第5.5話 ニファ親衛隊
ハクシュン!
「あら?ニファ様、お風邪を召されましたか?」
「ウラン、心配ありがとう、でもおそらくそこのお花のせいね。私はあの花、ルイザスが近くにあると花粉症を引き起こしてしまうの。とても色味は綺麗だし、街でもこの時期には人気の花だけれど…とっても残念だわ。そうだ!良かったら、ウランのお部屋に飾らない?とっても素敵だと思うわ!」
「うふふふ、ありがとうございます、お嬢様。ありがたく頂戴いたしますね。」
――たまったもんじゃない、その毒入りのルイザス、一週間でもそこに置いておけば、その空気を吸った者は中毒で死ぬ!これの効果が完璧に出るまで、あと3日だったが…しょうがない。ここは一旦こいつの言うとおりにして…花は処分しよう。
「えぇ…いいのよ…」
目を細め、5歳児とは思えない不気味さを出しながら言った。ゾクッと寒気がして、もしや私が奴を殺すために潜入している暗殺者だとはわかっていまいか………
「ふわぁ。こんないい天気だと流石に眠くなってしまうわ…春の陽気ってなんて罪深いのかしら…」
……大丈夫そうだ。
*翌日*
「ウラン!ウランはどこ!?ウラン!!」
「お嬢様!どうされましたか?!」
「あぁ…!良かった!ウラン!無事で!あなた、いじめを受けているんでしょう?」
「は………」
彼女は手元に昨日捨てたはずのルイザスを持っていた。
「ほら!見て………あなたにあげたはずのウランが《《なぜか》》捨てられていて、《《たまたま》》私がそこのゴミ捨て場で見つけたの。………ねぇ。ウラン。あなた、いじめを受けているんでしょう!?しかも…ほら、見て、このルイザスの花…中に《《なぜか》》毒が入っていたの!誰かあなたのことを気に食わない人がいたのね!いじめの主犯はわかっている?教えてくれればすぐに対処するわ…」
っっ!!!…これは確実にばれている。どうするべきか…隠し持っている暗器で殺しておきたいが、依頼主に体に傷をつけるな、と念を押されている…
そういえば、5ヶ月彼女の家で潜伏して分かったことだが、彼女の器の広さは尋常ではない。彼女のお気に入りのティーカップを割った侍女は、1週間の草むしり、曲がり角でぶつかり、彼女に全治二週間の怪我を負わせた男は、1ヶ月の早朝パトロールを命じられた。本来だったら、職を解雇され、男に関しては、最高位貴族に怪我を負わせたことで死刑に処せられてもおかしくなかった。しかし、彼女は行ったことに対する罰は与えるものの、やった事と全く釣り合わないような奉仕活動ばかりだ。
で、あれば…!
「っも、申し訳ありません…私が自らその花に毒を入れ、ニファ様を暗殺しようとしておりました…しかし!あなた様に悪意があるわけではございません!ただある悪人に脅され、両親を人質に取られていたんです…本当に申し訳ございませんでした!」
「…あぁ。そうだったのね。それは辛かったでしょう。しかし、どんな理由があろうと、人の命を奪おうとする行為はこの国では罪に問われてしまいます。ですから、私はあなたに1ヶ月の馬屋の清掃を罰として与えます。」
「はい!あぁ!ニファ様!愚かな私をどうかお許しください!」
ちょろい!ちょろい!ちょろすぎるー!両親なんてとっくに死んでいるわ!!
暗殺成功までは必ずこの邸宅にいなければならないから解雇されなくて良かったー!
――確かにウランの言うとおり、ニファの罰はとても甘い。
最高の気分よ!スキップしながら馬屋へ行っちゃうわ…?
――しかし、奉仕活動を終えた彼らは残らず
何、あいつ
――依頼者への連絡を完全に絶っている。
ら゙…
口から何か赤いものがぽつりぽつりと落ちてくる…
「あ゙…あ゙……!」
声が出ない!喉に強烈な痛みが走った。続いて鎖骨、胸、そして…心臓。
痛い痛い痛い痛い!!何!?なんなの!?
――彼女が意識の途切れる最後に見えたのは彼女と同じこの邸宅の召使とメイドたちであった。
ただし、暗殺者ウランと異なっている点は、彼らがニフェル・アルグランデを崇拝している《《元暗殺者》》であると言うところだ。
召使兼暗殺者をしているうちに、この世の全てに愛され、何もかもを兼ね備えた彼女の姿を崇拝するようになり、彼女の命を狙うようなものがいれば、即再教育を施す。
『我らが正義は唯一至極、女神の慈悲を骨の髄まで焼き付ける。』
――彼らは『ニファ親衛隊教育部隊』と呼ばれており、一度その再教育を受けたが最後、ニファへの忠誠は絶対的なものとなる。
尚、その者達の中には、ティーカップに毒を塗りニファに毒を飲ませようとしたメイドや、ニファに曲がり角でぶつかって、殺人蜂を寄せ集める薬品を塗り、彼女を殺そうとした従僕も含まれている。