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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
白虎ちゃん
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ここでしかできないことをしましょう

 フウとイナはエリカに案内されて彼女の家の敷地内を歩いた。

 庭だけでもイナが暮らしている家なら丸々一件収まってしまいそうな広さである。


 エリカは玄関前で足を止めるとバッグのポケットから鍵を取り出した。

 これだけの豪邸でも鍵は個人に与えられているようである。


 「どうぞ。うちは土足でも大丈夫なので」

 「マジでホテルじゃん」


 エリカは開錠すると玄関を開け、フウとイナを中へと通した。

 家の内観は本当にホテルのようになっており、感性が小市民な二人を圧倒する。


 「こんなに家大きいのに使用人とかいないんだねー」

 「そこまで大したものじゃないですよー。そんなのアニメやマンガだけです」

 (この家自体がアニメやマンガのそれなのに?)


 イナは心の中で一人静かに突っ込んだ。


 「部屋いっぱいあるねー。全部使ってるの?」

 「今は使ってない部屋はありますけど用途自体は全部決まってます。一階はお客さん用の部屋と姉の仕事部屋。二階がボクの部屋です」


 エリカは自宅のことを詳細に説明しながら自室へと向かった。

 彼女の私室は二階である。


 「お姉さんいるんですか?」

 「はい。今日はオフなので今は三階で寝てると思いますが」


 エリカは初めて家族構成の一端をフウたちに明かした。

 彼女には姉が一人おり、現在この家にいることが語られた。


 スケールの違う家に圧倒されながらもフウとイナは二階に上り、そこにあるエリカの自室に足を踏み入れた。


 「ここがボクの部屋です」


 エリカは謙虚に自室を紹介した。

 まず部屋自体のスペースがフウやイナの自宅のリビングの倍近くはあろうかというほど広い。

 壁の一角と一体化している本棚にはマンガや小説などの文庫本、アニメの映像媒体がぎっしりと詰め込まれており、その隣には電気街でしか見ないような巨大なモニターが置かれている。

 しかも二、三人なら同時に寝られそうな巨大なベッドや冷蔵庫、浴槽にシャワーまで完備されていた。

 申し訳程度に部屋の隅に勉強用のデスクと教科書の類がまとめられた小さな本棚があったが誰がどう見ても金持ちの家のイメージを具現化したような空間がそこにはあった。


 「姫ちゃんってこの部屋一人で使ってるの?」

 「はい。お恥ずかしながら……」

 (謙遜する場所がおかしいのでは?)


 スケールの違う生活にフウですらドン引きしていた。


 「映画観ませんか?照明もシアターモードにできますし」

 「マジ!?ちなみに何が観れるの?」

 「ここから好きなのを選んでいいですよ。ここになくてもサブスクで観られるものもあります」


 エリカは映画鑑賞に誘うと本棚の一角にフウとイナを誘導し、映画のタイトルを選ばせた。

 ジャンルはアニメに偏っているが人気作品や最新作はしっかりと抑えられており、最新タイトルも漏れなくラインナップされていた。


 「あ、これ知ってるー。最近流行ってるやつだよね」

 「お目が高い!これは現行作品の前作の劇場版でして!本編とは繋がらないパラレル展開なんですがギャグありバトルありロマンスあり涙ありの何度でも楽しめる名作中の名作です!」


 フウが何気なく取ったタイトルを見たエリカは目を輝かせながら大声で語り出した。

 パッケージには向かい合って対立する二体のロボットと少年少女たちが描かれている。


 その作品は十年以上続く人気シリーズであり、エリカはそれの大ファンである。

 そんな彼女の勢いにフウは少し押された。

 彼女もマンガやアニメは嗜むが配信で視聴したりSNSで聞きかじる程度の所謂ライト層であり、エリカほどの熱量はない。


 「あの、そのシリーズよく知らないんですけど私でも楽しめますか?」

 「ご心配なく、予備知識がなくても面白いですから」


 エリカはイナの両肩に手を置いてアピールしてきた。

 とりあえず彼女が本気であるということだけは理解し、イナは黙って首を縦に振った。


 「これだけ覚えておけば予習は大丈夫です!好きな飲み物を用意してモニターの前にGOですよ!」


 エリカによって最低限の作品のあらすじと登場人物の設定の説明が行われた後、三人は大きなソファに三人並んで腰を下ろした。

 また例にもよってイナが真ん中になってフウとエリカに挟まれている。


 エリカはリモコンを複数代操作し、部屋のモードを切り替えた。

 カーテンが閉じて部屋の明かりが落ち、モニターの近くの照明だけがうっすらと光るシアターモードへと変更される。


 「うわすっご!映画館じゃん!」

 

 さっきは内観にドン引きしていたフウだったが今は一転してはしゃいでいる。

 背後で揺れる彼女の尻尾が隣にいるイナの右手をくすぐる。


 映画が始まり、モニター両脇のスピーカーから爆音が響く。

 イナは不意に出た大きな音に驚き、背筋が伸び上がると同時に耳と尻尾がピンと上を向いた。


 「何今の超可愛いんだけど」

 「キツネ族だから少し音に敏感なだけです」


 イナは無意識に出た挙動を弁明した。

 彼女は聴力に優れるが故に不意に出てくる大きな音は苦手なのである。

 

 「さあ、いきなり見どころ来ますよ!」


 エリカは早口に語った。

 室内はまるで劇場のスクリーンだが映画館ではないので声も出し放題である。


 「うおー!今のアニメ映画ってこんなに絵が綺麗なの!?」

 「この冒頭のバトルシーンは劇場でも驚きの声が上がった名シーンですよ!」

 (情報量が多い……)


 上映開始から約五分、イナは映画の内容がまるで頭に入ってこなかった。

 というのも、両脇にいるフウとエリカが常に熱狂していて二人の会話が視覚から得た情報を強引に上書きしてくるからであった。


 (二人が楽しそうならそれはそれでありか)


 イナは両隣で映画を楽しむ二人を見て微笑ましい気持ちになりつつ自分も映画を楽しむのであった。

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