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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
白虎ちゃん
14/65

もしかして私ってかなり貧弱?

 ランニングを終えたイナはマシンから降りると膝に手をついて激しく息を切らしていた。

 疲労で耳は萎れ、顔は血が上って真っ赤になり、ふくらはぎが経験したことのない痛み方をしている。

 五分間ゆっくりと走り続ける、激しい運動はしていないはずなのに著しく体力を消耗していた。

 

 「お疲れー」

 

 フウは涼しい顔をしながら飄々とイナに労いの言葉をかけるとペットボトルのスポーツドリンクを手渡した。

 イナはボトルを受け取ると蓋を開けてドリンクに口をつける。


 「やっぱり体力ないじゃーん」

 「あなたがありすぎるだけです……」


 フウが煽り立てるとイナはすぐに言い返した。

 

 「これはいったん休憩かなー。休んだら次のコース行こー!」

 「ま、まだやるんですか?」

 「当たり前じゃん。あれだけじゃ体力つかないよー」


 フウはイナに平然と言い放った。

 二人の体力差は歴然である。

 

 「筋肉への刺激は脳の活性化にも作用します。学生さんなら勉強前のストレッチも効果的ですよ」


 カナメが唆すようにイナに入れ知恵をした。

 それを聞いたイナは多少やる気を見せたように耳を立てた。


 「はい。じゃあ次は懸垂いってみよー!」

 「懸垂は複数箇所の筋肉を同時に刺激することによる基礎代謝の向上や背筋を伸ばす姿勢を作ることによる背筋の改善などの効果があります」


 フウがイナを次のトレーニングに案内し、カナメがその効果を説明した。

 

 「イナっちは初めてだろうからウチが手本見せたげる」


 フウはそういうとマシンのバーに飛びついた。

 そのまま軽々と自身の身体を持ち上げ、顎がバーの上に来るまで上昇させるとそのままゆっくりと降下させていく。


 「こうやるんだよー。できそう?」

 「わかりませんね」 

 

 イナは絶句するばかりであった。

 トラ族が腕力に優れた種族であることを差し置いてもフウがなぜ軽々とそれをこなせるのかが理解不能であった。


 「まずは正しいフォームを身につけるところから始めましょう。私が指導します」


 カナメはそういうと有無を言わさない圧をかけてイナをバーの前に向かわせた。

 彼女の身長に合わせ、バーの高度が相応に下げられる。


 「ではまずはバーの掴み方から。順手で掴みましょう」

 

 カナメは隣のマシンで実演しながらフォームをレクチャーした。

 イナは見様見真似でバーを掴むがすでに腕がプルプルと震えている。


 「カナメさーん、足つけてもらった方がいいんじゃない?」


 イナの様子を見たフウはカナメに提案した。

 イナの基礎体力の低さはかなりのもので、すでに自重を支えられるかどうかすら怪しいほどであった。

 自分の目でイナの様子を見たカナメは同調してイナの爪先が床につく程度までバーの高度を下げた。


 「ではこの状態からゆっくり身体を上げていきましょう。肩に力を入れすぎず、肩甲骨を内側に寄せていく感じで、顎がバーの上に乗るぐらいの高さまで上げていってください……」


 カナメは懸垂のフォームを指導した。

 イナはイメージしながら懸垂をしようと試みる。

 身体は多少持ち上がるが肘が曲がらず、なかなか高度が上がらない。

 

 「うーん。キツイかー」


 懸命に取り組んではいるが目標まで達成できないのを見たフウはイナを回収した。


 「どうだった?キツかった?」

 「どうして自分の身体が持ち上がるんですか……?」


 フウが尋ねるとイナは息を切らしながら答えた。

 元々体力があるとは思っていなかったが予想以上に低かったことにイナは危機感を抱いた。

 

 「基礎体力と筋肉をつけていけばできるようになりますよ。まずは正しい姿勢で懸垂をできるようにするのを目標にしてみましょう」

 

 カナメの指導の下、イナは懸垂に挑戦してみたが結局目標とする正しい姿勢での懸垂は一回たりとも成功させることはできなかった。

 自身の体力不足を身をもって思い知り、イナは落ち込んでしまった。


 「まあお嬢ちゃん初心者なんだろう?まだ若いんだしこれからだって」

 「フウちゃん追っかけてればいつかできるようになるさ。だからまずは腕力と持久力を付けるといいよ」


 ジムの常連たちは落ち込むイナを明るく励ました。

 経緯はどうあれ、せっかく来てくれた新規層を根付かせようと手厚くもてなしている。


 「せっかく頑張ったからさ、この後カフェ行こうよ」


 フウはイナの肩を叩きながら気さくに誘いをかけた。

 その言葉にイナはすかさず反応し、萎れていた耳をピンと立てた。

 

 ジムに備え付けられたシャワーで汗を洗い流したイナはフウと共にジムを後にした。

 次なる行先は甘味の待つカフェである。


 「お小遣いが半分消えた……」


 イナは財布の中身を覗きながらぼやいた。

 彼女は遊びに行く際に母から小遣いを貰っていたものの、その約半分がジムの入会費で消えてしまったのである。

 これで一年間はジムを利用し放題になったものの、まんまとカナメと常連たちの思うつぼにハマっていた。


 「これからは学校帰りに通えるねー」

 「たまには勉強の代わりにあちらに行くのも悪くないかもしれませんね」

 「やっぱ身体動かすの楽しかったっしょ?」

 「まあ、多少は……」


 イナはフウと話をしながらカフェに向けて足を進めるのであった。

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