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第4話

 階段をしばらく歩くと、何もない丸い部屋にたどり着きました。その部屋には、ぐるぐるの階段が……その階段を登ると丸い部屋。

 また、階段。そして部屋。

 階段。部屋。階段。部屋。



 これを繰り返しているうちに、登っている人たちがどんどん少なくなっていきます。


 階段の途中や丸い部屋で動けなくなった人から、お肉と飲み物をいただいて、動ける人たちは上を目指します。


 上を目指している人がまばらになっていきます。お肉と飲み物を得る機会が少なくなっていきます。

 ついには、大人たちを見かけることなくなり、私一人で階段を歩くことになりました。


 ぐるぐるの階段、何もない丸い部屋。ぐるぐるの階段、何もない丸い部屋。ぐるぐるの階段、何もない丸い部屋。ぐるぐるの階段、何もない丸い部屋。


 どのくらい歩き続けたでしょうか?

 もう、乾いたお肉もなくなり、お腹はペコペコで、口の中はとっくの昔にカラカラ。


 それでも、歩く……。

 私たちは……私は……塔を登らないといけないから。



 周りが歪んできました。見える場所も欠けて、いま自分がちゃんと歩けているのかもわかりません。誰もいないはずなのに、頭の中では奇妙な囁き声まで響いています。

 

(次、何もない部屋だったら、ちょっとだけ休もう……)


 ぐるぐるの階段を登り、次の部屋へ。

 

(あれ?)


 ナニカが邪魔をして、部屋の入り口を通せんぼをしていました。

 今まで部屋の入り口に、こんなものはありませんでしたが、これは何でしょうか?

 ナニカの右隅には、錆びてない部分のナイフの色をした、丸みを帯びた突起物がついています。

 こんなもの見たことがありません。


 指先で触れてみます……固くてひんやりします。

 それを触り続けていると、突起物を動かせることに気づきました。

 力を込めて握り、手首を動かすと、それに合わせて突起物も動くのです。


 カチャリという、奇妙な音を立ててナニカは内側へ動きました。

 私はゆっくりと中を覗き込みます。


 中は相変らずの丸い部屋。

 だけど、今までの部屋とは違い、隅っこにナニカがありました。


 そのナニカに近づきます。

 ナニカは壁から生えていて、ナニカの先からは色のない液体が下へ落ちて、落ちた液体は塔と同じ固い材料に囲まれた場所へ溜められています。

 溢れた液体は固い材料のすぐ下にある穴から、どこかへ行っているようでした。



 私は透明な液体を見て、こう思いました。

「涙?」

 大人の人が、たまに目から液体を流しているのを見たことがあります。お父さんも動かなくなる前に、目から涙という液体を流していました。


 涙は血と同じでしょっぱいですが、錆びたナイフのような味はしません。

 私は液体を両手ですくい、カサカサになった唇へ当てます。


「んく……」


 液体は全く味がしません。しょっぱいも、錆びたナイフの味もないんです。

 だけど、どういうわけか、とても美味しいと感じてしまいます。

 私は夢中になって透明な液体を飲みました。

 体が両手では間に合わないと訴えて、液体の溜まった場所に顔を突っ込み、液体をごくごくと喉へ流し込みます。



 でも、途中で苦しくなって、顔を上げてしまいました。


「ぷは! はぁ、はぁ、はぁ……何だろう、この液体?」


 味がないのに美味しいと感じることのできる奇妙な液体。味がないのに、まるで脳を食べた時のような味わい……あれは何の味でしたっけ? …………そうだ! 甘味!


 味のない液体なのに、甘味を感じることができるのです!!


「甘い? でも、脳とは違う感じの甘味? 変なの」



 甘いという味を感じる機会はなかなかありません。どうしてかというと、脳はなかなか食べることができないからです。

 頭の骨が固すぎて手では壊せませんし、錆びたナイフでは刃が通りません。


 ですけど、私は運が良い方なので食べる機会がありました。

 それは動かなくなったばかりの人の上に、別の誰かが倒れ込んだ時、その人たちの頭と頭がごっつんこしたからです。


 その時に頭の一部がへっこんで、それを無理やりお父さんが錆びたナイフでこじ開けて、私に脳を食べさせてくれました。

 その時、お父さんのナイフは壊れてしまい、ため息をついていたのを思い出しました。


 私は透明な液体から久々の甘味を得ることができて、とてもうれしかったです。

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