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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
私とあの子の夏休み
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姫ちゃん姉妹とばったり会いました

 フウの誕生日の翌日、イナは朝から一人デリトレへと赴いていた。

 毎年恒例の期間限定のドーナツを買いに来たのである。

  

 (今年の限定フレーバーはベイクドマンゴー!二年ぶりの復刻です……!)


 イナはデリトレの広告に掲載された限定メニューを見て意気込んでいた。

 彼女は幼少期からデリトレのドーナツが好物であり、商品の販売情報は欠かさずにチェックしている。

 今日はまさに新商品の発売日であり、それと同時に三個購入で割安になるキャンペーンも同時開催されたこともあって店内は普段より人が多かった。


 (どれにしましょう……ベイクドマンゴーとプレーンは確定ですが……)


 イナはトレーとトングを手に迷っていた。

 今回の目玉の限定品とお気に入りで二つは決まったのだが残り一つがなかなか決められない。

 

 「あれっ、先輩ですよね?」


 ドーナツ選びで迷っているイナに後ろから聞きなれた声がかかった。

 イナが振り向くと、そこにはエリカとツバキの姿があった。

 どうやら二人もドーナツを買いに来たようである。


 「姫ちゃんじゃないですか。それにツバキさんも」

 「おはよー。こんなところで会うとは奇遇だねー」


 ツバキが手を振って挨拶をする。

 その間にエリカがあらゆるドーナツを手にしたトレーに次々と盛り込んでいった。


 「ずいぶんとたくさん買うんですね」

 「次の動画の企画で全種食べるんだー。面白そうでしょ」


 ツバキは次の動画のネタにするためにデリトレのドーナツを買い込みに来ていた。

 その企画にイナはデリトレを愛する者としてつい興味をそそられた。

 

 「その動画はいつ撮影するんですか?」

 「早ければ今日の昼過ぎかな」

 「よければぜひ撮影してるところを見せてください」


 イナは食い気味にツバキに迫った。

 対するツバキは初対面で動画に関して釣れない反応をしていたイナが一転して積極的に関わろうとする姿勢を見せる現状に内心困惑していた。


 「先輩ってデリトレのドーナツ好きなんですね」

 「そうですよ。意外でしたか?」

 「そんなことありません!」


 買い物を済ませたイナはそのまま成り行きでエリカの家を訪ねた。

 今回は電車ではなく、ツバキの運転する車での来訪である。


 「デリトレを愛する者としてドーナツのオススメポイントを紹介してくれないかな」

 「お任せください。どれから聞きたいですか?」


 エリカ邸の撮影用スタジオにてイナとツバキは話し込んでいた。

 ツバキにとってデリトレのドーナツを愛するイナは今回の企画において非常に重宝できる存在であった。

 そんな二人の脇でエリカは一人で個人的に購入したドーナツを頬張っている。


 「じゃあねー、今回の限定品のベイクドマンゴーについて教えて」

 「ベイクドマンゴーはプレーンをベースにマンゴーフレーバーのチョコレートをコーティングした夏限定のメニューでして。ベースになるプレーンも通常とは異なる生地を使用しているのが特徴です」


 イナはメガネをクイっと持ち上げる仕草を取るとドーナツについて饒舌に語り倒した。

 通でなければまず知り得ないであろう情報もスラスラと飛び出し、その熱量と情報量はツバキを圧倒する。

 そしてツバキは驚異的な速度でイナが語った情報をメモに残していった。


 (本当に好きなんだな。ドーナツのこと)


 ツバキはイナの様子を見て彼女が心からドーナツを愛していることを確信した。

 というのも、彼女がドーナツについて熱く語りながら感情のままに耳をピコピコと跳ねさせる姿を見れば一目瞭然であった。


 「ねーねー。せっかくだから動画出演してくれない?」

 「すみません。それはお断りします」

 (やっぱ面白いなこの子)

  

 イナが熱くなっているところへツバキがさりげなく動画出演の誘いをかけるとイナは急に冷静に戻ってそれを断った。

 そんな彼女にツバキは興味を惹かれずにはいられなかった。


 イナはそれからしばらくエリカと遊んだ後、ツバキの送迎で家に帰ることになった。


 「先輩、今度はちゃんと予定立てて遊びましょうね」

 「そうですね。また都合が合う時に」


 別れ際、エリカはイナに約束を取り付けた。

 イナはそれを了承し、ツバキの車の助手席に乗り込んだ。


 「イナちゃんさ、やっぱ配信者に向いてるよ」

 「そうですか?私はそうは思えませんが」

 「自分の好きなことに対する熱意が突き抜けてるところが配信者向きだね。今時どんなものにもマニアっているしさ」

 

 車の中、ツバキとイナは運転席と助手席から会話を交わした。

 ツバキはイナに配信者としての素質を見出し、その道への勧誘をかけていた。

 しかしイナの答えは一貫して否定的であった。


 そんなこんな話していると、イナの家のすぐ近くまでやってきた。

 イナは徒歩数分の場所で車を停めてもらい、ツバキにお礼をするとそのまま徒歩で家まで帰ってきた。


 『動画上げたよー』


 その日の夜、ツバキから動画へのリンクが添付されたメッセージが届いた。

 イナはリンクを開き、動画の内容を確認した。


 『デリシャストレジャーのドーナツ全部食べ比べしてみた』


 そう題された動画ではツバキが撮影係のエリカと一緒に購入したドーナツをレビューする姿が映し出されていた。

 品目が変わるたびにそれに関するトピックが表示されたがイナはその内容に心当たりがあった。


 (私が喋ったことそのまんまだ)


 トピックの内容はイナが語ったこととそっくり同じであった。

 ツバキは『ドーナツマニアの知り合いからの情報』と称して動画で紹介したのである。


 十数分にまとめられた動画を視聴終えたイナはコメント欄を覗き込んだ。

 ツバキが人気ストリーマーということもあり、動画を上げて一時間程度であるにも関わらず数十件のコメントが寄せられている。


 『ドーナツマニアの知り合いの情報量すごくね?』

 『デリトレ行きたくなったわ』


 コメントの中にはイナからの情報に関するものもあり、ほとんどはその熱意に感心するものであった。

 自分の熱意が他の誰かに伝わっていることにイナは多少の喜びを感じた。


 『全部食べるの大変じゃなかったですか?』

 『そりゃーもう大変よ。今エリカと一緒にダウンしてる』


 イナが労いのメッセージを送るとツバキが撮影の感想を語った。

 ツバキとエリカはライオン族故に食欲旺盛であるとはいえ、流石にドーナツ全種類は堪えるものがあったようである。


 『あのゴージャスシュガーとかいうのヤバいわ。水用意してなかったらギブアップしてたかも』


 ツバキは撮影で特に苦戦したメニューの名を出した。

 ゴージャスシュガーはほぼ砂糖菓子も同然の生地を油で揚げてそこに何種類もトッピングを重ねたデリトレのメニューで群を抜いて高カロリーな一品である。

 他のドーナツより一回り大きい上にこれでもかと詰め込まれた糖分が口の中から喉の奥まで水分を吸い尽くすため、水を用意せずに完食することは困難を極める代物でもあった。

 かつてイナはこれを一つ完食して胃もたれを起こしたことがある。


 『次の期間限定は十月ですよ』

 『もうレビューは新作だけにさせて〜』


 イナが次回の新作を示唆するとツバキは音を上げるのであった。

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