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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
白虎ちゃん
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終業式が終わったら

 七月二十一日、ついに一学期の終業式の日がやって来た。

 この日の日程を終えればいよいよ夏休みである。


 終業式の最中、フウはまだかまだかと待ち侘びるかの如くウズウズしていた。

 無意識に動く尻尾が後ろにいたイナをペチペチと叩き、それを鬱陶しく感じたイナがフウの尻尾を引っ張った。

 

 「いやー面目ない」


 フウは軽口でイナに謝ると自分の尻尾を手前に手繰り寄せた。


 十数分程度の式を終え、イナたちは教室へと戻ってきた。

 教室に戻ってきた担任のウィズの手から登校日の日程や課題の一覧、提出期限が記載されたプリントが配布された。


 「では、今日の日程はこれにて終了です。チャイムが鳴ったら各自解散して夏休みに入りますが、くれぐれも羽目を外して外に恥を晒すようなことがないように」


 ウィズが生徒たちに忠告を終えた直後に終礼のチャイムがなった。

 生徒たちは一斉に騒ぎ出し、教室を飛び出していく。

 早くも雰囲気は夏休み一色であった。


 「イナっちイナっちー。この後どうする?」


 フウは教室に残ってイナにこの後の予定を尋ねた。

 イナは特にこれといった予定を考えていなかったため、いつものようにフウに任せるつもりであった。


 二人が教室を出たところにちょうどエリカが合流してきた。

 彼女が自分から二人のところに来る時は何か話を持ってくる時である。


 「先輩、よかったらこの後映画を観に行きませんか?」

 「映画ですか」

 「はい。これなんですけど」


 エリカはイナたちを映画鑑賞に誘いに来たのであった。

 携帯をいじり、その映画のタイトルをイナたちに見せる。


 「『リベレイター』……?」

 「あー、最近よくCM流れてるやつだよね」


 イナはタイトルを見て首を傾げるがフウはそれを知っているようであった。

 その映画は有名俳優が主演を務めるオリジナルのアクションものである。

 特に予定のなかった二人はエリカの誘いに乗って映画館に足を運ぶことにした。


 「カッコいい男が二丁拳銃を構えながら大立ち回りでアクションするんですよ!アクロバットに銃撃に爆発、男のロマンが詰まってます!」

 「姫ちゃんは女の子じゃないですか」

 「それはごもっともです」


 映画館に向かう道中、エリカは映画の魅力を熱心に語り倒した。

 イナがツッコミを入れるとエリカは我に返って返事をする。

 

 そんなこんなしながら歩くこと約二十分、三人は目的地である映画館にやって来た。

 そこはショッピングモールに併設されたシアターであり、もちろん目当ての映画も上映されている。


 「上映まで少し時間ありますね」


 エリカは案内画面の上映リストを見ながら呟いた。

 現在時刻は十二時二十分、ここから最も近い上映時刻は十三時十分。

 実に五十分程度の間があった。


 「とりあえずチケットだけ買っとこ」

 「そうですね。また戻って来ればいいですし」


 こうして三人は十三時十分の上映のチケットを購入すると時間潰しで併設されたショッピングモールを散策しはじめた。


 「水着見に行こ!」

 「この前買ったばかりですが……」

 「わかってないなーイナっち。学校で着るのとプライベートで着るのは別なの」


 フウはそう主張するとイナとエリカを連れて水着のコーナーへ向かった。

 転校してから初めての夏休みということもあり、気合いが入っていた。


 「イナっちー、これとかどう?」


 そう言いながらフウが水着を一着持ち出してイナに見せた。

 それは黒一色で露出度の高いビキニであった。


 「嫌です。ほぼ紐じゃないですか」


 イナはその水着を一目見ると即答で却下した。

 あまりにも肌の露出が多いため、目立つのは自明の理である。

 何よりイナは自分の体形を見せつけるようなことはしたくなかったのである。


 「着ませんよ。返してきてください」

 「えー、似合うと思ったんだけどなぁ」


 フウは渋々水着を返却しに行った。

 すると今度はエリカが水着を持ってイナのところへやって来る。


 「これなんてどうでしょうか」


 エリカが持ってきたのはオレンジのパレオの付いた青い水着であった。

 パレオのおかげで胸周りと腰回りが隠れており、あまり体形が目立たないようになっている。

 イナの求めているそれとかなり近いものになっていた。


 「いいですね。他の色も見てみたいです」

 「それならあっちの方にありましたよ」


 イナが肯定的な反応を見せるとエリカは手にしている水着がもとあったところへと案内した。

 イナはこの付近にあるいずれかを購入しようと決め、水着の色を吟味する。


 「先輩もこういう水着を選んだりするんですね」

 「実は初めてですよ。今まで水泳の授業以外で水着を着たことありませんから」


 イナはアウトドア経験がかなり乏しいため、プライベート用の水着を持ったことがない。

 川や海どころか屋内プールにすら行ったことがなかった。  


 「それに、ここに来たということは多分フウさんは今度のデート先に水辺を選んでくると思うので……」


 イナはどこか遠いところを見ながら推論を語った。

 フウの行動には基本的に裏がないのでつまりはそういうことである。

 

 三人で水着を見ていると、気づけば映画の上映十五分前であった。

 イナ、フウ、エリカはそれぞれこれと決めたものを購入するとシアターへと引き返していった。


 (フウさんと知り合ってから財布の紐が緩くなった気がする……)


 イナは自分の金銭感覚が緩くなったことに危機感を覚えていた。

 だが実際のところは彼女自身が思っているほど荒くはなく、年齢相応の金遣いになっただけである。


 イナはフウに感化されて自らも気付かないうちに『普通の女子高生』になりつつあったのであった。

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