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親の想い、子の想い

親が子どものドナーになるお話です。

どうぞよろしくお願いいたします。

ちょっとくらい間違っててもどこかに愛があれば、なんとかなるものだ、なあ?例えば今は、2人のことを私が愛してる。だから2人ともゆっくり仲直りができる。みんなに甘えたらいい。。。

それより、裕翔は何か大事なものを見つけて、幸せになりなさい。優しいとかっていうのは、その後でついてくるんじゃないかなあ。。。あんまり気にしないで。

ちょっとくらい何かが足りなくってもいい。大事なものがあれば、きっと裕翔は幸せだからね。


小さい頃そう親同然だった養護施設の佳代さんに言われた俺、編代裕翔はそれからずっと見事に、愛とか、優しいとかいうことはあまり考えずに過ごした。


まずは、いつか大事なものが出来るのだろうって、期待して小学校や中学では過ごしていた俺だった。

しかし、少なくとも俺にとっては例えばキラキラとした部活でさえも基本的には処世術を学ぶ場でしかないということを感じ、失望した。そんな俺は高校では部活にさえ属さず、ブラブラと日常を過ごしていた。


「大事なもの、できねー。。。」


「ん?なんか言ったか?」


「いや。。。なんも」


俺はどことなくやる気のないところが波長の合う、男女混合の友達グループに属していた。大抵、夜のゲーセンで会ったとか、そういうきっかけで増えていったこのメンツでつるむのは、何が起きるでもなかったが居心地は良かった。


「じゃあ、罰ゲームな!」


「罰ゲームで、あいつに告白な!おもしれぇ〜」


「ん?」


突然隣のグループから大きな声があがる。俺は自然とそちらが気になって目をやった。


「こここ、告白なんてそんなっ、茶化してやったらダメですっ、、、イヤですよ〜」


「いいじゃん、面白いじゃん?マンガみてぇでさ!」


「いいだろ〜盛り上げていこーぜ?」


「うう、でも。。。」


俺は少し見かねて、仲裁に入ることにする。席を立ってそのグループに近づく。


「それはさ、やめね?」


「おいっ、裕翔っ」


「ほんとに好きって、どっちかが思ったらどうすんの?」


大事なものが出来て、すぐ奪われたりしたらどんな気持ちなんだろう?そう思うと俺はこいつらのいう罰ゲームは、見ていて楽しめそうなものではなかった。


「ばっか、そんなわけないじゃんね〜2人とも?ねっ」


すると今までうつむいていた彼女が、キッと顔を上げた。


「そ、そんなこと、あるかもしれないと思います!」


「うわっそう言っちゃう?」


「はは、はーい、降参降参〜。俺たちが変なこと言いました、ゴメンネ」


これは、俺なんかが止めに入らなくったってこの人は自分でちゃんと断れていたのかもな。


そう思って踵を返し、自分のグループに帰ろうとする。


「あのっありがとうございました!」


「で、出来ればラヒン、交換しませんかっ?」


「え?ああ、いいけど。ごめん、誰さんだっけ?」


「柄本美嗣と言いますっ!隣のクラスですから、わからないかとは思いますがっ」


「柄本さん、ね。ラヒン、サンキュー。またね」


「は、はいっ、またっ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いつものように寮に帰ったその夜。

柄本さんからピコリとラヒンが来た。


『今度の週末、表原のゲームセンターに行きませんかっ』


モジモジとした目がハートのクマのラヒンスタンプも続いて送ってくる柄本さん。俺は自分のほうが何か恥ずかしくなる気持ちがした。


「柄本さん。。。積極的だなあ」


これは、懐かれたとか、好きになられたとか、多分その類のものかもしれない、と予感がした。


俺はなんというか、誰にどういうふうに好きになってもらったかを無性に確かめたくなってしまい、ラヒンで「いいよ」と柄本さんに返信した。


軽率な行為だったかもしれないと、送った後に後悔した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「こんちわ〜、柄本さん、早いね」


「こんにちわっ、いえ、早いだなんて、そんなことはっ」


「いま来たとこ?」


「は、はい、それですっ」


「ふ、あはは」


それですって。俺は純粋に柄本さんの反応が面白くて、思わず笑ってしまう。その様を柄本さんはとても幸せそうに眺めていた。


異性にそういう温かな目で見つめられることは今までなく、初めての感情を抱いた。悪いもんじゃないな、と思う。


クレーンゲーム、格闘ゲーム、パフェ、プリクラ等、俺達はその日色んなことをして遊んだ。夢中になっていたら、いつの間にかもう夕方になっていて、俺達は帰路につく。


「楽しかったですねぇ〜」


「ああ、楽しかった」


「また遊びに行きましょうねっ」


「。。。。。。」


俺は柄本さんと居心地が良く、いつからか心から今日という日を心から楽しんでしまっていたが、それは柄本さんからしたら俺からの好意を期待してしまうということに繋がってしまうかもしれないということを、俺は思い出した。


