家同士のお付き合いです
バーベキューの当日、イナとフウはスミを連れて三人で買い出しに訪れていた。
「ここってデリトレでしょ?スーパーじゃなくない?」
「ちょっと寄り道するだけー」
三人はスーパーを通り過ぎてデリトレに足を運んでいた。
フウがイナにドーナツを奢るという約束を果たすためである。
「へー、今セールやってるの?」
「期限明日までなので運が良かったですね」
デリトレは現在三つ購入で割引になるキャンペーン期間であった。
「イナっちはプレーンでしょ?スミちゃんも好きなの一個選んでいいよ」
「本当!?うーんどうしよっかなー」
「時間はありますからゆっくり選んでいいですよ」
スミはドーナツ選びに迷ってしょうひんの前で右往左往していた。
彼女もフウに似て食い意地が張っているようであった。
「うちの近くにデリトレないから食べるの初めてかもー」
「口元に食べかすが付いてますよ」
スミはデリトレのドーナツの味に舌鼓を打ち、そんな彼女の口元をイナが優しく拭き取る。
イナに兄弟姉妹はいないがスミのことはすでに妹同然に可愛がっていた。
そんな扱いにスミ自身も満更ではなかった。
「ねーウチにもそれやってー」
「高校生なんですから自分でやってくださいよ」
「えー、ケチー」
他愛もないやり取りをしながらイナたちは十分ほどデリトレに滞在してドーナツを買い食いし、それから店を出て本来のルートに戻って買い出しを済ませると一度解散し、夕方になるのを待った。
そして来る午後十八時、フウの家の庭からにぎやかな声が上がる。
それに合わせてイナの携帯にフウからのメッセージが入った。
『もうすぐ準備できるからいつでもおいでー!』
メッセージを確認したイナは母を呼び、親子でフウの家を訪ねた。
「初めまして、イナの母です。娘がいつもお世話になっておりますー」
「こちらこそ初めましてー!フウの母です!こっちはうちの亭主です」
「どうも初めまして!」
イナとフウの親たちは顔を合わせて初対面の挨拶を交わした。
親同士のやり取りを横目にイナはフウとスミが準備をしているところに合流する。
「何か手伝えることありますか?」
「じゃあお皿とコップの用意してくれる?重たいのはウチとスミちゃんでやるから」
フウは腕まくりをするとスミを連れて食材を運び込んだ。
昼間に買い出しした肉や野菜、飲み物が次々と並べられる。
「よーし!じゃあ焼くぞー!」
用意がすべて整ったところでタイガがグリルに火を点した。
着火剤に火が付き、グリルの中にくべられた炭に燃え移ってパチパチと音を立て始める。
「貴方はフウちゃんの妹?」
「いえ、従妹のスミっていいます」
「そう。スミちゃんっていうの。おばさんはイナちゃんのお母さんです」
イナの母はスミに歩み寄ると腰を少し落として視線の高さを合わせると自己紹介をした。
スミの身長はイナとさほど変わらないため、実の娘と話すのと大差ない。
(綺麗な人だなぁ……)
スミは夕闇を映し出すイナの母の瞳に目が釘付けになった。
「どうかしたの?」
「あの、えっと。綺麗な人だなーって」
「うふふ。ありがとう」
イナの母はイタズラっぽくクスクスと笑うとフウの両親とところへと合流していった。
かくして、イナ親子とフウ一家とスミの計六人でのバーベキューが始まった。
「はいスミちゃん、これどうぞー」
「ありがとうございます!」
焼き上がった肉をフウの両親から受け取ったスミは目を輝かせた。
食い意地の張り方はフウの同等かそれ以上である。
「イナっちー、あーんってやってー」
「仕方ないですね。ほら、口開けてください」
「あー……」
「いいなー、アタシもやってほしい!」
フウは友人同士でもやるであろう範疇でイナと堂々といちゃついていた。
それを見たスミが対抗心を燃やして便乗する。
「そう、旦那さん亡くされてそれから一人でイナちゃんを」
「大変だったでしょう」
「はじめはバタバタして大変でしたけど、イナも十歳である程度物事がわかる歳だったのでそこは救いでしたね」
子供たちが盛り上がっている一方、親たちは酒を交えながら互いの子育て事情について語り合っていた。
イナが母子家庭であることを知ったタイガは労いの言葉を贈る。
「お宅のイナちゃんに勉強教えてもらってうちのフウも去年より成績がよくなったみたいで、本当にありがたい限りです」
「うちのイナも、フウちゃんに勉強以外のことを教えてもらったおかげで前より明るくなってくれて。こちらも感謝しないといけません」
酒が回り出したか、大人組は普段よりもテンション高めで会話しだした。
互いに娘がそれぞれ影響を受けていることは親の目線から見ても明白である。
「イナっちもうお腹いっぱいなの?」
「ええ、お二人が食べてるところを見てるだけで十分ですよ」
バーベキュー開始から約三十分、イナはすでに満腹であった。
彼女の母も同様であるらしく、食を進める手が明らかに鈍っている。
「あんまり食べないのにおっぱいはこんなに大きくなるのか……」
「キツネ族ならこれぐらいの食欲が普通です。むしろ私たちから見ればトラ族の貴方たちが食べすぎなぐらいですよ」
フウのセクハラじみた発言を軽く流し、イナは言い分を主張した。
それを立証するかのようにフウとスミはすでにイナが口にした量の倍近くを腹の中に納めていた。
しかもまだ満足する様子がない。
「そうだ!写真撮ろう!」
フウは思い出したようにそう言うと携帯を取り出した。
スミを真ん中に置き、イナとフウで挟み込むように位置取る。
自分が真ん中に来ない集合はイナには新鮮に感じられた。
「はい、チーズ!」
フウは三人揃ったところでシャッターを切った。
子供たちの姿を彼女たちの親は微笑ましく見守る。
こうして、イナ親子とフウ一家は家ぐるみでの交流を楽しんだのであった。




