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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
白虎ちゃん
13/66

あの子の好きなことを私も知りたい

 週末の休日、イナはフウに誘われて遊びに出掛けていた。

 どこに向かうのかは知らされていない。


 「どこに向かってるんですか?」

 「行けばわかるって。もうすぐそこだし」


 フウはそういうと進行方向の先にある建物を指差した。

 そこの看板には大々的にこのように記されていた。


 「スポーツジム・オックス……」


 イナは建物の名前を読み上げた。

 フウが向かっていた先はスポーツジムであった。


 「あそこに行くんですか?」

 「そうだよ。ここなら身体を動かし放題!」


 フウは自分の趣味にイナを付き合わせる気満々であった。

 この時点でイナはすでに嫌な予感がした。


 「まさかとは思いますが私もあれをやるとか言いませんよね」

 「あったりー。よくわかってるじゃん」


 フウはイナを抱え上げるとそのままダッシュでジムへと連行していった。

 カフェに連れて行かれたときと全く同じやり口である。


 「ようこそ!スポーツジム・オックスへ!」


 フウとイナがジムに入ると受付でヒツジ族の女性が声をかけてきた。

 

 「利用していきまーす!この子は新規だからお試しで!」


 フウは自分の会員証を提示すると受付に利用の旨を伝えた。

 イナは会員であるフウの紹介によるお試しという形で今回のみ無料で利用させてもらえる形となった。

 イナの意思はガン無視しているがイナはフウの好きなことを理解しようと多少の無茶は承知であった。


 「あの、ここって私服で利用するところじゃないですよね」

 「大丈夫。スポーツウェア貸してくれるよ」


 フウはイナの肩を軽く叩くと更衣室へと連れて行った。


 「よーし。じゃあまずはここのトレーナーに挨拶しに行こー!」


 フウはイナを連れてジムの施設を巡りながらトレーナーを探した。

 その道中、イナは様々な利用者の姿を見た。

 イメージ通りの肉体改造に勤しむ屈強なライオン族やウシ族の男、バーに逆さにぶら下がりながら黙々と腹筋を続けるタカ族の男、中には女性の利用者の姿もあった。


 「女の人でもこういうところに来るんですね」

 「まあねー。ジムでのトレーニングは身体を鍛えるだけじゃなくて体力の向上や体型の維持改善にも効果あるからね」


 フウは得意げになりながらジムを利用するメリットをイナに説いた。

 フウがジムを利用する目的は身体を動かすという欲求の発散のためであるが他の女性利用者はダイエットや体型維持という目的でも利用している。

 

 「あっ、いたいた。おーいカナメさーん!」


 フウは施設内でも一際屈強なウシ族の男に声をかけた。

 カナメと呼ばれたウシ族の男はフウの方に振り向くと彼女たちに近寄ってくる。


 「やあフウちゃん。そこにいるキツネ族の子はお友達かな?」

 「あっ、はい。初めまして……」

 「初めまして。僕はこのジムのチーフトレーナーのカナメといいます」


 ウシ族の男は真っ白な歯を輝かせながら自己紹介した。

 彼はこのジムのトレーナーの中で最もえらい立場にある人物であった。


 「この子ジムの利用が初めてだからさ、いろいろ教えてあげて欲しいんだー」

 「いいでしょう。このジムにはどんな目的で来られましたか?」

 「あの、私はフウさんに何も教えられずにここに来て……」

 「そうでしたか。ではここでできることを紹介していきましょう」


 カナメはイナにジムの概要について説明を始めた。

 カナメはその屈強な外見とは裏腹に物腰は穏やかでイナにそれとなく安心感を覚えさせた。

 その裏ではジムの利用者たちが気さくにフウと会話をしている。

 

 「フウちゃん、俺たちと一緒に肉体美を極めてみないか?」

 「君にはボディビルの才能がある。ぜひボディビルの世界に来てほしい」

 「確かにここで身体動かすのは好きだけどさー、別に筋肉付けたいわけじゃないんだってばー」


 フウは筋肉隆々の男たちにボディビルに誘われていた。

 対するフウはこれまでにも何度も誘われていたらしく、若干辟易気味な反応を見せた。


 「フウちゃんと同い年なら基礎体力向上のためのトレーニングなんてどうでしょう?」


 カナメはイナに利用プランを勧めた。

 ジムの最も基本的な利用方法が体力向上のための運動である。

 この付近の運動部の学生たちもそれを目的にここを利用することが多く、それ故にサポートも充実している。


 「見たところ日頃あまり運動をしていないようですね。体力テスト、不安じゃありませんか?」


 カナメはイナの体形を観察しながら言葉巧みに誘いをかけてくる。

 多くの利用者を見てきた彼の目からすれば利用者の健康状態や適した運動強度を測るのは容易いものである。

 

 「うぐっ……」


 イナは図星を突かれて狼狽えた。

 座学の成績では常に学年最上位を維持している彼女だが唯一体力面だけは後れを取っている。

 体育が得意で座学が苦手なフウとは対極であった。


 「何ー、イナっち運動苦手なの?」

 「苦手じゃありません。少し日頃の運動が足りてないだけです」


 フウにおちょくられたイナは意地を張ってそう答えた。

 それが明らかに虚勢であることはフウを始めとした周囲の人物にはバレバレであった。


 「ではランニングから始めてみましょうか」


 やり取りを聞いていたカナメは笑顔でランニングマシーンの方へと案内した。

 イナはそのままなし崩しにマシーンに足を運ばされ、ランニングをする羽目になった。


 「これ……まだ続くんですか……?」

 「がんばれイナっちー。このペースであと三分だよー」


 イナはランニングマシーンを五分間耐久で走るというメニューを行い、折り返しも待たずに息を切らしかけていた。

 その隣ではフウが同じマシーンをほぼ倍速に設定して涼しい顔で走りながら励ましの言葉を贈っている。

 そんなフウの表情には余裕さえあった。


 「ランニングは体力づくりの基本です。持続する負担に耐えられる足腰と呼吸を乱さずに運動ができる強靭な肺を育みましょう」


 カナメはストップウォッチを片手にイナを応援している。

 イナがフウの友人ということもあり、フウと仲の良いジムの常連たちも自分の手を止めてイナを応援した。


 こうしてイナは数時間かけてフウと一緒にジムで基礎体力向上のトレーニングをすることとなったのであった。

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