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トラ族の家族は思ってたより温かい

 家に帰ったイナは自室に戻ってカバンを置くと制服姿のままベッドに寝転がって携帯を見た。

 イナは基本的に携帯の通知を切っているため、こういう時にまとめて確認するのである。


 『ウチに遊びにおいでよ!部屋綺麗にして待ってるよ!』

 

 携帯にはつい数分前にフウからのメッセージが来ていた。

 あちらは家に帰ってすぐに飛ばしてきたようであった。

 しかも丁寧に入り口から撮られたであろう自室の写真も添えられている。

  

 (物が多いな……)


 イナがフウの自室の画像を見て最初に思ったことはまずそれであった。

 フウの自室はベッドにデスク、本棚、キャビネットとインテリアが多く、デスクの上には小物がぎっしりと並べられている。

 勉強する場所があるのか不安になるレイアウトであった。


 (どうしよう。なんか断りにくい……)


 フウからメッセージを送られたイナは断る理由に困ってしまった。

 初めは適当な理由をつけてあしらうつもりでいたがフウがあまりにも期待しているのが画面越しにわかってしまったため、それを蔑ろにするわけにはいかなくなってしまったのである。

 如何せん家が隣同士のため、下手したら翌日何か言われるのが怖かった。


 「結局来てしまった……」


 フウの自宅の玄関前でイナは一人呟いた。

 着ていく服に迷ったため、とりあえず制服のままである。


 (ただいまって言ってたし、きっと家に他の家族がいるんだよね)


 イナはフウの家の呼び鈴を鳴らそうとした瞬間にさっきフウが家に帰ったときにただいまと言っていたことを思い出した。

 あのフウが一人だけでそんなことを言うとは思えないため、この呼び鈴に応対する人物がフウ以外の可能性は捨てきれない。


 (大丈夫、友達って言えばいいんだから)


 イナは息を飲んで覚悟を決めるとフウの家の呼び鈴を鳴らした。

 すると数秒後にフウではない別のトラ族の女性が玄関を開けた。


 女性は髪と尻尾が赤茶色、瞳が黄色になっている以外はフウがそのまま歳を重ねたような風貌をしていた。

 

 「はい。どちら様でしょう?」

 「あ、あの……ここってフウさんのお宅で合ってますよね?」

 「あー、お友達ね!ちょっと待ってね。フウー、お友達が来てるわよー!」


 トラ族の女性はイナの台詞からおおよその事情を理解すると玄関から二階に向かって大声を上げてフウを呼び出した。

 どうやら彼女はフウの母親のようであった。


 母に呼び出され、フウが階段を五段以上一気にすっ飛ばして降りてくる。

 両手足を同時について着地し、何事もなかったかのように腰を上げるとそのまま玄関までやって来た。


 「イナっちー!来てくれたんだぁ!」

 「まあ、せっかく呼ばれたので……」

 「本当に来てくれるなんて嬉しいなぁ。さ、上がって上がって」


 フウは大喜びでイナを歓迎した。

 二人の様子を見たフウの母親はニコニコした様子で家の奥へと消えていった。


 「ようこそ我が家へ!」


 フウはイナを自室に連れ込むと大声で紹介してきた。

 イナは思わず耳を塞ぎそうになったが流石に失礼かとなんとかその場で思いとどまった。


 「何かお菓子とか食べる?マンガとか好き?あっ、ゲームもあるよ!」


 フウは部屋の中をせわしなく動き回りながらイナの興味のありそうなものを探した。

 間食用のお菓子がデスクの引き出しの中から出され、本棚の中の漫画は最近の流行のものが最新刊まで揃えられており、ゲーム機は最新鋭のものが置かれている。

 しかし当のイナはというとそれらを不思議そうに眺めていた。

 

 「うーん……どれもイマイチな感じ?」

 「その、あんまり漫画とかゲームとか遊んだことなくて」

 

