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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
私とあの子の夏休み
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助けてお母さん!

 昼下がりを過ぎて日が沈みかけてきた頃、イナたちは海での遊びを切り上げて普通の服に着替え直し、宿泊先のホテルにやってきた。


 「うおー!海が見えるー!」


 チェックインを終え、部屋に荷物を置いたフウはテラスから海を眺めて大興奮であった。

 温泉付きで部屋の奥にある展望テラスから海が一望できるリゾートホテルだが今のイナはそれを素直に堪能することができなかった。


 (わ、私を狙ってる人が三人もいる……)


 イナは自分に好意を寄せている人物がすぐ近くに三人もいることに戦慄した。

 というのも、恋人のフウと後輩のエリカはともかくとして引率者であるはずのツバキが自分のことを肉体的にも狙おうとしていることが判明してしまい気が気ではない。

 人生経験において年齢分の差があるツバキ相手では立ち回りで後れを取ってしまう。

 もしそんな彼女がフウとエリカを唆して三人で結託しようものならいよいよ本格的に危機である。


 そんなところへ、イナに一通の電話がかかってきた。

 着信は母からであった。


 「すみません。電話かかって来たから少し席を外します」


 イナはフウたちに断りを入れると部屋を出て一人エントランスロビーに身を移した。

 一人掛けのソファに腰を下ろすと着信に応じ、通話を始めた。


 「もしもし?どうしたの?」

 『イナのことが心配になって電話しちゃった』


 イナは母は旅行に行っている娘のことが心配で電話をかけてきたようであった。

 イナはこれまで学校行事ぐらいでしか親元を離れたことがなかったためなおのことであった。


 「大丈夫だよ」

 『そう?ならいいんだけど』


 イナがありのままに現状を伝えると母は笑いを含んだ声を聴かせた。

 その声を聴いたイナは電話の向こうで母が笑っている姿を見る。


 「ねえお母さん。一つ聞いてもいいかな?」

 『どうしたの?』

 「もし自分のことを好きな人が近くに三人もいたら、お母さんならどうする?」


 イナは母に疑問を投げかけた。

 もちろん自分の置かれている状況であるということは内緒である。


 『そうだなー。一人だけ本命の子を決めて、他の二人とは遊びで付き合ってみちゃうかな』

 「えっ、お母さん?」


 母からの返答にイナは思わず耳を疑った。

 というのも、これまで自分の前では父に一途なところしか見せて来なかった母とは思えない発現だったためである。


 『イナには話してなかったけどね。お母さんもナぐらいの歳の頃は昔はいろんな子に追っかけられてたし、全員と遊んでたんだから』

 「えっ、えっ、えっ」

 『もちろん本命はお父さんだし、一線を越えるようなことはしてないから安心して』


 イナの母はこれまで明かしてこなかった自分の過去を娘に明かした。

 フォローがフォローになっておらず、イナはますます理解が追い付かなくなる。


 『イナが今までこういうことしてこなかったからどうしようかと心配してたんだけど、イナもそういうことするようになってお母さんとしてはホッとしたわ』

 「待って、お母さん、質問の答えが聞けてないんだけど」


 イナは母に答えを求めた。

 このままではツバキに迫られたときに為す術がなく、人生経験という面で一日の長がある母に頼るほかなかったのである。


 『三人の内一人はフウちゃんだとして……あと二人はどんな子なの?』

 「二人目は同じ学校の後輩でちょっと気が弱いけどお金持ちのライオン族、三人目はその子のお姉さんで大人の人。中でも三人目が結構危なくて……」

 『大人の人ならきっと弁えてるはずよ。貴方はまだ高校生、子供なんだから』


 イナの母は大人の視点から至極真っ当なアドバイスを送った。

 いくらツバキが大人であるとはいえ、未成年であるイナに本気で手を出せば大問題である。

 顔を売る仕事であるストリーマーのツバキであればそこは常に意識するべき問題であり、イナはすっかりそれを見落としていた。


 「あ、うん、そうだよね」

 『だから安心して。そんなに身構えずに、三人に追っかけられてる自分を誇りなさい。自分はライオン族とトラ族を虜にできるすごい女なんだって』


 イナの母は娘を激励するメッセージを送った。

 どうすればいいのか、具体的なアドバイスは何一つとしてないが、それでも母に背を支えてもらえるというだけでイナには十分な安心感が与えられた。


 「なんか気が軽くなったよ。ありがと、お母さん」

 『何かあったらその時はお母さんが助けてあげるから。目いっぱい楽しんでおいで』

 「うん。帰ったらお土産渡すね」

 『うんうん。じゃあね』


 母は娘の元気そうな声を聴いて満足し、自ら通話を切った。

 母の言葉に背を押され、自己肯定感を得たイナは携帯をポケットにしまうとホテルの部屋へと戻っていくのであった。


 

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