第29話 美しい彼女
自分と同じようにココロに侍っていた能無し豚のアシュルス殿下。
彼の婚約者との婚約を破棄する場。
僕が大声で「ニフェル・アルグランデ!ここへ!」そう言うとふらついた足取りで、今にも倒れそうな顔色の女性が僕達の前にやってきた。
けれども足を一歩引き、少し薄汚れた若草色のドレスの両端を丁寧に広げ、膝をかすかに折って、頭をゆっくりと下げる姿はまるで舞台の一幕を見ているかのようで……。
あれほどふらついていると言うのに、カーテシーは非の打ちどころのない一級品だった。
真っ青な顔をしながらも目にはまだ対話をしようとする意志を感じられる。
思わず彼女の勢いに飲まれそうになったものの、そんな僕を傍目に計画通り、彼女の断罪は行われた。
僕達は本来アシュルス殿下が座るはずの玉座にココロを座らせ、彼女も満更でもない顔でしたから彼女を見下ろしている。
『ニフェル・アルグランデ!お前はこの偉大なる神の愛し子、ココロに度重なるいじめを繰り返した!これは事実か!?』
『っいいえ!それは全くの嘘でございます!リチャード様…』
「はぁ…しらばっくれても無駄だよ、全部ココロが証言してくれているんだ。君は、彼女に毒の入った手紙を送ったり、肌に良い香水と偽って皮膚が爛れる薬品をプレゼントしたそうじゃないか!」
台本通りの文章を読み上げる、一応僕は彼女の生家アルグランデ家に従属する立場であるから、敬語でなければならないんだが…そんなことを気にしていたらまた彼女の機嫌を損ねてしまう。
「嘘です!私はそのようなことを一切しておりません!!そ、そうだ…その手紙を送った日、プレゼントを送った日を教えてください!毎日の行動記録が記されているはず…」
先ほどの緊張を感じさせないカーテシートは違い、指先も声もずいぶん震えている。
それに心配とは裏腹に公爵令嬢は僕に気づいていないのか、全く自分が敬語を使っていないことを指摘されなかった。
――それにしても、この令嬢、おそらく無実なんだろう。見ていればわかる。このような人間がココロのような性悪な人間を虐められるはずがない(どちらかというと虐められる側)。まぁ、この計画を作ったのは全て殿下だし
…僕は関係ないけれど。罪悪感はこれっぽっちもありはしない。
…うそだ。ほんの少しあった。あのような崖っぷちでも毅然とした公爵令嬢らしい態度。会場の全員が敵であるというのに指先一つ震えさせず立ち向かう姿は賞賛に値したし…美しかった。
そんなことを考えているうちにいつの間にか、この寸劇も終わりを迎える。
令嬢は衛兵に連れて行かれてボロボロと泣きながら殿下に向かって叫んでいる。
しかし玉座の後ろの方にいた殿下は彼女の方など見向きもせず情けないニヤついた顔で鼻息を荒くしてそれはもうキモ…珍妙な?雰囲気を醸し出しながらココロに近づき片膝をつき、指輪を取り出した。
……あーあ、待て待て。
「コ、コココ、ココロ!これで、き君の願いは叶えた!ぼぼ、僕と、!けけけ、結婚してくりぇ!」
そんなことしたら
「ふ、ふぇぇぇ!なんだか気持ちの悪い人が私に話しかけてきますぅぅぅ!ハスマフ王子…!私ぃ、怖いぃぃぃ!!」
こうなるに決まってるんだよなぁ~。
今まで、一応ココロは面と向かって殿下を拒絶することはなかったけれど(まともな対応をしたこともないけれど)、欲しいものをあらかた買わせて、婚約者を捨てさせた今、彼女にとって殿下は必要ない存在となった。
ただでさえいいところが金を持っているところしかない能無し豚と呼ばれる殿下だ。いつか切り離すことは目に見えていた。
「そ、そそそんな…ぼぼ、僕は、きき、き君のことを、おもも、お、想っていたのに、そそそそそそそそそそ、そんな、バカなバカなバカなバカなバカな…うわぁぁぁぁぁ!!」
頭を抱えて、玉座のある高所から階段を転げ落ちた後、 突然叫び出して、頭がおかしくなったのかと思うと殿下の背中からドス黒い羽が生えてきた。頭にはツノが生えてきて、元々荒れていた皮膚はより凹凸が激しくなり、色も小汚い茶色へと変化した。
周りからは薄気味悪い紫色の煙をだして、周りの真っ赤なカーペットはすでにその煙にあたってか、黒色になってしまっていた。
大きさも通常の殿下の2倍、3倍と大きくなっていき、ココロの方へと階段を登ってゆっくり近づいていった。僕はもちろん、逃げ出して階段下の横の像に隠れていた。
他にココロに侍っていた男達も気付けばココロの周りからいなくなっていて、階段の上ではココロとバケモノの一騎打ちになっていた。
……その後、ココロの叫ぶ声が…したものの、私はうまく聞き…取れなかった。毒だろ…うか、頭もうま…く回らないし、心臓が…縛り付けられるように痛い…息も…できない……ココロも死んで…私はここで死…ぬんだろうそんな気がする……正直ココロも、この舞踏会に来ている兄もどうせこの毒で死ぬだろうからここでアレが死んだとても悔いは、まぁ、ほとんど…ない。
あるとすれば………
――先ほどの美しいカーテシーが蘇る。薄々気づいていた…私はあの令嬢に恋をしていたらしい。
しかし……時すでに遅し。彼女は城の地下の…牢屋に捕まっている…だろうから、死ぬ…のも…時間の…問題で、俺も……こんな状態だ…から助けに…行くことさままなら…ない。
「あぁ…もっと、もっと早く出会えていれば…!」
そう言って、ウィジーの鼓動はゆっくりと、止まっていった
~BAD END~
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