なんだか照れちゃいます
期末試験も近づきつつあったとある夏の日。
フウは休み時間にクラスメイトと談笑していた。
イナは後ろの席から会話の内容を盗み聞きしている。
「フウちゃん何かお悩み?」
「今度のデートの場所が決まんなくてさー」
フウの会話の内容にイナは思わず耳をピンと立てた。
自分との関係が周囲に知られてしまうのではと肝が冷え、冷や汗が首筋を伝う。
「えー!?フウちゃん彼氏いたの!?」
「彼氏じゃないよー。相手女の子だし」
「なんだ友達とデートかー」
「そそ。せっかくだから夏っぽいことしたいんだけどどこがいいかな」
フウはクラスメイトにデートの行き先を相談し始めた。
自分の名前を出さなかったことと恋人と合わなかったため一安心である。
「もしかしてデートの相手ってイナさん?」
クラスメイトの一人がフウに尋ねるようにイナの名を挙げた。
イナの心の平穏が一瞬にして崩れ去る。
「さぁ、どうだろうねー」
「みんなが噂してるよー。フウちゃんとイナさん、昼休みはいつも一緒だし、放課後も一緒にいるのを見かけるって」
「昼休みは勉強教えてもらってるだけだよ。放課後は帰り道が同じだから、ね」
「もしかしてさー。フウちゃんってイナさんとデキてる?」
「は!?まさかそんなことないよー!」
フウは慌てて否定する口ぶりを見せた。
これでは『はいそうです』と言っているようなものである。
「イナさん、どうなの?」
フウと話していたはずのクラスメイトが流れてイナのところに話しかけてきた。
完全なる飛び火であった。
「えっ、何がですか?」
「フウちゃんとどういう関係なの?」
「どういうも何も、ちょっと仲良しなお友達ですよ」
イナは穏やかにそう答えた。
するとクラスメイトはそれ以上深入りすることもなくフウのところへと戻っていった。
「あのイナさんとどうやって仲良くなったの?」
「どうやってって言われてもなー。イナっちと話してみたかったから話しかけた、みたいな?」
クラスメイトにイナとの親交を深めた方法を尋ねられた経緯を尋ねられたフウは直感的にそう答えた。
特にプランを持ってイナに接していたわけではなく、ただ自分がそうしたくてそうしていた結果であるため、本当にそう答えるしかなかったのである。
「ちなみにイナさんのどんなところがいいの?」
「まず顔がいい!メガネで隠れてるけどナチュラルが超似合う美人なんだから!」
イナの魅力を尋ねられたフウは臆せず堂々と言い放った。
それを聞いていたフウの話し相手たちが一斉にイナの顔を覗き込む。
「あ、あの……えっと……」
「確かによく見ると綺麗な顔してるわー」
「やっぱりキツネ族は持ってるものが違うなー」
イナがおどおどしているとクラスメイトたちは感想を溢す。
彼女たちは面と向かってイナの顔をじっくり見たことがなかったため、その顔立ちを知らなかったのである。
「美人だし、おっぱい大きいし、頭いいし、勉強もわかりやすく教えてくれるし、遊びに誘うとなんだかんだ付き合ってくれるし、それにああ見えてお茶目なところもあって可愛いんだよ」
フウは自分が感じているイナの魅力についてこれでもかと語り倒す。
嬉々として語るその様子は完全に惚気る乙女であった。
(人前でそういうこと言わないでください。恥ずかしい!)
一方のイナも俯いて顔を赤くした。
面と向かって一対一でフウから褒められるのは慣れているが大勢の前でそれをされるのは不慣れだったのである。
一対一であれば強気に咎めることもできたが今はそういうわけにもいかない。
しかし褒めちぎられることに対してはまんざらでもなく、彼女の尻尾は無意識に大きく揺れていた。
(デキてるな)
(これはデキてる)
クラスメイトたちはフウとのやり取りとそれに対するイナの反応をみて二人が単なる友情以上の何かで繋がっていることを察した。
「ところで昨日のドラマ見た?」
「見た見た!」
それと同時にこれ以上踏み込んではならないことを感じ取り、すっと話題を切り替えて引き下がっていった。
イナは睨むようなアイコンタクトをフウに送るがフウは悪びれもせずニコニコとしている。
「どういうつもりですか!あれじゃ『私たちは恋人同士です』って言ってるようなものじゃないですか!」
放課後、イナはフウの家に立ち寄ると学校での一件についてフウに詰め寄った。
イナの右手にはフウの尻尾が手綱のように握られ、彼女を逃がさないという意思が表示されている。
「ごめんて!でもあそこはああ言うしかないじゃんね!」
「関係解消したいんですか?」
「そんなつもりなかったんだってばー!てかイナっちだってウチに褒められて嬉しそうに尻尾振ってたじゃん!」
「それとこれとは話は別です!」
フウは謝りつつも自らの言動について弁明した。
彼女は良くも悪くも非常に素直な性格である。
恋人関係であることを周囲に隠すことをイナと約束してはいるがそれを自ら否定するようなことは嘘でも言いたくなかったため、必然的にそう言わざるを得なかったのである。
「ウチは嘘でもイナっちのことが好きじゃないなんて言いたくないの!」
「……ッ!?」
フウの口から飛び出す暴力的なまでの愛のアピールにイナの顔がたちまち赤くなっていく。
やはり真正面からぶつかるのはフウの方が上手であった。
「まったく、あなたという方は……」
「許してくれる?」
「あなたが私のことを本気で好きでいてくれているのは伝わりましたから、今回はそれに免じて許してあげます」
「ありがとー!イナっちのそういう優しいところ好きぃ」
フウは自分の尻尾をイナに握らせたまま彼女を抱きしめた。
イナはフウの猪突猛進な危なっかしさに先行きの不安を感じつつもその好意を受け止めるのであった。