 イナはとある事情から漫画やゲームといった大衆的な娯楽文化に疎かった。

 まったく触れていないわけではなく、むしろ興味がある方だが周囲と比べればそういったことへの知識は少ない。


 「そっかー。じゃあ遊んでみる?」

 「いいんですか!?」


 フウが何気なく誘うとイナは目を輝かせた。

 大きな三角形の耳がピンと跳ね、尻尾が左右に大きく揺れる。

 イナが本気で遊びたがっていることを察したフウはゲーム機を起動するとコントローラを手渡した。


 「フウ、おやつと飲み物持ってきたからお友達と一緒に食べてね」

 「ありがとーママ!」


 イナが初めてのゲームをプレイし、フウがその様子を見ているとフウの母がおやつを用意して部屋を尋ねてきた。

 フウの母はいつの間にかスポーツのユニフォームのような服装に着替えている。


 「貴方のお名前は?」

 「イナっていいます」

 「イナちゃんね。うちのフウは元気あり余っててそそっかしいけど根はいい子だから仲良くやってあげてね」

 「え?ああ、はい」


 フウの母はイナの名前を覚えた。

 これで家族公認の友人関係になったも同然である。


 「じゃ、ママはこれからスタジアム行ってくるから。フウはお留守番よろしくねー」

 「うん!」


 フウの母は我が子にそう言い残すとドタドタと階段を駆け下りていった。

 その足音を聞いたイナは親子の繋がりを感じずにはいられなかった。


 「お母さん、スポーツファンなんですか?」

 「そうだよー。しかも筋金入りのね」


 フウの母はクリテアの人気スポーツ、パワーボールの大ファンである。

 中でもライオン族やトラ族、ヒョウ族たちが中心となって結成されたチームことフェリンズの大ファンであり、フェリンズの試合は頻繁にスタジアムに赴いて応援するほどの熱の入れようであった。


 「そういえばフウさんって、お母さんと毛色が違うんですね」

 「ウチは他の家族と毛色が違うんだよねー。トラ族にたまにある突然変異ってヤツらしいよ」


 フウの毛は白だが両親はどちらも赤茶色の毛をしており、両親の系譜にも白毛は存在しない。

 本来ならば遺伝的には発現しないはずの突然変異であった。


 「イナっちはさ、家にこういうゲーム機とかないの?」

 「うちは母子家庭であまりお金がありませんから、こういうのは手に入れられなくて……」

 

 イナは自らの家庭環境をフウに明かした。

 イナの家は彼女が中学生の頃に父が帰らぬ人となったため、現在は母と二人暮らしの母子家庭である。

 経済的にも裕福とはいえず、それがゲーム機などの娯楽にあまり手を出せない理由であった。


 「なら学費ってどうしてるの?アステリアって私立だから高いと思うんだけど」


 フウはイナの家庭環境を知った上で学費のことに踏み込んだ。

 アステリア高等学校は私立の学校であるため、公立に比べれば学費はかなり高い。

 フウもそこは把握していたため、イナがどうやってそこの問題をクリアしているのかが気になった。


 「特待生として学費を免除してもらってます」

 「えーっ!?イナっち超頭いいじゃん!」


 アステリアには特待生制度が存在する。

 入学試験の時点で特に優秀な成績を修めたものは学校側から入学費用と授業料の免除を受けることができる。

 定期試験で一定以上の成績を維持できなければ免除を受けられなくなるという制約もあるがイナは入学以来その制度の恩恵を受け続けている。

 彼女がアステリアに進学したのもこの特待生制度を利用するためであった。


 「おかげで視力は下がったんですけどね」

 「でも勉強できるのって超羨ましー。ウチなんて教科書読んでるだけで眠くなっちゃうし」


 フウは椅子に正面からもたれかかりながらイナの勉学の才能を羨ましがった。

 フウは座学が不得手であるため、自分にない才能を持っているイナのことが素直に羨ましかった。

 対するイナも自分の能力を評価されることに対しては謙遜しつつもまんざらでもなかった。


 フウのことを警戒していたイナだったが、これを機に多少気を許すことにしたのであった。

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