試験明けは嵐の予感です
エリカと知り合って約一週間が過ぎた頃、イナたちは昼過ぎにその日の授業を終えた。
定期試験のすべての科目が終了したのである。
「あーやっと終わったー!」
「お疲れさまでした。試験の出来はどうでしたか?」
「去年よりはなんとかなった感じー。イナっちが教えてくれたおかげかなー」
フウはテストの手ごたえを自信満々に答えた。
フウにとってこれまでただただ苦しいだけだった筆記試験に対して今回イナが対策を立てて勉強を教えてくれたこともあって彼女なりにちゃんと向き合うことができた。
少なくとも解答用紙が空白塗れということはなくなったのである。
「それは何よりです」
イナはフウから感謝されて満更でもないように耳をピンと立てた。
「ねえイナっち、来週から体育の授業が水泳になるんだってー。楽しみだよねー」
「う゛っ!」
フウが何気なく話題を振るとイナは何かをマズいことを思い出したように野太い声を上げた。
何が起きたのかわからずフウは首を傾げる。
「どうしたのイナっち」
「あの、少し言いにくいことなのですが……」
「ん?あー、なるほど」
イナが言葉を切り出そうとしたところでフウはだいたいの事情を察した。
それはイナの身体的特徴に関することであった。
「さてはイナっち、水着のサイズが合わなくなったんでしょ」
「ま、まだ決まったわけじゃありませんから」
フウがニヤニヤしながら問い詰めるとイナは足掻くように反論した。
アステリアの水泳の授業は学校から水着が指定されている。
イナはサイズが合わない可能性を不安視していたのである。
「そういえばウチも授業用の水着持ってないや。せっかくだし一緒に見にいこ」
フウは授業用の水着を所持していなかった。
水着の購入は校内のサービスの利用が最も手っ取り早く、他だと指定店で購入しなければならない。
水泳の授業が始まるのは来週から、時間的余裕はあまりなかった。
「せめて今持ってるやつのサイズを確かめてからじゃダメですか?」
「往生際が悪いなー」
フウが文句を垂れているとイナに一件のメッセージが届いた。
送り主はエリカであった。
『学校用の水着を校内で買うのに付き合ってもらえませんか?』
(そういえば姫ちゃんは新入生でした!)
予想外の角度から追撃が飛んできた。
エリカは新入生なのでまだ水着を持っていないのである。
「とりあえず明日まで待ってもらえませんか」
「んー、まぁイナっちがそこまで言うならいいよ」
フウに待機の猶予を与えてもらい、その日のイナは一人自宅へと帰ってきた。
クローゼットの奥から去年の水着を取り出し、着用を試みる。
(流石にちょっとキツいか……)
水着は去年よりも締め付けが強くなっており、サイズが合っていなかった。
全体的にパツパツになっていたが特に深刻なのは胸周りであった。
明らかにその大きさが強調されており、これでは上半身のボディラインが目立ってしまう。
イナは諦めて水着を新調することにし、フウに連絡を送った。
『やっぱり明日一緒に水着見に行きましょう』
『オッケー!じゃあ十時前に集合ね』
メッセージの送信からわずか十秒足らずで返信が来た。
まるで自分がそう言うのをわかっていたかのような待ち構えぶりであった。
続いてイナはエリカにも連絡を取った。
どうせなら二人同時に用件をこなせる方がいいと思ったのである。
『明日の十時過ぎごろに学校に行きますのでよければその時に一緒に見ましょう』
『わかりました』
イナが日時を指定するとエリカはそれに同意した。
彼女とは現地で落ち合うつもりであった。
そして来たら翌日、イナはフウと二人で学校を訪れていた。
「ふっふー。さてはイナっち、ここがキツかったんでしょー」
「あまり触らないでもらえますか……?」
フウはイナを揶揄うように彼女の胸を横から指で突いた。
イナはフウの指を払いのけるが指摘自体は図星であるが故に何も反論できない。
「先輩!待ってましたよ!」
学校に到着すると下駄箱前の廊下でエリカが待っていた。
彼女が一緒に来るということをイナが伝えていなかったため、事情を知らないフウは首を傾げる。
「なんで姫ちゃんがいるの?」
「あの子も新入生で水着を持ってないとのことでしたので、せっかくならと思いまして」
「ふーん」
イナが事情を説明するとフウはいったん納得するように頷いた。
だがその表情は何か言いたげなようにも見えた。
三人は校内を移動し、更衣室へとやってきた。
そこにはカタログと実物が用意されており、試着からの即時購入も可能であった。
「へー、カッコいいデザインしてるじゃん。いいね」
フウはカタログに目を通しながら呟いた。
アステリアは私立校ということもあり、生徒が着用するもののデザインには力が入っている。
授業用の水着は紺色をベースに脇に赤と白のラインが走る競泳型のモデルであった。
三人はそれぞれカタログを見ながら自分用のサイズを探し、それを試着した。
「どう?カッコいいっしょ?」
「すごい。本物の水泳部員みたいです」
真っ先にフウが水着姿を披露するとエリカが賛辞の言葉を贈った。
フウは持ち前の抜群のプロポーションを惜しげもなく見せており、全身の引き締まった筋肉も相まって水泳部と言われれば信じられそうなレベルであった。
「先輩の水着姿見たら自信なくしちゃいそうです」
「そんなことないってー。姫ちゃんもスタイル良いよー」
フウはエリカにフォローを入れた。
エリカはスタイル自体はいいものの、ライオン族としては痩せ気味な身体をしている。
特に胸周りはかなり貧相で、端的に言えば『ぺったんこ』であった。
「イナっちはどう?」
「あの……なんでこうなるんですか」
イナは恥ずかしそうにフウとエリカの前に水着姿を見せた。
彼女は去年よりもサイズの大きいものを選んだはずであった。
それにも関わらず彼女の全体的に華奢な体形に対して反比例するかのように大きな胸が詰め込まれるように収まっており、はち切れそうと言わんばかりであった。
イナの低身長も相まってY字型の谷間がフウとエリカの視界に入り、それを見た二人は思わず絶句して息を呑んだ。
「エロいな」
「エッチですね」
フウとエリカは真顔になって全く同じことを口走った。
一瞬自分に向けられた二人の捕食者の眼光にイナは悪寒を走らせるのであった。




