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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
私とあの子の夏休み
56/79

綺麗な花火でした

 イナとフウは二人で花火大会の会場を歩く。

 フウは初めて見る屋台の前で都度足を止め、それが食べ物であれば迷いなく購入していく。

 花火の打ち上げが始まるまであと数十分、気づけばフウの食べ歩きとそれに付き合うイナという構図が出来上がっていた。


 「そんなに食べてたら太りますよ」

 「んー、じゃあ明日はジムで身体動かすかぁ」


 フウはりんご飴を齧りながら思いつきで明日の予定を立てた。

 彼女のアスリートっぽい体型も日々の食事と運動で作られたというのも納得である。


 花火が打ち上がるまであと十数分、会場内の人々は見栄えの良いスポットを探して移動を始めた。

 もっともよく見えるのは境内の中央であり、人々はそこを中心にごった返している。


 「ウチらはどこで花火見る?」

 「それならいい場所知ってますよ」


 イナはそういうとフウをとある場所へと案内した。

 イナが最後に花火大会を訪れたのは小学校の時だが神社の周辺や内部は当時と変わっておらず、また地元民ということもあってそれなりに土地勘があった。

 

 フウを連れ、イナが足を運んだのは神社の奥の方、拝殿から少し離れた幣殿であった。

 幣殿の付近には屋台は並んでおらず、人もまず立ち入らないため賑やかな拝殿前と比べて静かで寂しい雰囲気が漂っている。

 

 「なんか静かだね」

 「ここにはあまり人が来ませんから。昔はここで家族三人で一緒に花火を眺めていました」


 イナは幼き日の家族との思い出を語った。

 そして拝殿の陰に腰を下ろすとフウを隣に誘った。


 「夜の神社ってなんか不思議な雰囲気あるよね」

 「そうですか?」


 フウはイナの隣に腰を下ろすと拝殿の向こうの賑やかな通りの方を眺めた。

 すると空に何かが打ち上がり、人々は皆上を見上げる。

 ついに花火の打ち上がる時間がやってきたのである。


 花火はどんどん高く登っていき、空で弾けて炸裂音と共に赤青黄色、青に緑にと鮮やかに夜空を彩る。 

 最もよく見える場所と比べて花火は小さく見えるものの、全体をばっちりと一望することができた。


 「おー!マジきれー!」


 フウは花火を眺めながら携帯で花火を撮影しだした。

 イナはそんなフウの様子をニコニコしながら見守っている。

 

 「綺麗ですね」


 イナは花火を眺めながら幼き日の家族との記憶を思い出し、ノスタルジーに浸っていた。

 父と母に挟まれ、ここで今と変わらない花火を眺めた記憶が蘇る。

 そんな彼女を見たフウはぴったりと横にくっついてきた。


 「近すぎですよ」

 「やっぱ花火よりイナっちの目の方が綺麗だなーって思って」


 フウはイナに口説き文句を送った。

 センシティブなことに関しては奥手な彼女だが好意のアピールに関しては出会った頃からずっと積極的である。

 フウはイナの頬に手を添えてじっと瞳を見つめた。

 暗がりの中でわずかな月光と花火の閃光が眼鏡のレンズ越しにイナのダークゴールドの瞳を照らし、普段と違う妖しげな雰囲気を醸し出す。


 「なんというかその……したくなっちゃった」

 「花火はいいんですか?」

 「今はイナっちの気分」


 イナに訊ねられたフウはそう言うと目を細めた。

 彼女はすでにイナとキスをしたいという欲求で頭がいっぱいであった。

 そんなフウをイナは小さな腕で抱き寄せる。


 「どうぞ」

 「んっ……」


 イナに促されるがままにフウは瞼を閉じてイナと唇を重ねた。

 対するイナも静かに瞼を閉じてフウに身を寄せ、彼女に身を委ねると互いを求めあうように二人だけの世界に入り浸る。

 視界は瞼で遮り、花火の炸裂音と拝殿の向こうの人々の喧騒しか聞こえてこない。

 

 「イナっちの口、甘い味がするね」

 「そりゃあさっき綿あめ食べてましたから。そういうフウさんもりんご飴の味がしましたよ」


 フウはキスの味をイナに伝えた。

 二人は直前に甘いものを食べていたこともあり、口の中は飴の味でいっぱいであった。


 「上手になりましたね」

 「そうかなー?えへへ」


 イナはフウのキスが上達していることを感じ、それを本人に伝えた。

 するとフウは照れくさそうに笑った。


 「なんだかいけないことしてるみたい」

 「私たち、罰当たりかもしれませんね」


 フウが言葉にしがたい背徳感を感じているとイナがそれに便乗してクスクスと笑う。

 その間も花火は打ち上がり続け、観衆はそれに歓喜の声を上げる。


 「花火、最後まで見よ」

 「はい」


 イナとフウは幣殿の裏から最後の一発が打ち上がるまで花火を眺め続けた。

 こうして、イナの中にある花火大会の思い出に新しい一ページが追加されたのであった。

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