リレーへの参加に立候補した。
普段積極的に目立とうとしないイナと競技に期待をかけられているフウ、二人が同時に立候補したことでクラスメイトは大いにざわつく。
結局誰も反対しなかったためにイナは仮装リレーに参加することになった。
イナは仮装リレーのみ、フウは仮装リレーと走り幅跳びと騎馬戦の三種目への参加である。
レクリエーションの時間は終わり、昼前に放課後を迎えて解散の運びとなった。
「いやー楽しみだなー」
「仮装って何をすれば……」
「姫ちゃんに相談してみようよ。多分衣装貸してくれるよ」
イナとフウは仮装リレーのことでエリカに相談することにした。
サブカルチャーに詳しいエリカなら何か力を貸してくれると見込んだのである。
こうして、イナは二学期の開始早々に波乱に巻き込まれることになったのであった。




