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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
白虎ちゃん
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あの子の誕生日に何をしてあげましょうか

 終業式が近く迫った夏の日の朝、イナの携帯に一件の通知が入っていた。

 イナは上半身を起こして寝ぼけ眼を擦ると数回の瞬きをし、枕元に置いていたメガネをかけてその内容を確認した。


 『もうすぐフウさんの誕生日です』


 通知はフウの誕生日が近いことを伝えるものであった。

 彼女たちが連絡に利用しているSNSにはアカウント登録の際に誕生日を設定し、誕生日が近づくとそれを友人に伝えられる機能が搭載されている。

 それによるとフウの誕生日は七月二十二日、終業式の翌日であった。


 (誕生日か……)


 イナはフウの誕生日が近いことを知って思考を巡らせた。

 恋人同士、パートナーの誕生日にサプライズで何かお祝いをしたかったのである。

 

 「ねえお母さん、もうすぐフウさんの誕生日なんだけど何かしてあげられないかな」


 朝、イナは食卓で母にフウの誕生日のことを相談した。

 フウ本人には相談できないため、あてにできるのは母だけである。


 「そうねえ、少し遅れてもいいならデートしてあげるとかどう?」

 「すでにデートの約束はしてるんだよね」

 「じゃあプレゼントを贈ってあげるのがいいんじゃない?それなら当日でも間に合うでしょ」

 「確かに」


 イナの母の提案するプランは人生の先輩として含蓄のある内容となっていた。

 イナはそれを参考に最も手っ取り早く、それでいて形として残せるプレゼントを贈ることにした。


 朝の支度を済ませ、家を出たイナはいつものようにフウと合流して学校へと登校した。

 登校中もフウが求めるものを探ろうと切り口を考えていたがこれといった一手は思いつかない。

 気づけば学校に到着して教室に入っていた。


 授業後の休み時間、イナはフウ以外のクラスメイトたちから情報を引き出そうと試みた。

 フウは交友関係が広いため、直接聞かずともそれらを経由すれば情報を得られると考えたのである。

 しかしその方法には問題があった。


 (どうしよう。どうやって話しかければいいのかわならない……)


 イナの考えた方法の欠陥、それはイナがフウ以外のクラスメイトとの交流に乏しいことであった。

 それが災いしてどう話しかければいいかわからなかったのである。


 (そうだ!ここは……)


 イナは迷った末に一年の教室へと足を運んだ。

 彼女が尋ねる先はただ一つである。


 「フウ先輩が欲しそうなものですか?」

 「何か思い当たるものはないでしょうか」


 イナはエリカを尋ねると彼女にフウが欲しがりそうなものを確認した。

 エリカはイナが校内でまともに会話できる数少ない存在であった。

 

 「イナ先輩からのプレゼントならなんでも喜んで受け取ると思いますが」

 「その中で強いてあげるとすれば」

 「リボンとかどうですか?フウ先輩といえば尻尾に付けたアレがチャームポイントみたいなところありますし」


 エリカはなぜか半分死んだような目をしながら答えた。

 彼女の言う通り、フウのチャームポイントは尻尾の先端に付けたリボンである。

 フウ自身もそれを自負しており、彼女なりの拘りを持っている。

 

 「ありがとうございました。どうかこのことは内密にお願いします」


 イナはエリカにお礼を告げると口封じのようにそう言い残して教室へと帰っていった。

 そんな彼女の後姿をエリカはなんともいえない表情で見つめるのであった。


 そして昼休み、いつものようにイナはフウと一緒に昼食を取る。

 他愛もない会話を繰り広げながら時間が流れる。


 「ねーねーイナっち。今日の放課後は何する?」

 「悪いんですが今日は個人的な用事があるので先に帰らせてもらいます」


 イナは私的な用事を理由にフウの誘いを断った。

 その用事がフウに送るプレゼント選びであることは内緒である。

 

 「用事って何ー?」

 「内緒です」

 「えー」


 フウはイナのことを怪しがりつつもそれ以上は言及せずにその場は引き下がった。

 イナはやり過ごせたことに安堵するものの、フウに隠し事をすることに対して多少の後ろめたさを感じた。


 そしてその日の放課後、イナは先に学校を出ると一人アクセサリーショップへとやって来た。

 リボンのコーナーに立ち寄り、フウに似合いそうなものを見繕う。

 だが自分のセンスに自信を持てず、なかなか物を決められない。

 結局店員を呼んで相談することにした。


 「友人の誕生日にリボンを贈りたいんですがオススメはありますか?」

 「お任せください。まずお友達は何族の子ですか?」

 「白毛のトラ族です。元気な子なので明るい色がいいと思ってるんですけど」


 イナが店員にフウの情報を伝えるとそれを元にオススメを選び出した。

 それは燃え盛る炎のような真紅のリボンであった。

 しかも生地がかなり薄く、目を凝らすと向こう側がわずかに透けて見えるほどであった。


 「これなんて如何でしょうか?」

 

 イナはオススメされたリボンを手に取って確かめた。

 それはついさっき自分が選ぼうとしてやめてしまったものとそっくりな色合いをしていた。

 その道のプロと似たものを選んでいた自分のセンスが間違っていなかったと信じ、オススメされたものを購入するすることにした。


 「梱包サービスは利用されますか?」

 「お願いします」


 こうしてイナはフウに贈るプレゼントを購入した。

 決して安い買い物ではなかったが祝福の気持ちを伝えるには十分ともいえる内容となった。


 用事を済ませて家に帰ったイナはプレゼント仕様に梱包されたリボンを机の上に置き、来るフウたの誕生日を待つのであった。

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