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第6話 シャンデリア事件(1)

――さて。とりあえず、アルグランデ領農作物総生産量についての確認はこんなところかしら…。


 すっかり外は暗くなり、外では森に住む鳥達が我が家へと帰っていく。

 そんな穏やかな様子を窓際で眺めながら、私は大きく伸びをした。


『お前達の国は然る時に出現する大きな邪悪によって国を傾けられる…お前達の濁ったこの国に異世界から我の愛し子が舞い降りるだろう。』

あの神が帝国内を騒然とさせてから、はや2ヶ月。

私は食事も忘れ、寝る間も惜しみながら、諸外国をあちこち飛び回っては、アルグランデ領との特産物独占交易を行う約束を取り付けた。


 それは全てアルグランデ家の権力向上に伴う強い発言力、および絶対的な信頼、そして…


 ――あの日神によって伝えられた膨大な情報そして、私が実際に見た未来。

 その情報を整理していくうちに、あるおかしな点を見つけた。

 螺旋階段上に設置されたシャンデリアだ。

昨年のアシュルス殿下生誕祭で見た時、間違いなくシャンデリアは我がアルグランデ領のダイアモンドをふんだんに使った、それは見事なものであった。

しかしあの未来で見たシャンデリア…よく思い出すとおかしな点があった。未来ですれ違った時の私は、おそらく疲労を隠すためだろう、とても分厚い化粧をしていた。なのにも関わらず、顔が青白く見えた…おそらくシャンデリアの光が宝石に光が反射したためのもの。

しかし我が領のダイアモンドは透明度が売りの宝石…シャンデリアの下にいる者の顔色が悪く見えるほどの、青色を映し出すことはありえない。

そして、アシュルス殿下が魔王になる瞬間、シャンデリアが点滅していたが、あれもおかしい。

そもそもアルグランデ製のシャンデリアは周りの光や太陽光を特別な技術で拡大して反射させる。

シャンデリア自体に光源があるとうい訳ではない…。つまり、周りの光が消えたとしても、シャンデリアはだんだんと薄暗くなっていくだけのはず…


 これらの状況から鑑みるに、あのシャンデリアは…



「「模倣品…」」

 


後ろから流れる水のような爽やかな声がした。


「…はぁ、レイヴン。何の用?」

「さすが、お嬢様。よく気づかれましたね。」


 メガネをかけた青髪のいかにも真面目そうな男がドアの前に立っていた。

「気づくも何も…声を聞いたらわかるわよ。」

 

いつも貼り付けたような笑みを浮かべているレイヴンがクスリ、と笑う。

「ははは、私め、旦那様の声真似をしてみていたのですが…」


 はぁ…。何を言っているんだろう、この男は…

「あなたの声は中低音で落ち着く感じ、お父様の声は重低音で相手に威圧感を与えていく感じ。確かに少し声は低かったけれど、あなたか、お父様かくらいなら見分けられるに決まっているでしょう?…それで?要件はなんです。」


 「…いやはや、さすがです、お嬢様。私めのような者の声までも覚えていらっしゃるなんて光栄の至りでございます。…さて、本題ですが、お嬢様から仰せつかった『おつかい』が完了しました。やはりクロのようです。こちら、資料になります。」


そう言ってレイヴンから受け取った資料を、めくっていく。

 資料にはアルグランデ領の東に位置する大規模農業地帯・トラフィズ伯爵領の近年の住民数の移り変わり、疾病者数、川の汚染実態調査なのどの結果が示されている。

 

「えぇ…だろうと思ったわ。」

 シャンデリアの模倣品…おそらくあれは、他国で作られたものだ。

 そしてトラフィズ伯爵家が王家のシャンデリアをそれと取り替えた。

 しかし…一体なんのために?レイヴンの持ってきた資料で、大体のことはわかった。

もし失敗して、ことが公になってしまえば、反逆罪で殺されるような大罪を犯す理由がわからない。

 その農業に最適な土地質と広大な領土で伯爵まで上り詰めたと言うのに。

 

一体、これから15年の間に何が起きているというの…?


「それにしても、お嬢様。なぜ、トラフィズ家の動向が怪しいことに気づいたのですか?」


 そういえば、私が神と対話をして、未来を見せてもらったことなんて誰にも喋っていなかった。自分で全て対処できると思ったから。しかし、部下に不信感を持たせるのは、上にたつ者として不適格。で、あれば…


「レイヴン…実は私ね…カクカクシカジカ、カミカミと賭けかけで…」

 レイヴンは私の話を一度たりとも瞬きせず私の目を見て、とても真剣に聞いていた。(少し真剣すぎて怖かった…)


 そして、半ば呆れながら言った。


「見たものは全て覚えていると言っても限度があります…お嬢様。私め、食器を一つ割ってしまった時も、数千の食器の中から、一つだけ食器がなくなっている事にお気づきになった時にも、驚きましたが。」

「えぇ、まぁ、そう言うこと。…それで、少し確かめたいことがあるから…レイヴン、私、トラフィズ領にいくわ。」


「は。お嬢様。かしこまりました。明日すぐに馬車を手配します。しかし、今日はご自分の部屋にお戻りください。5歳のお体に夜更かしは障ります。」


 レイヴンのこの小さな気配りが心地よく、何百人もいる使用人の中から側使えの1人として彼を選んだ。


 今のこの疲れ切った体にはこの優しさ  が染み…わ た   る…





――――あぁ。やはり書斎で寝てしまわれた。

 俺はお嬢様を持ち上げて、彼女の部屋へと運ぶ。

 …軽すぎる…5歳といえどこの軽さはなんだ…!?空気を持っているみたいだ…

 

お嬢様を抱えて、渡り廊下を通っていると、メイド達がボソボソ何か喋っている。


 『あぁ!お嬢様…今日もお可愛らしい…それにしてもあの執事あのようにお姫様抱っこをするなんぞ100年、いや、10000年早いのでは?!私の方が絶対に有能なのに!!』

『しーっ!聞こえるわよ!けれどあの執事、《《顔だけ》》はいいから、お嬢様と一緒の姿は、本当に絵になるわよね…まぁ、所詮《《顔だけ》》!顔《《だけ》》ですもの!能力で言ったら私の方が上だもの!待っていなさいよ!ブルーヘアイカ野郎!!』

 

…聞かなかった事にしておこう。

 様々な障害を乗り越え(主に使用人たちの俺への中傷)、お嬢様を無事お部屋まで送り届け、自室へ戻った。

 

そして枕に思いっきり顔を埋め――


 『あぁー!お嬢様!可愛すぎる!可愛すぎる!天使!!!?天使なのかな?!あのサラサラストレートうる艶髪…ちゅるちゅるの水色のおめめ…!しかも努力家でなんでもできちゃうとか…!もう最高にえらいで賞あげたい…副賞は俺♡なんて…今日、お嬢様が僕の名前を覚えていらしてた…!!僕の存在を知っていてくださった!あぁ…僕のお嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様………!!…愛してます。愛しています…本当に…世界一…♡』


レイヴン。アルグランデ公爵家の花・ニフェルの側仕えに齢17にして選ばれる。

ニフェルガチ恋勢であり、市街でのニファ親衛隊拡大活動への注力には目を見張るものがあったという…。ニファ親衛隊生活部門副隊長。

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