自然体が一番キラキラして見えます
昼食後もイナたちはイケスタ映えする写真を求めて街を歩いていた。
「マンガとか買う?」
「気になったものは姫ちゃんに言えば大体貸してもらえるので……」
「じゃあ映画でも観ますか?」
「今は気になるものがないんですよね」
フウとエリカは映えそうなものを次々と提案するがイナはそれらを申し訳なさそうに遠慮した。
求めるものとイナにとっての重要性が悉く噛み合わない。
「新しい服!って言ってもこの前買ったばっかだしなー」
「先輩的にはあんまりお金もかけたくないでしょうし……」
フウとエリカは大いに悩まされた。
基本的に物欲が少なく、少食で金銭面にあまり余裕のないイナとイケスタにおける『映え』は根本的に相性が悪かったのである。
「なんだか申し訳ないです」
「気にしないでください。先輩のせいじゃありませんから」
イナが気まずそうに謝るとエリカがフォローを入れた。
そんな一方でフウはなんとしてもイナにイケスタへの投稿をやってもらいたくてならなかった。
「じゃあイナっちの行きたいところ行こ!どこに行きたい?」
「デリトレ……ですかね」
フウがヤケクソ気味に尋ねるとイナは上を見て首を傾げながら答えた。
今の彼女は特にどこかに行きたいといった欲はなかったため、強いてあげるとするなら好物のドーナツがあるデリトレであった。
そんなこんなでイナたちはデリトレへとやって来ると早速イナがトレーとトングを手に品選びを始めた。
特にキャンペーンなどは開催されておらず、期間限定メニューが通常価格で展開されているのみだが彼女にとってはお構いなしである。
そんなイナの姿をフウとエリカはフードコートの一角から眺めていた。
「先輩、本当にここのドーナツ好きですよね」
「ねー。目がキラキラしてるもん」
フウとエリカはフードコートでイナを待ちながら駄弁っていた。
ドーナツを吟味するイナの目は輝いており、言葉にせずとも彼女がドーナツを愛していることがひしひしと伝わってくる。
数分後、会計を済ませたイナが小さな紙袋を持ってフウたちと合流した。
「お待たせしました。これならいい写真が撮れる気がします」
イナはそういうと紙袋からドーナツを一つ取り出して紙袋の前に添えた。
そのまま携帯を手にしてカメラを起動すると迷いなくシャッターを切る。
「どうですか?上手く撮れてますか?」
「いいですね」
「超センスあると思う」
イナの撮った写真を見たエリカとフウはそれを称賛した。
それと同時に二人の中でとある共通の考えが過る。
(構図が宣材写真のそれだ!)
イナが撮ったドーナツの写真は広告やテレビCMで見る商品の宣材写真とそっくりであった。
彼女は以前からデリトレのイケスタアカウントをフォローしているため、そこに投稿されていた写真を模倣したのだと想像できた。
だが何も加工していないにも関わらずその完成度を見せるイナのセンスには驚かされるばかりであった。
「メッセージはどうすればいいですか?」
「初めて投稿するなら軽い自己紹介とか挨拶が鉄板だねー」
「好きなものとかをメッセージに載せると同じ趣味の人と繋がりやすくなりますよ」
フウとエリカはアドバイスを送り、イナはそれを参考にメッセージを作成する。
『デリトレのドーナツが好きです。よろしくお願いします』
軽い試行錯誤の結果、イナのイケスタへの初投稿はドーナツの写真を添えたシンプルなものとなった。
絵文字や顔文字もなければ写真の加工すら一切ない、飾り気の一つすら感じないそれは一周回って無駄のない美しさすら感じさせ、その奥からは溢れんばかりの愛が詰まったキラキラが見えるようであった。
「なんというか、まぁ……」
「先輩らしいですよね」
フウとエリカはイナの初めての投稿を確認すると顔を見合わせて苦笑いをした。
イナはというとやりきったように満足げな表情を浮かべている。
その日、イナの初めてのSNSへの投稿に二件のリアクションがついたのであった。




