第13話 シャンデリア事件(8)
最初に違和感を持ったのは、応接間で使用人達にトラフィズ紹介をされたとき。
スターフルーツのタルトレットを食べた時、一瞬そこらじゅうから溢れる自然の香りがした。…スターフルーツを食べたのがそもそも初めてだったから、こう言う風味の食べ物なのかと、思っていた。
しかし、よく考えればこの辺一帯…これほど緑に囲まれていると言うのに、全く自然の匂いがしない。あのスターフルーツを食べた瞬間にだけ、自然の匂いがあそこまでするかと違和感を感じた。
そして、最終的な証拠となったのが、私たちの行動。
私は、5歳といえど淑女としてのマナーは完璧に身につけている。そして、たとえ人前でなかったとしても、決してスキップはしない。しかし、応接間を出た後、レイヴンが私がスキップをしていることに気づき、スキップが可愛いとか何とか言っていたのを聞いた。…自分でもスキップをしていることに、なんの違和感も持たず、全く気づいていなかった。
そして、そのレイヴンの行動もいつもと違った。いつも何があったとしても、伝達事項以外は喋らないレイヴンが応接間からここにくるまでの間、私のことをなぜか可愛い可愛いとぶつぶつ言い続けていた。
私達は社交界において、レイヴンは情報界において、一定の高い立場を築いている。そこまで上り詰めるには一定のペルソナが必要なのは容易に想像できるだろう。
そんな私たちが、感情を表に出すことはまずあり得ない。
これは、何か薬またはそれに近しい何かによって本人の気づかないうちに感情的な人間になってしまい、その薬がこの邸宅一体に散布されていると考えられる…いや、断言できる。
そこまで、言い終わった後、私は青ざめた様子のキース・トラフィズにこう告げた。
「そうね。おそらくあなたがそれを撒いたのは…そこ、でしょう?」
先ほどレイヴンが破壊した杖を指差した。
「1番以前と性格が変わっていたのは、侯爵だった…、ヴァレンの花の薬で判断力を鈍くさせた上で、キース・トラフィズが定期的にウィジー様を中傷し続けた結果、こうやってウィジー様を一方的に責め立て、傷つけるようにしたってところかしら。
ついでに、この家の主人だからどこへでも入れるし、散布機としてももってこいと言うわけね。あの杖を壊してから、侯爵は先ほどよりかなり落ち着いていらっしゃる様子だし……。先ほどからレイヴンが私の命令なしに動いているのもそれのせいでしょう?初めてだもの。あなたが自ら行動するのは。」
「(お嬢様に言われるまで全く気づいていなかった…!確かに、何故俺は今、お嬢様の命令なしにこんなことをやっているんだ?!)も、申し訳ありません…!」
「いいえ、謝るべきはあなたじゃない…」
ウィジー様と同じ紫色の瞳、けれど、全く濁って見える彼の瞳を睨みつけながら言った。
「あなたよ……。キース・トラフィズ。」