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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
白虎ちゃん
22/79

あの子と一緒に体力テストを受けた

 互いに惹かれあい、友人以上恋人未満という関係を構築したフウとイナは充実した学校生活を送っていた。

 朝は一緒に登校し、昼休みは一緒に食堂で昼食を取り、放課後は二人で遊びに出かけたりジムに行ったり勉強会を開いたりする。

 イナにとっては非常に多くの初めてと触れ合う日々であった。


 そんな日々を送ること約一ヵ月、アステリア高等学校の一大イベントがやってきた。

 それは体力テストである。


 全校生徒が運動場に集められ、体育教師による概要の説明と準備運動の後に教員たちによる種目の案内へと移行していった。

 クラス別、男女別に分かれ、その日は丸一日かけてひたすら記録を測定するのである。


 「よーし、やるぞー!」


 フウは自前でストレッチをしながら張り切っている。

 身体を動かすことが好きな彼女にとって今日はまさに待ち望んだ日であった。

 

 (去年よりはいい結果が出るはず……)


 イナもまた意気込んでいた。

 彼女は運動自体は苦手ではないものの、体力面に問題があり昨年はボロボロの結果であった。

 だが今年はジムで身体を動かして基礎体力を底上げしたため、標準に近づけるだろうという見込みがあった。


 最初の種目はハンドボール投げであった。

 この時、イナはあることに気がついた。


 (もしかして私、フウさんの後にやらされるのでは)


 体力テストの記録は出席番号順で計測される。

 フウとイナは連番になっており、よりにもよってフウが先であった。

 イナに課せられる精神的なハードルが勝手に上がってしまったのである。


 「はじめ!」


 計測係が笛を鳴らすとフウはハンドボールを斜め上へと投擲した。

 トラ族の力で投げられたボールは大きな弧を描き、そのままグラウンドへと落下する。

 

 「四十四!」


 フウの記録は四十四メートルであった。

 スポーツ経験者の男子生徒にも勝るとも劣らない記録である。

 その記録が読み上げらると他のクラスメイトから驚きの声が上がった。


 「十二五!」

 

 対するイナの記録は十五メートルであった。

 昨年の十二メートルよりはマシになっているとはいえ、年齢別の平均にも劣る結果となった。


 ハンドボール投げの記録はフウがぶっちぎりの一位であった。

 学年でもフウに並ぶもしくは超える記録を出したものはごく僅か、それも全てが男子生徒であったため、女子の中では圧倒的な存在感を見せた。


 続いての種目は五十メートル走、イナの並走相手は例にもよってフウである。

 隣り合わせに位置し、スタートの笛が鳴った瞬間にフウの身体は弾丸のように飛び出していった。


 (はっや……)


 イナが残り十メートルほどの頃にはフウはすでにゴールラインを超えて減速していた。

 フウの記録は六秒三、単純な走力に優れる他種族の生徒には敵わないにしろかなりの優良記録である。

 対するイナの記録は八秒二、全体で見れば平均程度ではあるがフウと比べれば二秒近くの大差をつけられる結果となった。


 その後もフウは目覚ましい結果を見せた。

 中でも垂直跳びや立ち幅跳びといった跳躍系の種目の記録は飛び抜けており、ヒョウ族やタカ族といった跳躍力に特化した種族の生徒にも勝るとも劣らなかった。

 そんなフウと比べればイナの記録は二歩も三歩も劣っており、生まれ持った能力の差を感じずにはいられない。


 だがそんなイナにもフウ相手に食い下がれる種目が一つだけあった。

 それは長座体前屈である。

 彼女の身体は非常に柔軟であり、頭と足を苦もなくくっつけることができた。

 だが一つだけ問題があった。


 (む、胸が……)


 イナは胸が支えて前屈を阻害されていた。

 身長不相応に大きいそれが姿勢によって自分の身体に挟まれ圧迫されるのである。

 結果は六十一センチ、本来ならもう少し伸ばせるはずだったが自身の胸に阻まれてここが限界であった。


 「おっぱい大きいと大変だねー」

 「余計なお世話です……」


 計測後、フウにおちょくられたイナは恥ずかしそうに口答えした。

 胸に関してはフウもイナほどではないが十分に大きい部類である。

 

 その後も体力テストは続き、残る種目ついに一つとなった。

 最後の種目は千五百メートルの長距離走である。


 「ウチ長距離だけは苦手なんだよなー」

 

 フウは一人ぼやいた。

 全体的に優秀な身体能力と体力を持つ彼女だが長距離走に関しては得意とは自負できない程度に苦手意識を持っていた。

 イナはフウの発言を真に受けずに送り出した。


 長距離走開始からおよそ数分、徐々に周回を終えるものが出始めた。

 その面々はオオカミ族やツバメ族、ハクチョウ族といったスタミナ自慢の種族の生徒たちであり、フウの姿はまだなかった。


 フウがゴールしたのは計測開始から約五分後であった。

 フウは減速しながらコースより内側に入ると足を止め、前屈みになって息を切らした。


 「あんま速くなかったっしょ」

 「これが苦手っていう人の記録ですか?」


 イナはツッコミを口に出さずにはいられなかった。

 フウのタイムは平均よりも速く、むしろ全体で見れば優秀な部類であった。

 

 次はイナの番である。

 フウからアドバイスを受け、顔を上げて背筋をまっすぐに伸ばしたフォームを心がけながらコースを周回する。


 「頑張れイナっちー、あと五百だよー!」


 イナは折り返しを過ぎた辺りでスタミナが切れかかっていた。

 フォームはぐちゃぐちゃであり、とてもアドバイスを実践できるような状態ではない。

 フウからの声援を受け、それだけを支えにどうにか足を動かしていた。


 イナがゴールしたのは約八分後、学年全体で見てもかなり遅い寄りの記録であった。


 「お疲れー。よく頑張りましたー」


 フウは干からびているイナに近寄ると彼女の頭を撫で回した。

 

 持久走を終え、体力テストは終了を迎えた。

 イナは持久走の疲労を引きずって疲労困憊である。


 「イナっち歩けるー?」

 「動きたくありません……教室まで連れてってください」

 「うーん、しょうがないなー」


 イナが冗談のつもりで言い放つとフウはあっさりとイナを抱き上げた。


 「今日はウチの勝ちかなー」

 

 フウは得意気に言い放った。

 それに対してイナは一切反論できなかった。

 

 「今日のところは認めてあげましょう」


 イナは負けを認めてフウに抱えられながら教室まで運ばれるのであった。

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