なんで同感してるんですか
温泉で湯当たりを起こしたイナたちは湯から引き上げると更衣室で伸び上がっていた。
そんな三人の姿をツバキは遠目から呆れたように見ている。
「なにやってるのさ三人とも」
「ちょっと浮かれ過ぎたみたい……」
天井を仰いだままエリカが呟く。
ツバキはそれに対して特に反応はせず更衣室の脇にある自販機にお金を入れた。
「ほい。これでも飲んで熱冷ましとき」
「うーん。ごめん」
「すみませーん」
「ありがとうございます……」
ツバキは伸びている三人の頬に自販機で購入したビン入りのフルーツオレを押し当てるとそれをそのまま与えた。
三人は上体を起こしてフルーツオレの栓を抜き、グイっと煽るように飲み干した。
「ふぅー、冷た……」
「火照った身体に染みるなー」
そんなこんなで三人は頭を冷やし、ツバキと一緒に部屋に戻るとそのままベッドの上に寝転がった。
ふかふかのシーツに触れたことで昼間の疲れがどっと押し寄せてくる。
イナがベッドの上でうとうとしかかっていると、隣のベッドでフウとエリカはすでに寝始めていた。
エリカは静かに寝息を立てており、対するフウは豪快にいびきをかいている。
その姿には二人の育ちの違いが如実に表れていた。
「いびきすっご」
イナに押し寄せていた眠気はフウのいびきによって吹き飛ばされた。
ツバキはカメラを回しながらその様子を面白がっている。
イナはツバキに背を向けるように姿勢を変えると眠りに落ちるのを待つように瞼を閉じた。
それからしばらくが経ち、イナはふと目を覚ました。
枕元に置いていた携帯を手に取って時刻を確認すると午前三時、外は真っ暗で朝というには早すぎる時間でホテル内の施設も何も営業していない。
時間が時間であるが故に流石のツバキといえどもベッドで眠っていた。
そんな中でイナは自分の背に何かが圧し掛かっているような感覚を覚えた。
首を回して後ろを確認すると、そこにはなぜかフウの身体があった。
彼女はどういうわけかイナのベッドの中に入り込んでいたのである。
(ベッドは離れているのにどうして……)
イナは理解できなかった。
隣同士とはいえベッドそのものは離れているため、寝相どうこうではない。
どこかのタイミングで目を覚まして忍び込んできたとしか考えられなかった。
冷房が効いているとはいえ季節はまだ夏、密着されると寝苦しくてならなかったためイナはフウに譲歩してベッドを抜け出し、元々フウが寝ていた空っぽのベッドに移り変わった。
(フウさんのシャンプーの匂いがする……)
フウが寝ていたベッドに身を移したイナは枕から仄かにフウが使用しているシャンプーの匂いを感じ取った。
イナはなんとも言えない背徳感に気分が高揚し、枕に顔を埋めると尻尾でシーツをペシペシと叩いた。
そしていつのまにか二度目の眠りに落ち、イナが再び目を覚ました時には午前六時。
日が出てきて空がぼんやりと明るくなりかけていた。
(どうしてこうなっているんですか)
イナは今の状況に困惑していた。
というのもさっきまで自分のベッドに入り込んできていたフウがどういうわけか戻ってきているのに加え、今回は元々フウの隣で寝ていたエリカまで同衾してきていたためである。
とはいえあくまで同衾していただけであり、それ以上のことをされた形跡はなにもない。
ツバキは寝相でこちらに背を向けるような姿勢になってまだ寝息を立てていた。
イナは両脇で寝ているフウとエリカを起こさないようにそっとベッドを抜けると朝の身支度をするべく備え付けの洗面所に向かった。
洗面所にある鏡を見たイナはそこで衝撃的なものを見てしまった。
自分の首の付け根にうっすらと歯形がついていたのである。
しかも右と左、それぞれにつけられており、その大きさも微妙に異なる。
寝ぼけていたのかそれとも意図的か、フウとエリカがそれぞれ甘噛みで歯形をつけてきたようであった。
歯形の位置は絶妙に悪く、首元を隠せるものを何も持っていなかったためどうしてもそれが露出してしまう形になってしまっていた。
(まったくあの二人は……起きたらなんと言ってあげましょうか)
イナはこの後フウとエリカにかける言葉を考えながら一足早い身支度に勤しむのであった。




