姫ちゃんと仲良くなりました
その夜、イナはエリカにメッセージを送信した。
『私の友達があなたに会ってみたいって言ってるんですが大丈夫ですか?』
メッセージを送信してすぐに既読がついた。
数分生を置き、エリカから返事がくる。
『大丈夫です』
エリカからのメッセージはかなり簡素なものであった。
テンションの高さが文字からでも見えるフウとは対照的であった。
そして翌日の放課後、イナとフウは校門前でエリカが来るのを待っていた。
昨夜の内にイナがフウとエリカの間を取り持って決めた三人の集合場所である。
「おっ、来た来た」
フウはこちらに近づいてくるエリカの姿を発見した。
歩くたびに長い金髪がふわふわと揺れる様子はまさに姫というような佇まいである。
「お、お待たせしました」
エリカはイナたちと合流すると初めて出会ったときと同じか細い声で挨拶をしてきた。
彼女はイナとフウを前にして非常に緊張していた。
対面している二人が先輩だからということもあるが、要因は他にもあった。
(ギャルが目の前にいる!)
エリカは目の前のフウに対して慄いていた。
バッチリメイクを決め、制服を着崩してスカートから太ももが覗くフウの姿は紛うことなきギャルのそれであった。
そんな彼女を前にしてエリカは人見知りを起こしていたのである。
「初めましてー。ウチはフウ、イナっちの友達だよー」
フウはエリカに簡潔な自己紹介をすると正面からエリカに抱きついた。
特に深い意図はないスキンシップである。
(顔が近い髪綺麗目元パッチリしてるおっぱい大きいあとめっちゃいい匂いする!)
フウに抱きつかれたエリカは五感から得る情報量に圧倒されて言葉が出なかった。
「こういう人ですが悪い人じゃありませんから」
イナは呆れ半分にそういうとフウの背を軽く叩いてエリカから引き離した。
エリカの顔は動揺とフウから圧迫されたこともあって血が昇って赤くなっていた。
「姫ちゃんのことは知ってるよー。一回話してみたかったんだよねー」
フウはエリカの人見知りもお構いなしにグイグイと距離を詰める。
エリカはフウについていけずに押されっぱなしであった。
「あ、あの……何をお話しすれば……?」
「イナっちのことはどこで知ったの?」
「それはですね!去年のアステリアのパンフレットにイナ先輩が載ってまして!」
フウが何気なく話題を振るとエリカはスイッチが入って大声で話しだした。
いきなり大きな声が出てきたことにフウは驚かされ、思わず一歩引く。
「あっ、ごめんなさい。気持ち悪かったですか……?」
フウのリアクションを見たエリカはふと我に返って意気消沈した。
彼女は自分のオタク的な一面をあまりよく思っておらず、それを自覚しては自己嫌悪に陥る浮き沈みの激しい性格であった。
「ごめんごめん。いきなり大きな声が出てきたから驚いただけだよ」
フウは素直なフォローを入れた。
「ウチもそのパンフ見てみたいんだけど画像とかある?」
「ありますよ!ホームページにも載ってますから」
エリカは再びハイテンションになると携帯をいじってアステリアのホームページへと飛んだ。
その中から学校紹介のページへアクセスし、イナの写った写真を発見するとそれをフウに見せた。
「これ去年のイナっち!?めっちゃ美人じゃん!」
「そう思いますよねぇ!ボクこの先輩見てここに入ること決めたんですよ!」
フウとエリカは二人でイナの写真を見て大盛り上がりであった。
トラ族とライオン族、大声を出す二人の種族に挟まれてイナは圧迫感を覚えた。
(こういうところは素直に感心しますね)
イナはフウがエリカと打ち解けていく様子を興味深く眺めていた。
共通で盛り上がれる話題があったとはいえ、他人の懐にすぐに潜り込める社交力はイナにはないスキルである。
「この後どこかに行きますか?」
「じゃあウチ来る?ゲームとかいろいろあるよ」
「ぜひぜひ!」
(それはそれとして私が置いていかれてる気がしますが……)
そんなこんなあって三人はフウの家に集まって遊ぶことにした。
二人のやりとりを見たイナはそれとなく疎外感を覚えたのであった。
「姫ちゃんはどの辺に住んでるの?」
「結構離れてますよ。ボク電車通学なので」
エリカはこの付近の在住ではない。
電車を使って三十分ほどかけて通学する程度には家が離れていた。
「へえー大変だねー。ウチらは歩いて二十分ぐらいだよー」
「お二人は家が近いんですか?」
「隣同士です」
「……はい?」
「隣同士です」
イナの発言にエリカは耳を疑った。
思わず聞き返したが二回目も同じ言葉が出てきてエリカは言葉を失った。
「幼馴染とかですか?」
「いや、ウチが今年たまたまイナっちの隣に引っ越してきたの。ビックリだよねー」
フウが捕捉するようにエリカに語る。
その表情はどこか誇らしげであった。
フウの家に寄るまでの道中でイナとフウ、そしてエリカの三人は互いの身辺を知り合いながら親睦を深めるのであった。




