姫ちゃんの家に遊びに行きました
午前中、一時間足らずで学校での用件を終えてしまったイナたちは暇を持て余してしまった。
「ねーねー、せっかく三人いるんだから今からどこか遊びに行かない?」
「制服で行ける場所は限られてますよ」
「あの、それならボクの家来ませんか?」
フウとイナが話しているとエリカが話に入り込んできた。
普段は電車通学をしているため放課後には気軽に寄れないエリカの家だが今日は普段とは違う。
時間的にも十分な余裕があった。
「いいのー!?行く行く!イナっちも行くよね?」
「ええ。姫ちゃんがいいのであれば」
こうしてフウとイナはエリカの家に遊びに行くことにした。
最寄りの駅に寄り、エリカは定期を、フウとイナは切符を通して改札を抜ける。
ホームのベンチに腰を下ろし、三人は電車の到着を待った。
次の電車の到着まであと数分ある。
「お二人は普段電車乗らないんですか?」
「ウチはあんまりないかなー。家族以外と遠出する時ぐらいしか使わないや」
「私も乗りませんね。年に一回使うか使わないかぐらいです」
エリカに尋ねられてフウとイナは各々の電車の利用頻度を答えた。
フウはアウトドア派のため、それなりの頻度での利用があったがイナは極端に利用頻度が少なかった。
そもそも遠出しないのもそうだが電車を使わない理由は他にもあった。
「あと尻尾が場所を取るのであんまり利用に向いてないんですよね」
「あーそう言われればそうかも」
「伸ばしてると挟まれたりして大変そうですもんね」
イナは自分の尻尾を触りながら語った。
キツネ族、リス族などの大きな尻尾やウシ族、ヤギ族、ヒツジ族の角などは場所を取るため混雑時の利用にはとにかく向かない。
幸いにも尻尾は手前側に巻き込むことでまだなんとかできるがそれでも窮屈感は否めない。
そんなこんな話しているとホームからアナウンスが入った。
その数秒後に電車が到着し、イナたちはそれに乗り込んだ。
昼前ということもあって座席が空いており、三人は隣り合って座った。
(どうしていつもこの配置になるのでしょう)
道中、イナは一人考えていた。
三人でいるとなぜか必ず彼女が中央に配置される。
そして右にフウが、左にエリカが配置されるのである。
電車を利用し、四駅ほど通過したところでエリカは席をたった。
どうやら次が降車する場所のようである。
「次で降りますよ」
エリカはイナとフウを案内するようにそう言った。
二人は言われるがままに席を立ち、降車の準備をする。
電車に乗り込んでおよそ十五分ほどのことであった。
「全然知らないところに来たなー」
フウは降りた先の景色をキョロキョロと見まわした。
そこはイナですら土地勘のない、アステリアからまあまあ離れた場所となっていた。
「ボクの家はあそこですよ」
エリカはホームの中から駅の外にある家を指差した。
先にある建物を見たフウとイナは思わず目を疑う。
「アレが姫ちゃんの家?ホテルとかじゃなく?」
「ボクの家です。ちゃんと家族が住んでますよ」
フウが恐る恐る尋ねるとエリカはさも当然のように答えた。
そこにある建物は人が住む家と呼ぶにはあまりにも大きく、小規模のホテルと言ってもまず疑われないような代物であった。
改札を抜け、外に出たフウたちが数分ほど歩くとエリカの家の門前までやってきた。
門は大きく、その先にある庭も公園と見紛うほどに広い。
「駅近物件でこのレベルの家とは……」
「お金持ちという噂に間違いはなかったみたいですね」
フウとイナは耳打ちしあった。
イナはともかく、フウも経済的に裕福な方の家庭ではあるがエリカはそのはるか上を行っている。
それは家の外観を見れば一目瞭然であった。
「ようこそボクの家へ。遠慮せず上がってください」
エリカは当然のように門を開けると先行してその先へと入っていった。
門はアステリアの校門と大差ないレベルの大きさだがエリカはそれを一人で悠々と動かしている。
体格は小柄な方といえど彼女もまた確かに力に優れるライオン族であった。
フウとイナはその光景に圧倒されつつも門を潜った。
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔します」
こうしてフウとイナは初めてエリカの自宅を訪ねたのであった。




