プロローグ
「ニファ…僕はニファがいないとダメなんだ。君は僕の唯一なんだ。」
目の前で私の腰に手を添えて超至近距離で口説き文句を言うこの美男子は、このダンスパーティーで私に婚約破棄を突きつける私の婚約者…そしてこの世界での悪役令息…じゃなかったんですか?!――
――触れれば今にも消えてしまいそうな、繊細で糸のように細く美しい白髪と、まるでガラス玉のように光り輝く大きな水色の瞳を持つ公爵令嬢、ニフェル・アルグランデ。
この世に生を受けて未だ5年。すでに彼女は公爵家の働き手おおよそ700名の名前のみならず、大陸一の勢力であるベルタリー帝国の貴族、成り上がり男爵から、辺境伯までのべ3000人の家族構成から趣味、領有地域、またその土地の特産物まで完璧に覚えていた。
その上、社交の場での立ち振る舞いは熟練の貴婦人のようであるし、子供であることを忘れてしまうほどの知識も持つ。見たものを幸福にするという透き通った髪と瞳、そしてその特出した観察眼と知識を兼ね備える、まさに完璧な彼女のことを、人々は『神の御使』、そう呼んだ。
しかし彼女の婚約者であり、ベルタリー帝国第一王子であり皇位継承者であるアシュルス・ベルタリーは『神の御使』と呼ばれる彼女とは反対に不吉な黒色の髪と真っ赤な瞳、そしてまるまると肥えたその醜い容姿と不器用さから『帝国の能無し豚』と罵られていた。ニファ本人は実際のところ、この婚約を帝国貴族としての責務として全うしようとしており、アシュルスに対して恋愛感情を持ってはいないものの、不満を持った事もなかった(諸説あり)。
だが、ある夜、神のお告げによって、帝国の危機のために、愛し子が舞い降りることを知る。ついでに神との会話の中でおもしれー女認定をされてしまったニファは、神と、帝国が滅亡したら嫁にする、という賭けをすることになる。
また、この世界が異世界の『乙女ゲーム』なるものであることを知り、その中で、自分の婚約者が将来愛し子ヒロインに恋をしてニファに婚約破棄を突きつけるも、その醜い容姿から愛し子にさえ見放されてしまい、全てに絶望し、しまいには帝国ごと闇で覆い尽くしてしまう悪役令息であることを知る。
そのことにショックを受けたニファはアシュルスとの距離を置くようになるが、結局ニファ持ち前の救世主メシアの心で見事にアシュルスの心を射抜いてしまう…!(本人無自覚)
至る所にアシュルス!アシュルス!アシュルス!…
アシュルスの悪役令息らしい粘着行為にあの未来が実現することを危惧するニファ(大きな勘違い)。
それでもニファは神との賭け、ひいては帝国の繁栄のために奮闘する。政治・外交、
そしてアシュルス…!
数年後、帝国破滅の始まりである、ダンスパーティーで、未来通りに婚約破棄を言い渡されたはず…が?
天然完璧令嬢と初恋拗らせ王子との溺愛ファンタジー開幕です!