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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
白虎ちゃん
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甘えんぼさんに欲張りさん

 イナとエリカがフードコートで少し早めの昼食を取り終えたころ、通り雨は上がって空はカラッとした晴れ模様になっていた。


 様々なアトラクションを巡るがその間エリカはずっとイナにくっついていた。

 フウとのメッセージでのやり取りが楽しそうにして見えたのがよほど気に食わなかったようであった。


 「まだ怒ってますか?」

 「当然です!何のために二人っきりでいるんですか!」


 エリカは子供っぽく頬を膨らませて不服をアピールした。

 今回のデートは『二人で行く』ということを事前に約束していたため、エリカにとっては二人だけの時間にするつもりであった。

 そこにこの場にいないはずのフウに意識が向いているのが許せなかったのである。

 イナはエリカが自分に対して敬愛以上の感情を抱いているのを知っているため、それとなく罪悪感を覚えた。

 今の自分がエリカと同じ立場であればきっと同じように嫉妬の感情を覚えるからである。


 「悪いことをしてしまいました。どうすれば許してくれますか?」

 「ぎゅーってさせてほしいです」


 エリカはそういうとイナに密着して抱き着いた。

 さっきまでの雨でぬれた地面に高く昇った陽光が照り付け、蒸すように暑い。

 そんなこともお構いなしにエリカはイナから離れず、体温が直に伝わって暑さを増した。


 「姫ちゃんは甘えんぼさんですね」

 「ボク、あんまり家族と触れ合う時間がなくて寂しいんですよ……お父さんとお母さんは仕事でほとんど帰ってこないし、お姉ちゃんもいつも遊んでくれるわけじゃありませんから」


 エリカは自身の胸中を小声でイナに打ち明けた。

 エリカの家庭は非常に裕福であるが彼女の両親はそもそも仕事で別居しており、年に数回しか帰ってこない。

 姉が同居してはいるものの、彼女にも仕事があるため毎日都合を合わせられるわけではない。

 ライオン族という力ある種族であるがゆえにクラスメイトに弱気なところは見せられないため、イナが家族以外で唯一素直に甘えられる相手であった。


 イナはエリカの心の中の寂しさを埋め合わせるように存分に甘えさせた。

 エリカが場所を問わずにぴったりついてくる状態に対する周囲の視線に多少の恥ずかしさはあったものの、今はデート中だと思えばどうとでもなる範疇であった。


 気づけば時刻は午後四時、陽が茜色に変わりつつあった。

 楽しい時間ももうすぐ終わりである。

 イナとエリカは遊園地を出ると最寄りのバス停に足を運び、バスを利用してエリカの自宅の最寄り駅まで移動した。

 その道中エリカは遊び疲れてうとうとと舟を漕いでいたがその間もイナに寄り添って離れない。

 イナがそっと頭を撫でるとエリカは静かに寝息を立て始めた。

 途中機嫌を損ねてしまった場面こそあったがそれも収まり、トータルで見れば間違いなく楽しい体験ができたようである。

 

 イナはそっと携帯を構えるとエリカの寝顔をこっそり撮影した。

 そしてそれを共有するようにフウへと送信する。


 『可愛い寝顔ですよ』

 『マジでお姫様みたいじゃん』


 イナがメッセージを添えるとフウはそれを称賛した。

 窓の外の移り行く景色を眺めていると、見たことのある場所が近づいてきた。

 イナはエリカを揺り起こすとバスを降り、エリカの自宅の最寄り駅前まで戻った。


 「今日はありがとうございました!」

 「こちらこそありがとうございました。私も楽しかったですよ」


 イナは駅前でエリカと別れると改札を通って電車に乗り込んだ。 

 あとは帰宅がてらフウの家に寄ってお土産を渡せば今日のイベントはすべて終わりである。


 十数分ほど駅を通り過ぎ、イナは学校の最寄り駅で下車した。

 すでに日没が近い。

 イナは少し急ぎ足でいつもの帰路を通って家まで帰ってくると、その少し先に足を進めてフウの家の呼び鈴を鳴らした。


 「あらイナちゃん。こんな時間にどうしたの?」

 「遊びに行って来たのでフウさんにお土産を渡そうと思いまして」

 「イナっち待ってたよー!」


 玄関先でフウの母と話しているとフウがそれを遮って二階から現れた。

 靴も履かずに玄関を飛び出し、裸足のままイナに飛びついてくる。

 娘の姿を見たフウの母はそっとリビングへと消えていく。


 「お土産どれー?」

 「はいこれ。ペンケースに付けられるキーホルダーとイチゴ味のチョコレートです」

 「おぉー!流石イナっちわかってんじゃーん!」


 フウは大喜びでお土産を受け取った。

 イチゴ味はフウの好きなフレーバーであることは二ヶ月程度の付き合いでばっちり把握していた。


 「今度はウチとデートしようね」

 「まだ物足りませんか?」

 「全然!ウチはこんなんじゃ満足できなーい!」

 「フウさんは欲張りさんです」


 イナはフウと抱擁を交わすとニコニコしながら呟いた。

 フウの腕は強くイナを抱きしめており、彼女を他の誰にも譲りたくないという独占欲が表れていた。

 始めは脳を揺らすように感じられたフウの大声も、今となっては慣れたものである。


 「場所はどこがいい?」

 「お任せします。行き先決めてくれるの、私は待ってますから」


 お土産を渡したイナはフウの顔を覗き込むように一瞥するとそう言い残し、踵を返して自宅へと帰っていくのであった。

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