#4 好きなタイプはそういうこと聞いてこない人です
【登場人物】
・木嶋武虎
喫茶コアントローのマスター。コワモテでぶっきらぼうだが心優しい性格
・木嶋蒼
マスターの姪。就職浪人中と言い張る怠惰なニート
屁理屈で怒りっぽい
・雲原立季
とにかくいつもノリが軽い、売れない俳優兼フードデリバリーアプリの配達員
真面目なことを考えるのは少し苦手
「はいはい、サインね。あ、写真?はいピース。いぇーい。ありがとね〜」
「……」
いつものように喫茶コアントローに向かっていた蒼だったが、ドア付近に人だかりが。見慣れない光景に目をしばたたかせる。邪魔だなぁと思いながらも、内弁慶な性格の蒼は声をかけられずに困っていた。
「あ、君も?」
すらっとした細身の長身に金髪のウルフヘア、黄緑の襟足、黒いフープピアスにブランドもので身を包んだ、いかにも自由業といった外見の男が混雑の中心から身を乗り出し、眉をぐいっと上げて蒼に問いかけた。
「あ、いえ…結構です…」
「え」
「はー、なにあれ!外の邪魔な奴!」
「あぁ、HIKARI?」
ドアを開けるといつものようにいつものメンバーに迎えられてホッとしながら、蒼は入るなりぷりぷり怒りをぶちまけた。
「知ってんの?」
「インフルエンサーとかなんとかって言ってたな」
「そうっす。動画配信したり企業とコラボしたり、とにかく今大注目の人っすよ!」
「へー。で、なんでここに」
「さっきうちに来たんだよ。撮影交渉しにきて。まぁ悪りぃけど断ったがな」
武虎は以前テレビの取材も断ったことがある。「常連を大事にしたい」とのことだが、家にいると息が詰まるためここを安寧の地としている蒼にとっては、とてもありがたいことだ。
「で、外出たら秒でファンに囲まれてるの。いーなー俺もああなりてぇよ〜!」
羨ましそうにドアの外を見る立季。
「嫌なんだよな!ああいう有名人ぶった一般人!」
蒼は頬杖をつき、目を顰める。
「いやさすがに一般人ではないんじゃない?」
「私が知らないんだよ?一般人じゃん」
「わーお、暴論〜」
立季はへらへらと口を縦に開け、内心わくわくしながら次の言葉を待った。
「最近さ、ああいう人がSNSで【ご報告】とか言って結婚のお知らせとかするじゃん?誰だよテメー!」
「あ、ほら、6秒」
「1.2.3.4.5.6…」
「…………ふー、ふー!!ギリギリィ!」
「ほらやっぱり(笑)だめじゃん(笑)」
鼻息は荒く軋む歯の音。怒りっぽい蒼には鎮静の6秒なんて通用しないのだ。
「でもやっぱりかっこいいよね!俺ミーハーだから生で見れて少しテンション上がったわ!姪ちゃんもそう思わない?」
「全然…」
「えー!ていうかそもそもどういう男が好みなの?」
「雲原さん以外」
「いやストライクゾーン広ー!」
大袈裟に驚き悲しんでみせる立季に、蒼は背中を向けて思わず湧き出てくる笑みを必死で堪えた。
立季は蒼にとっての精神安定剤だな、と武虎は奥にいる客が頼んだナポリタンをフライパンで炒めながら微笑んだ。