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私の婚約者は悪役令息(じゃなかったんですか?!)  作者: 焼きそばこっこ


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第18話 筋肉ばか

用水路で白いローブを羽織った3人が、せっせと何かをしている。

 

男性陣の信者様達に挨拶をしたいという申し出は女によって即却下され、奴らからおよそ5メートルあたりにある水車の裏に隠れてしばらく観察をしていた。



 彼らが水に向かって何か叫びながら飛び込んだり、仲間の顔を思い切り水に押し付けて、相手が水の上にかがげる合掌を失神して解くまで決して離そうとしなかったりするその様子は狂気そのもので、

その様子はさながら悪魔教のようであった。



私たちに想像もできないような所業を繰り返しているのは分かっていたものの、

ここまでだとは思っていなかった。


 若干顔を引き攣らせながらも、得意の庇護欲MAXフェイスで大人達に言う。


「あ、あのね…!わ、私のお母さんあの人達と遊ぶねって言ってからそのまま帰ってこなかったの…!だから、多分ね!あの人達も私のお母さんを探してくれてるんだ! 」



 大人達の顔が固まった。そして私を男性陣の1人の背の高くて1番屈強そうな男に私を抱っこさせてから、他の男達に集合をかけ少し離れたところで緊急会議を始めた。



 わざわざこうやって距離をとって話し合いをするのは私への配慮だということは分かっているけれど、申し訳ないが、私の耳は地獄耳。

どれだけ声を潜めようとも彼らの話は盗み聞くことができる。あちらの会話を聞き取ろうと集中しようとすると、私を抱えた男が話しかけてきた。


「なぁ!お嬢ちゃん、ちょっと俺とおしゃべりでもしていようぜ!

そうだな…まずは自己紹介から!俺の名はマリウス!この街1番の筋肉の持ち主さ…!

お嬢ちゃんの名前は?!なぁ!なぁ!」


 少々うざったいがしょうがない。おそらく私のメンタル面を心配してのことだろう。


「…フェリーです!お兄さん!」

「そうなんだな!可愛い名前だ!それにしてもお嬢ちゃんは少しか弱すぎるんじゃないのかい!ほら!僕の高密度の筋肉を見てごらん!特にこの腹斜筋、これは体幹の回旋動作を高負荷下でコントロールしてんいるんだ!ランドマイン・ローテーションで腹圧キープしたまま捻ってるから、インナーマッスルもちゃんと活性化されてるんだ!ほら!触ってみるんだ!ほら!ほらほら!」



「…」



 この男、思いがけない曲者だ…と思いつつ目の前に否応なく差し出される腹斜筋を私は大人しく黙って撫でながら、離れたところで私をこのやばいやつと2人きりにしやがった大人達の会話を聞く。


  女はすこぶる焦った声色で声を出している…


 『ねぇ!一体あいつらは何をしているの?!さっきからやってることが尋常じゃないわ!』


『俺たちだって何が起きてんのかさっぱりわかんねぇ!それに、さっきのあの嬢ちゃんいいぶりではあの子の母さんは信者と接触した後に失踪したってことだろ…?もしかして…』

 

男達もずいぶん焦っているようだ。全員が黙って俯いている。

 


やっと理解したか。



「お嬢ちゃん!俺の腹斜筋!素晴らしいだろ?!他のも触ってみるか?!そうだな!大腿四頭筋内側広筋なんて美しいぞ!ほらほらほら…」


「…」


 そう言いながら5歳の幼女に太ももを露出させて見せびらかす様子はもはや変質者以外の何者でもなかった。


 一旦この男との会話は不可能と判断して、あちらの会話に集中するとしよう…

 

『な、なぁ。そういえばうちの隣のマーセルさん家の娘さん、フェール様を特に酷く信仰していたらしくって…それから少ししてから行方不明になっちまったんだ…でも、信者達がフェール様を信じている者は必ず生きているでしょう、とか言ってて…それで皆納得して…もうあれからあの子が行方不明になったことは誰も話していなかったんだ…』


 男達の中では1番歳を食っていると思われる少ししゃがれた声をした男が、口籠もりながらそういうと、他の男達も思い当たる節があるようで、芋づる方式に話していった。


 『お、俺の幼馴染も、そういやぁ…』


 『近所のパン屋の主人…近頃見かけないと思っていたんだ…』



 『…俺の親父…、1ヶ月は顔を見てねぇ。なんでだ?!なぜ違和感を持っていなかった?!』

 

男達が正気を取り戻し始めている。

これからこの話を町人達に伝えていけばこの狭いコミュニティであれば3日も待たず町中に広まるだろう。


あとは一旦あそこにいる頭おかしい信者達をこの男達に処理させれば…






 周りの森は静かだった。

  森の葉が擦れ合う音さえもしない。

   本当に、なんの前触れもなかった。




 後ろから真っ直ぐに綺麗な風切り音が聞こえた。

矢を打たれた。まだ他にも信者達がいたのだろうか、音のする方向が分かっても正確な位置までは分からないし、逃げる暇もない。まずい…!


とすっ。

 

「あ。」




 確かに矢は刺さった。私にではなく、マリウスに。

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