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私の婚約者は悪役令息(じゃなかったんですか?!)  作者: 焼きそばこっこ


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第34話 お説教

「――あるところに小さな小さなお姫様がいました。お姫様はその完璧な容姿、人柄、立ち振る舞いから、多くの人に好かれていました。

 けれどもある日お姫様はそんな自分を過信しすぎて大切な大切な物を失ってしまったのです。それから彼女は毎日泣いて、泣いて、泣いて…いつの間にか人々から恐れられる恐ろしい悪魔となってしまいました…」


温かな木漏れ日が窓にさす。


自慢の腰ほどまでの高さのある髪が隙間風に吹かれても、こちらの方をチラリと見ることもなく、母は前を向いて昔から伝わる童話を口ずさむ。


その声色に、昔童話を読み聞かせてくれたようなあの暖かさはない。


「…本当に申し訳ありません」


 私は先ほどからその一言以外碌に口を聞くことはなく、ただ俯いて両親の話を聞いていた。


*****


 (レオン)との対面が一通り終わった後、レオンは一旦退出するよう言われた。


「え、そ、それは、僕がその場にいてはお邪魔になるのでしょうか…」


 レオンは少々怯えながら、お父様に言った。


 数日前に初めて会った新しい家族にいきなり仲間はずれにされればそれは確かに気が気でないだろう。


「本当にすまない、レオン。だが、これはニフェルの将来にも関わる大切な話なんだ。レオンが私たちの家族の一員になった今、このように仲間はずれにされるのは本当に心配だろう。ニフェルの心の覚悟ができたら、すぐにはニフェルの口から話してもらう。決して君を仲間はずれにしているというわけではないということだけ、どうか覚えていてほしい。」


 お父様は申し訳なさそうに、けれどまっすぐな視線をレオンに向けた。


 レオンも納得したようで、私の方に一瞬視線を向けた後一礼して使用人の案内についていった。


 部屋の暖かさが一気に無くなる。


「ニフェル・アルグランデ…こんな話を、聞いたことはありますか?」



 *****そして冒頭に戻る******



しばらくの静寂が続いたあと、お父様がゆっくり口を開けた。


「お前の残していた手紙は読んだ。お前がこの国の存亡を1人で背負っていることも理解している。けれどもお前のその自分勝手が、1人の尊い領民の命を奪った。…その事実はわかっているのか?」


ドレスの上で手のひらから血が出そうなほど強く握りめている手。けれどもその表面にはやはり傷の一つもない。


頭の中に(マリウス)の水脹れの破けた跡があって、タコもたくさんあったたくさんの傷のついた手が、うっすら浮かぶ。


「…はい」


「これは謝れば済むという問題ではない。

謝ったとて、失われた命は帰ってこない。

…情報によれば、彼がお前を庇うように守ったことで当たった矢が命中したらしいな。

…逆を言えば、お前が単独でこんなところに来ようとしなければ起こっていなかったはず

…いや絶対に起きていなかった出来事だ。

…そして残念なことに我らアルグランデ家は皇室に代々仕える名門公爵家。

そこらの一般庶民を殺される原因を作ったとしてもお前には何のお咎めもないわけだ。…」


「…申し訳ありません」


お父様は大きくため息をつく。呆れではない、怒りのこもったため息。


 「ニフェル・アルグランデ。私がお前に求めているのは謝罪ではない。これからのお前の誠意の見せ方だ。これからのお前の変わり方だ。…たとえこの国を滅亡させないために必要な行為であったとしても、それで周りが不幸になってしまうのであればそんな大義、今すぐ捨てなさい!そして己の弱さを頭の中に叩き込みなさい!」


お父様に自分がひっかっかっていたものを全て図星に言語化されて自分の愚かさを改めて理解する。


「はい…申し訳ありません」


 童話を話してから先程までずっと静かに聞いていたお母様が声を出す。


「私たちはわかっています。あなたの背負う大きな荷物を。けれども私たちはあなたの事が大事だから、宝物だから、あなたを失いたくないのです。あなたは自分より三回り四回り年の離れた人々とも対等に話す事ができる。そんなあなたの長所があなたにほんの少しの慢心を与える。それの積み重ねでこのような事が起きてしまった。」


「……はい。」


母が隣の私の方を見つめる。

初めて目があった。

薄紫の瞳は光に反射してより輝いて神秘的に見える。

その中にはうっすら水が溜まっている。


「ニファ。あなたのことを愛しています。だから、どうか…無茶なことはしてくれないと約束してくれないかしら?」


少し声を震わせ、私の頬を優しく撫でる。


お父様も私たちの座っているソファの方にやって来て、私の頭を撫でる。


 自分のせいで人の命を奪ってしまったことと、そんな私でも両親が心から愛していること、自分がどれだけの人に迷惑をかけることをしたのかということ、全部が心の中に入ってきて頭がぐちゃぐちゃになる。


「………はい…!」


 両親の温かな手の上に、水でぐしょぐしょになった手を添えて、私はそう一言、言うことしか出来なかった。

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