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白虎ちゃんのお気に入り  作者: 火蛍
白虎ちゃん
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私が私じゃないみたい

 フウとイナはそれぞれ帰宅すると、イナはカバンを自室に置いてそのままとんぼ返りで家を出ると玄関を施錠し、隣のフウの家のインターホンを鳴らした。

 するとものの数秒でフウが制服姿のまま飛び出し、イナを招き入れる。


 「よーし!ではメイクの真髄を教えてしんぜよー!」

 「どういうキャラですかそれ」


 フウは目を輝かせながらコスメグッズを並べた。

 ガラでもないキャラ付けをしたフウの喋り方にイナは思わず突っ込みを入れる。


 「というわけで、なんか簡単なメイクやってみよっか。うーん、何がいいかな……」

 

 フウはいつもの口調に戻るとイナの顔をいろんな角度から見まわした。


 (か、顔が近い……!)


 イナはフウの顔が目と鼻の先まで迫ってドキドキさせられていた。

 フウのライトブルーの瞳がイナの視線を引き込むように光る。


 「うーん……肌超白いし、まつ毛もめっちゃ長いし、これ手入れる必要あんのかな?てか顔ちっちゃいし眼も綺麗…………」

 

 フウはイナの顔をまじまじと観察しながら唸った。

 イナは小顔な上にすっぴんの状態でも肌は美白に保たれており、まつ毛も付け加える必要がないほどに長い。

 年頃の少女が求める美人の条件を背丈以外すべて素の状態で揃えているといっても過言ではなかった。

 さらにはイナのメガネの奥から覗く暗い金色の瞳が底知れない魔性の何かを放っているように見えてならなかった。


 「イナっち、今まで彼氏とか作ったことある?」

 「いえ、ありませんが……?」

 「え、じゃあこんなにすごいものがずっと隠れてたってこと!?」


 フウは恐ろしいものを見るような視線をイナに向けた。

 フウの目から見たイナは才色兼備の逸材である。

 そんなイナが今まで男に触れてこなかったのは奇跡を通り越して何か抑止力が働いていたのではと邪推するほどであった。


 「あの、お化粧はどうするんですか?」

 「そうだなー。よし、ナチュラルメイクで行こうか」


 フウはナチュラルメイクを施すことを提案した。

 元が整っているイナにはメイクで何かを足す必要はない。

 むしろ元々持っているものを活かす方向に進めることにしたのである。


 「ナチュラルメイクって何ですか?」

 「派手派手ーって感じじゃなくて、ちょっとだけやりましたーみたいに見せるメイクのこと。イナっち元が綺麗だから余計なもの盛らない方がよさそうだと思ってさ」


 フウはそう言うとコスメグッズを物色し始めた。

 イナに施すナチュラルメイク用の下地作りをするつもりであった。


 「じゃ、下地からやっていこー」

 「下地?」

 「メイクをするための土台みたいなものだよ。下地を作るとメイクの乗りがよくなったりするんだー」

  

 フウはイナに説明しながら下地用のグッズの数々をイナの前に出した。

 

 「こんなにあるんですか!?」

 「そうだよー。これ全部つけるってわけじゃないけどね」


 イナは下地の数の多さに目を丸くして驚いた。

 洗顔料、化粧水、コンシーラー、ファンデーションにフェイスパウダーと下地だけでもこれだけの多さがある。

 フウがメイクに時間をかけて遅刻しかけるのも納得であった。


 「ちょいと失礼」


 フウは携帯を取り出すとイナを顔を正面から撮った。

 イナはその意図がわからず首を傾げる。


 「なぜ撮ったんですか?」

 「後で見比べる用。そっちの方がわかりやすいっしょ」


 フウはメイクを施した後の変化を見比べるためにイナの顔を撮ったのであった。


 「じゃあ試しに私がやってあげるね。まず洗顔料使って顔の汚れを落としてー、化粧水で肌に潤いを与えるの」

 「そこから始めるんですか」

 「もちろん。メイクをする前から顔が汚れてたら意味ないからね」


 フウは饒舌にメイクのあれこれをイナに語った。

 メイクのことを教えるというのは嘘偽りなく、彼女は本気でやり方を一から教えるつもりであった。

 

 「大変っしょー」

 「お化粧一つでこんなに時間がかかるものだったなんて知りませんでした」

 「イナっちはその辺恵まれてるからこれでも短めで済んでるぐらいだよー。ウチなんて一時間ぐらいかかっちゃうし」

 「朝の七時からお化粧を?」 

 「そうだねー。オシャレは気合と根性だよ!」


 フウはオシャレにかける気概を語った。

 イナの正面に相対し、メイクを施すフウの目は真剣そのものであった。


 「私たち女子ってさ、大人になったらメイクはバリバリにしなきゃいけないのに学校じゃやり方とか何も教えてくれないのヒドイよね」

 「考えたこともなかったですね」

 「羨ましー」


 フウはメイクについて思っていたことをイナにぶっちゃけた。

 女子たるもの、生きていくうえでメイク技術は必携である。

 しかし学校ではそれを教えてはくれない。


 こうしてメイクを施すこと十数分、フウはコスメ道具を置いた。

 イナ用のメイクが遂に完成したのである。


 「出来上がりー。ほれ見てみー」


 フウはいつも通りの明るい表情に戻るとイナの前に鏡を出してその出来栄えを見せた。

 メイクによってイナの美白さが推し出され、パッと明るく見えた。

 フウが携帯の画面ですっぴんの状態のイナを顔を見せ、イナはそれと鏡に映る自分とを交互に見比べる。


 「すごい、これが私……?」


 イナはメイクの出来栄えに感心した。

 派手さを出さずにただ綺麗に見せるフウのメイクの腕は自分にはないものであった。


 「すごいっしょ。これぐらいならイナっちでもできるようになるよ」


 フウはそう言うとイナにメイクの方法を紹介する動画のURLを送った。

 

 「ありがとうございます。帰ったら見てみます」

 「うんうん。イナっちも女子力ってのがわかって来たねぇ」

 「そういうフウさんは、学力に向き合ってくださいね。来週小テストですよ」


 得意げになるフウに対してイナが小言を差すと、フウは渋い顔を見せた。

 彼女は座学が大の苦手であった。


 「うぐ……イナっち助けてよぉ」 

 「仕方ありませんね」


 メイクを教えてもらったお返しにイナはフウに授業の内容の復習をつけるのであった。

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