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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
私とあの子の夏休み
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これが『映え』なんですか?

 フウとエリカに連れ出され、イナは校外に出ていた。

 時刻はちょうど昼、ランチの頃合いであった。


 「どっかお昼食べてこ」

 「賛成です。どこに行きますか?」

 「うーん……そこ!」


 フウは周囲を見回すと目についた飲食店へと突撃していった。

 イナとエリカが後についていくと、そこにはカウンター席のラーメン屋があった。

 二人が合流した頃にはすでにフウは店の入り口前の券売機で品定めをしていた。

 店の入り口からはスープの濃厚な匂いが漂っており、フウとエリカは食欲をそそられる。


 「よし決めた!」

 「ボ、ボクも……」


 フウは声高に宣言すると券売機にお金を入れて食べるものを決めた。

 エリカも便乗する形で券売機にお金を入れる。


 (じゃあ私はこれで……)


 イナは少し悩んだ末に券売機にお金を入れた。

 普段利用している学食の倍以上の金額を費やし、無難そうなものをチョイスする。

 注文を揃えた三人は店に入ると店員に券を渡し、三人並んでカウンター席に座って品物を待った。


 「姫ちゃんもこういうの食べるの?」

 「ラーメンはオタクの主食です!一回ここに来てみたかったんですけど学校のみんなと一緒だとなかなか行けなくて」


 エリカは本来脂っこいものやジャンクフードを好む性分であるがクラスメイトの前では清楚なキャラクターで通っているため、こういったラーメン屋には足を運びにくいというジレンマがあった。

 それが今回念願叶う形となり、期待に胸を躍らせていた。


 イナは他の席で食事をしている客たちの様子を観察していた。

 客たちは黙々と手を動かし、ラーメンを一心不乱に食している。

 その光景は『食事』というよりは『戦い』であり、イナの目には異様に見えた。


 数分の待ち時間を経てイナたちの席に品物が運ばれてきた。

 イナの席にはあっさりとした塩味のラーメンが、フウとエリカの席には具材が大量に盛られたラーメンが置かれた。

 とりわけフウの器はチャーシューと野菜が山のように積まれており、最早ラーメンと呼んでいいのかわからないような代物となっていた。


 「うおー!そそるなぁ!」

 

 フウは携帯を取り出すとラーメンの写真を撮った。

 そしてすぐさま携帯をしまい、割り箸を手に取ると山のように盛られた野菜から手をつけ始めた。


 「それ、本当にラーメンなんですか?」

 「もちろん、野菜チャーシューマシマシだよ」


 イナが恐る恐る尋ねるとフウは嬉々としてそう答えた。

 その間にもイナなら見ただけで胸焼けを起こしそうな量のチャーシューと野菜が吸い込まれるようにフウの口の中に消えていく。

 イナはそういうものなのだと解釈し、それ以上は聞かずに自分のラーメンに手をつけた。


 ラーメンを半分ほど食べ進めたところでイナはふとエリカの方が気になり、彼女の方を覗いてみると彼女は目を見開いて一心不乱にラーメンを啜っていた。

 山のように盛られていた具材はすでにほとんど消えており、比較的華奢な体型とは明らかに不釣り合いなほど大きな一口で麺を吸い込んでいる。

 食べる勢いは一切衰えず、普段のおっとりした挙動からは想像もできない食欲であった。

 その様は皆が思う浮かべる一般的なライオン族の姿そのものであり、彼女もまたライオン族であることを認識させるには十分なインパクトがあった。


 イナが半分を食べ終えたころ、フウとエリカが両脇から覗き込んできた。

 彼女たちはすでに自分の分を食べ終えており、イナの方が気になって見てきたのである。


 「イナっち食べきれそう?ウチが食べてあげよっか?」

 「ボクもまだ少し余裕ありますのでよければ……」


 フウは物欲しそうな目をしながらイナに尋ねかけ、エリカは口元を拭いながら遠慮がちに囁いた。

 二人はイナが自分たちと比べて小食であることを知っているため、普通の量を食べきれるかどうかを不安視していた。

 そんな二人の心配とは裏腹にイナはただ食べるのが遅いだけであり、自力で完食できる見込み自体はあった。


 それから数分後、イナはようやくラーメンを食べ終えた。

 その両脇ではフウとエリカが携帯をいじりながらイナの完食を待っていた。


 「お待たせしました」

 「オッケー。じゃあ出よっか!」

 「ごちそうさまでした」


 三人は口元を拭って食べ跡を消すと揃って店を出た。

 店を出てからもなおフウは携帯をいじっている。


 「前見ないと危ないですよ」

 「見てみーイナっち。これ『映えてる』っしょー」


 フウは道の脇に身を移して足を止めると携帯の画面をイナに見せた。

 画面にはついさっき食べていたラーメンの運ばれてきたときの画像を添えた投稿と完食後のスープの残りだけが入った写真が添えられた投稿が別々に並んでいた。


 『今日のお昼はこれ!いっぱい食べるぞー!』

 『完食!』


 イナはイケスタでフウの投稿を確認すると投稿には簡潔なメッセージが添えられていた。

 その投稿の間隔はわずか十数分、すでにクラスメイトたちからのリアクションが付いており、コメントも数件寄せられている。

 それと同時にエリカの裏アカウントでも同様の投稿があったのが確認できた。


 『油!ニンニク!チャーシュー!カロリー爆弾でオタクエネルギーをドカ盛りチャージ!やっぱラーメンしか勝たん!』


 エリカの投稿内容はイナから見れば相変わらず意味不明な文面であった。

 イナからの視線に気づいたエリカは無言で俯いてモジモジしている。


 「これが『映え』なんですか?」

 「そう。山盛りの食べ物って映えやすいんだよねー」

 「普通なら女の子だとラーメンとかの画像は敬遠しやすいんですけど、ボクらライオン族やトラ族はなぜか許されちゃうんですよ」


 フウが映えについて教えるとエリカが横から捕捉を入れた。

 女子の間ではスイーツ以外の高カロリーな食べ物の写真を載せる投稿を避ける傾向にあるが殊ライオン族やトラ族に限っては例外であり、逆に流石と持て囃される。

 さながら強者の特権であった。


 「それだと私がラーメンの写真を載せるのってよくないんじゃないですか?」

 「あ、確かに」


 イナが何気なく尋ねるとフウはハッとしたような表情でそう言った。

 山盛りの食べ物に関しては小食なイナにとっては敷居が高く、自分が種族故の特権を振りかざしていたことに気づいていなかったようである。


 「あはは……」

 「仕方ない。なら次の映えを探しに行くぞー!」


 イナが苦笑いをするとフウは気を取り直して次なるスポットへと向かうのであった。

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