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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
私とあの子の夏休み
52/79

姫ちゃんを見つめてみました

 エリカと通話をした翌日。

 イナはエリカと顔を合わせて喫茶店に訪れていた。

 特に予定も立てず、喫茶店の席の一角でまったりと時間を過ごしている。


 「ありがとうございます。帰ったら早速読みますね」

 

 エリカはイナから昨夜話していた本を受け取るとそれをバッグに納めた。


 要件を済ませた後のイナとエリカはだらだらと談笑していた。

 昨夜の通話の延長線のような内容である。

 

 そんな最中、イナはふとエリカの顔に注目した。

 今日は明るい金髪を編み込まずに後ろで二つ結びにしており、目尻のやや下がった垂れ目の奥には髪色とは相対的な茶色の瞳が覗く。

 控えめな体型も相まってまるで人形のような容姿であり、周囲から姫ちゃんと呼ばれるのも改めて納得であった。


 「あの、ボクの顔に何かついてますか?」

 「いいえ。姫ちゃんって可愛いなーって思ってただけです」

 「冗談はよしてくださいよ」


 イナが揶揄うようにそう言うとエリカは謙遜するような態度を見せた。

 そんな彼女を見たイナはこのまま見つめ続けたら最終的にどんな反応を見せるのだろうかと好奇心をそそられた。


 「先輩、そんなにじっと見られても……」

 「いけませんか?」

 「そんなことはないですけど」


 イナが視線を向け続けるとエリカは気まずそうに目を逸らしたり俯いたり目まぐるしくリアクションを見せた。

 フウであれば嬉々として見つめ返したりしてくるのだろうが根が内気なエリカにそんなことはできない。

 

 「うぅ……そんなに見ないでください……」

 

 エリカは顔を隠すように俯いてモジモジしながらイナに懇願してきた。

 そのリアクションがイナにとっては面白くて仕方がない。

 イナはここで褒め殺しをすることにした。


 「可愛いですよ姫ちゃん」

 「あうぅ……」


 エリカは俯いたまま小刻みに震えだした。

 ライオン族らしからぬあまりに小動物じみた挙動にイナの中で何か邪ないたずら心が芽生えかける。


 「髪も綺麗で、目もくりくりってしてて、ちょっと褒めるとすぐもじもじしちゃうところもとっても可愛らしいです。お人形さんみたい、毎日でも傍に置いて可愛がってあげたいぐらいです」

 「も、もういいですよぉ……」


 イナはエリカの隣に回り込み、耳元でそっと息を吹きかけるように囁いた。

 エリカは喜びと羞恥心と興奮が入り混じって情緒がぐちゃぐちゃになり、何も言えなくなってしまっていた。


 イナがエリカの反応で遊んでいるところに一件の通話の着信が入った。

 送り主はスミであった。

 

 「ちょっと失礼します」


 イナはいじりを切り上げ、エリカに一言断りを入れて携帯を手に取ると通話に応じた。


 「もしもし?」

 「もしもし。アタシもうすぐ帰るんですけど、今会えますか?」


 どうやらスミはもうすぐフウの家を離れて実家に帰るようであった。

 しかしイナはすでにエリカとの一緒にいるため、すぐに戻ることはできない。

 エリカのことを蔑ろにはできないため、イナは申し訳なさを感じつつも断ることにした。


 「ごめんなさい。今日はすでに他のお友だちとお出かけしててそっちには行けないんですよ」

 「えー!?なにそれー!?」


 イナが会いに行けない旨を伝えるとスミは露骨に残念そうな反応を見せた。

 トラ族特有の大声がスピーカーから響き、その声はエリカにも聞こえてくる。


 「いつ帰ってくるの!?それまでアタシ待つ!」

 「スミちゃん、もう迎えくるからそれはダメ」

 「むぅ」


 スミはイナに会おうと無茶を言い出すがフウが横からそれを咎めた。

 流石にフウには逆らえないのか、スミは不満げな声を漏らす。

 スミが電話の向こうでふくれっ面をしているのがイナには容易に想像できた。


 「じゃあここでバイバイって言って」

 「それでいいんですか?じゃあ、バイバイ。また遊びに来てくださいね」

 「うん!今度はお正月ぐらいに行くね!」


 イナから電話越しに挨拶をもらったスミは妥協しつつも満足げに次の来訪予定を伝えるとそのまま通話を切った。

 会話の一部始終をエリカは呆然としながら聞いていた。


 「誰だったんですか今の」

 「フウさんの従妹の子です。夏休みで遊びに来てたんですよ」

 「へぇ……まあなんとなくそんな気はしましたけど」


 イナが説明するとエリカはやはりそうだったかと言わんばかりのため息をついた。

 電話越しの声の大きさから恐らくトラ族だろうと容易に推定できたがまさかフウの親族だとは思いもよらなかった。


 「先輩ってフウ先輩の親族から好かれる何かでも持ってるんですか?」

 「うーん……どうなんでしょうね。確かに家族ぐるみでよくしてもらってはいますが」


 エリカは率直な疑問を呈すがイナは首を傾げるばかりであった。

 というのも、その答えは彼女自身も知らないからである。


 「結構いい時間になっちゃいましたね。お昼どうしますか?」

 「せっかくだからここで食べていきましょうか」


 気づけば時刻はお昼に差し掛かろうとしていた。

 イナとエリカはここで昼食をとって解散することにしたのであった。

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