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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
白虎ちゃん
12/65

トラ族にも苦手なものはあるらしい

 フウにメイクを施してもらったお礼にイナはフウに勉強を教えていた。

 科目は来週に小テストを控えている数学である。

 

 「うぐぅー。数学は数字見てるだけで無理ぃー……」

 「いきなり弱音を吐かないでください。それでもトラ族ですか?」

 「トラ族だって苦手なものぐらいあるしー」


 フウは教科書の問題を眺めながら机に伏していた。

 小テストの出題範囲は三角関数のみであったが彼女にとっては教科書に書いてあることすべては意味不明であった。


 「貴方が座学が苦手だということはわかりましたが、それでよくアステリアに編入できましたね」

 「学力試験はギリギリだったんだよねー」

 

 イナが呆れたように言い放つとフウは机の上でペンを転がしながら語った。

 彼女はアステリア高等学校に編入する前に一度学力試験を受けていたがそこでの成績も芳しくはなく、なんとか点数を稼いでギリギリ及第点という有様であった。


 「小テストの範囲は狭いですから、一部だけで解き方を覚えて点数を確保しましょう」


 イナは作戦を決めるとそれに乗っ取ってフウに勉強を教えることにした。

 

 「はい。じゃあまずはこの問題を読んでみてください」

 「えー、次の角を弧度法で表せ?」


 フウは問題文を読み上げて早々に首を傾げた。

 

 「弧度法って何?」

 「弧度法は円周に対してどれぐらいの長さになるかで角度を表記する方法で……聞いてますか?」

 「聞いてるんだけどわかんなくてさぁ」


 フウは数学の問題に目を回していた。

 彼女の座学に対する苦手意識は相当なものであった。


 「じゃあ手っ取り早く解き方を教えましょう。まず円周率はわかりますか?」

 「あー、あのなんか無限に数字が続く奴」

 「それです。弧度法に直すときはこの円周率を使います」


 イナは問題の解き方をフウに手引きした。

 理屈で物事を考えるのが苦手なフウに対してはまず簡単に解き方だけを教えて実践させるのが最善であると考えたのである。


 「弧度法への直し方は今教えた通りです。では百二十度を弧度法に直してみてください」

 「これは……百二十×百八十分のπ、で合ってる?」

 「式は問題ありません、それを解けば答えが出ます」


 イナはフウを誘導しながら計算をさせた。

 幸いなことにフウは分数の四則計算なら問題なくできるようであり、ほどなくして答えが出される。


 「できた!」

 「ふむ……大丈夫です。合ってます」


 フウの回答をイナが採点し、それが正当であることを確認した。


 「おぉ……自分で解けた……!」

 

 フウは自力で問題を解けたことに感動し呆然としていた。

 イナの助力があったとはいえ、苦手なはずの学問と真正面から向き合うことができたのである。


 「どうですか?ちゃんと問題を解いてそれが合ってるとキラキラしませんか?」


 イナはフウの言い回しを一部引用する形で尋ねた。


 「うん!すっごいキラキラした!」


 フウはさっきまでの渋い表情から一転して明るい表情を見せた。


 「よーし、やれるだけやるぞー!」

 「ふふふ。その意気です」


 問題を解いて答えを出すことにキラキラを見出したフウはようやく勉強に対してやる気を見せた。

 イナはそんなフウのやる気を維持させながら類似する例題を出題してそれを何度も解かせた。

 

 「これってなんで答え違うの?」

 「単純な計算ミスですね。式の組み立て方は合ってるので落ち着いて計算すれば次は正解できます」

 

 イナはフウの勉強を見ている内に気づいた。

 彼女は確かに勉強が苦手だが決して自頭が悪いというわけではない。

 単純に苦手意識が先行してモチベーションが向けられていないのであり、そこさえなんとかできれば改善の見込みはあった。


 「うぅー……勉強って身体動かすより疲れるぅ……」


 数時間ほど勉強したところでフウは限界を迎えて床にあおむけに寝そべった。

 モチベーションが向いたとはいっても慣れないことをしていることには変わりなく、体力を消耗していた。


 「今日はこれぐらいにしましょう。お疲れ様です」


 イナはフウに労いの言葉をかけた。

 他人に座学を理解させるのはイナ自身も体験したことのないことであり、大変であったが確かな手ごたえとやり甲斐も感じていた。

 

 「イナっちー。また勉強教えてよー。イナっちに教えてもらえばウチもやれる気がするんだよねー」

 「そうですか。その時はまた声をかけていただければ」


 フウはイナを称賛すると同時に約束を取り付けた。

 それに対してイナはそっけなく返事をするようでフウに求められることに喜びを感じてまんざらでもない思いをしていたのであった。

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