第1話
空には灰色の雲ばかり。
地面は煤けた色の砂だらけ。
そんな世界の中心に、雲を突き抜けるほど高い真っ白な塔がありました。
私たちは、意識を持った瞬間からその塔を目指して歩き、塔を登らなければなりません。
その理由は誰も知りません。
煤けた砂によって汚れたローブを纏い、食べ物も飲み物も無く、飢えと乾きに苦しみながら歩く。
苦しみに耐えらえず、煤けた砂に倒れる人がいます。
みんなはその人に群がり、貴重な食べ物を得ます。
お肉は、おなかを満たすため。
血は、渇きを癒すため。
私は二人の大人に手を引かれ、一緒に塔を目指していました。
男の人は私を娘と呼び、自分をお父さんだと言っていました。
女の人は私を娘と呼び、自分をお母さんだと言っていました。
それが何を意味するのか分かりませんでしたが、この二人は私を塔まで運ぶ役目があるのだと理解しました。
ですが、二人は途中で倒れてしまい、動かなくなってしまいます。
私は二人へ呼びかけます。
「お父さん? お母さん?」
二人とも僅かに瞳を揺らし、小さく唇を動かすだけ。
私は錆びたナイフを手にして、感謝を捧げます。
「お肉と飲み物をいただきます」
ナイフでお母さんの腹部を刺します。
呻き声を上げましたが、動く気力もない様子です。
おなかから零れ出た血をチューチュー吸って渇きを癒します。
剥ぎ取ったお肉を、お母さんが着ていた汚れたローブに包みます。
全部は持ちきれませんが、何の問題もありません。
残ったお肉は他の人が持っていくでしょう。
お父さんは涙を流したあとを残して、もう動かず、返事はありません。
流れた涙は貴重な液体。
私は青色の目玉を刳り貫いて、口の中へと入れました。
コロコロと転がるお父さんの目玉は血よりもしょっぱくなく、あまり味がないです。
奥歯で噛むとぐにゅりと潰れて、あっという間に無くなってしまいます。食べ応えはありません。
私は飲めるだけのお父さんの血を飲んで、塔を目指して歩いていきます。
ふと、二人はどうして、私の手を引いていたのだろう? どうして、私のそばにいたのだろう? どうして、私を守る役目を負っていたのだろう?
そんな疑問が浮かび、後ろを振り返ります。
動かなくなったお父さんとお母さんの周りには、たくさんの人々が群がっていました。
みんなもお肉と飲み物を手に入れたのでしょう。
これで、あの方々も塔を目指せます。