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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
私とあの子の夏休み
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SNSを教えてもらいました

 夏休み二回目の登校日。

 午前中でその日のカリキュラムを終えて放課後を迎えたイナとフウは同じく放課後を迎えたエリカを呼んでアステリアの食堂に集合していた。

 

 「先輩、借りてたこれお返しします」


 エリカはバッグから文庫本を取り出すとそれをイナに返却した。

 イナはそれを受け取ると自分のバッグの隅にしまう。


 そんなやり取りをしている横でフウは携帯をいじって何かをチェックしていた。

 彼女が見ているものに興味を抱いたイナはフウの手元を覗き込む。


 「どしたん?」

 「いえ、何を見てるのかなーって」

 「あー、友達のイケスタだよ」


 フウはイナの顔を見ながら説明をした。

 イケスタとはイケイケスタジオの略称であり、匿名性のSNSである。

 アカウントを使用して写真を添えたメッセージを投稿するサイトであり、それを見た他のユーザーがコメントやリアクションをつけたりさらに他のアカウントに向けて拡散したりできるのが特徴である。

 フウはクラスメイトのイケスタを巡回しており、そこに既読感覚でリアクションをつけていた。


 「そういえばイナっちってイケスタのアカウント持ってないの?」

 「一応ありますよ。なにも投稿はしてませんが……」


 イナはそういうと自分の携帯でイケスタを開き、自分のアカウントにログインした。

 そこには一切プロフィールの編集が行われていない初期状態同然のシンプルなアカウントがあった。

 フウは自分の画面そっちのけでイナのアカウントを覗き込み、エリカも反対の傍から画面を見た。


 「うわすご、フォロー数一って誰?」

 

 フウは脇から手を伸ばすと画面を操作してイナがフォローしているアカウントを確認した。


 『デリシャストレジャー オフィシャルアカウント』


 イナがイケスタで唯一フォローしているアカウント、それはデリシャストレジャーの公式アカウントであった。

 発売中の商品を宣伝したり、キャンペーンや新発売の商品の告知を行うシンプルな企業アカウントである。


 「たまに開くとドーナツがいっぱいで……うふふ」


 イナはデリトレのアカウントをフォローしている理由をフウとリカに明かした。

 デリトレのドーナツが好きなイナらしいチョイスにイナとエリカはふと口元を綻ばせた。


 「せっかくだからウチのアカウントもフォローしてよー」

 「あっ」


 フウはイナの携帯を操作して自分のアカウントをフォローさせるとすぐにイナに返却した。

 イナは手元に返された携帯を操作し、画面に映ったフウのアカウントの投稿を確認する。

 そこには日常の一部を切り取ったような写真と共に日記のような投稿が綴られていた。


 「あの、ボクのアカウントもよければ」


 イナとフウのやり取りをじっと見ていたエリカが二人の間に割り込むように話に混ざってきた。

 イナはエリカに彼女のアカウントを教えてもらい、それをフォローした。

 エリカのアカウントはゲーム画面のスクリーンショットやアニメグッズの写真と共に聞きなれない単語が羅列された投稿が無数にされており、イナはそれを理解できずに首を傾げる。


 「姫ちゃん、これってどういう意味ですか?」

 「うわーっ!アカウント間違えました!」


 イナに投稿されたメッセージの意味を尋ねられたエリカは取り乱して大声を上げると慌ててもう一つのアカウントにログインし直した。

 彼女は二つのアカウントを持っており、知り合いとつながる用のメインアカウントを教えるつもりが誤ってもう片方の趣味用のサブアカウントを教えてしまったのである。


 「へー、姫ちゃんってサブ垢持ってるんだ」

 「サブ垢って何ですか?」

 「アカウントを複数作って用途に応じて使い分ける人がいるんだよ。知り合いに教える用の日常のことを投稿するメイン垢と趣味のことを投稿するサブ垢みたいな感じで」


 フウがイナにSNS用語を解説した。

 日頃からSNSを使いこなすフウとは対照的にイナはそういった方面への知識にかなり疎いため、勉強感覚で解説を聞きかじる。


 「その、リムらなくてもいいのでこっちの方は周りの皆には内緒にしてもらえませんか?」

 

 エリカは顔を真っ赤にしながらイナに念を押した。

 彼女は自身のオタク趣味を同級生たちには隠しており、それを知られることを恐れていた。

 

 「内緒にするも何も、教えるつもりもありませんよ」

 「本当ですか?よかったぁ……」


 イナはリムるの意味を理解できずすっとぼけたことを口走るとエリカは安堵で胸をなでおろした。

 良くも悪くもSNSへの理解に乏しいイナには他人のアカウントを誰かを教えようという発想は微塵もなかった。

 

 「イナっちも何か投稿してみなよー」

 「投稿ってどうやるんですか?」


 フウが記念に投稿を促してみるとイナは画面を見ながら首を傾げた。

 彼女がイケスタの運用方法について理解しているのはデリトレで時折発生するキャンペーンで利用する拡散のやり方ぐらいであり、自分で投稿する方法すら覚えていなかった。


 「今時SNSの使い方をここまで知らない高校生なんて珍しいですよ」

 「まさかこんな身近にいたとは……」


 フウとエリカはイナのあまりの無知ぶりに戦慄した。

 だがそれはそれとしてフウがイケスタへの投稿のやり方をイナに教える。

 イナは当たり障りのない挨拶をすることにしたが


 「ここに上げられる写真なんてありませんよ」

 「マジ?本当に?」

 「ちょっと見せてもらってもいいですか?」


 投稿する写真に迷うイナを疑うようにフウとエリカはイナの携帯の写真フォルダを覗いた。

 

 「うーん……確かにこれは」

 「イケスタに上げるには微妙ですね」

 「私、そんなに写真センスないですか……?」

 「いや、そんなことはないよ。ただSNSに載せるにはちょっと物足りないなーってだけで」


 フォルダにはところどころで撮影したであろう風景の写真やフウから送ってもらった写真が保存されており、確かに投稿映えするようなものは見当たらない。

 イナは自分の撮影が下手だからなのかと不安がるがそこはフウがすかさずフォローする。


 「よーし。じゃあ『映える』写真を撮りに行こー!」


 フウはフォルダの中から写真を選ぶことを諦め、『イケスタ映え』する写真を撮るべくイナを連れてエリカと共に学校の外へと繰り出したのであった。

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