俺は、また遊ぼうと言う代わりに、出来るだけおちゃらけ混じりにこう言ってみることにした。


「俺は、実は悪い奴なんだよ。柄本さんみたいないい子にはもったいない」


「また遊ぶと、柄本さんを傷つけちゃうかもしれない」


「そんなことないですっ、編代くんはいい人です」


「それは柄本さんの思い込みだよ」


「人には結構、相手をいい人だって信じて、好きになっちゃうところがあるっ」


「え?」


「え、え、私、今好きって。。。」


「あはは、言っちゃったね。どうもありがとう」


「あわわわ」


「キモいこと言ってもいい?」


「俺は、大事なものを探してるんだ。それ以外は割りとどうでもいいんだよ。そのくせ、大事なものを探すことに頑張らなくなった、単なる怠け者だ」


「わ、わかりました、、、」


「なら、だったら、私っ」


「私っ大事な人に、なってみせます!」


「え?」


「編代くんの大事な人になって、それで私も網代くんも幸せにしてみせますっ」


「ふ、、、あはは、君って面白いね!」


「大事な人になる、なんて宣言できないよ、普通」


「お、お友達から。。。?」


「いや。。。」


「。。。こうまで来たら、俺は変な距離はおかないよ。お互いの大事な人になれるか、良ければ試していかない?」


「それは交際ということですねっ!!」


「そうだ。大きい声で言わんでいい」


「ふわあ〜、、、これからがすごく、楽しみです!」


率直な彼女に、俺はまた笑った。


そう言って、俺と柄本の交際は始まったんだ。


俺は柄本のことを基本的に気に入っていたからだろうか?何かを柄本とするたびに、彼女への愛しさを感じることができた。


一緒にカラオケに行って、可愛らしい恋の歌を赤面して歌われて、愛しくないわけがなかった。

バレンタインに巨大なチョコをくれたから、ホワイトデーにはもう一回り大きなチョコをあげてみたら、困りながらも喜んでくれたことが、愛しくないわけがなかった。

君に会うために生まれたんだって、思ったんだって言われて、愛しくないわけがなかった。


愛しくて、愛しくて。

どんどん俺は彼女の体調や将来まで心配するようになっていった。

。。。ちゃんと『大事なもの』になっていった。


交際から2年ほど後。


2人とも東京の方の文系の大学に進学し、そこで1人暮らしの方法を学んだ。それに飽きたら、今度は少し怠惰な同棲生活を初めて、学生の青春を謳歌した。


俺は君のことが大好きだったけど、はたと自分に戻って何かを考えてみたいとでも思ったのだろうか。何度か君が好きではないと思い込んでみようとしたこともあった。


でもやっぱり君がいいんだって、小一時間位で考え直してしまうから、毎度俺の負けだった。


美嗣から学んだことは、許容すること。

相手の精一杯を分かってあげて、精一杯だったなら自分は必ず許してあげるつもりだという姿勢を相手にも伝わるようにすること。

そんな愛してるを大事な人に言う、ということだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


就職して2年。美嗣は妊娠した。

俺達はその妊娠検査薬の結果に大喜びをしたけど、その喜びは長く続かなかった。


人生の難しさを、俺達は思い知った。


「未熟児、ですか。。。!?心臓が弱い。。。と。。。」


「ええ、残念ながら。。。。またそれに伴いまして、出産時に母子ともに大きなリスクがあります。死、というリスクです」


「一つご説明させて頂きたいことがあるのですが、胎児が死んでしまうというリスクは、お母さんが赤ちゃんを長期体内に留めておいてあげることで、多少軽減します」


「しかし、もし胎児を長期お腹の中に留めておくならば、出産の際含め、お母さんの方の死亡のリスクが非常に高まります」


「納得ゆくまで考えていただいて構いません。しかしどうされるのがご希望か、なるべく早くお伝え下さい」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


医者との話が終わって帰る、その車中。

美嗣は微笑みさえ湛えて、話し出した。


「。。。聞いた?裕翔。赤ちゃんはお腹の中に長くいれるほど、リスクが減るんだって」


「私、もう心は決めてるよ」


「それは、長期妊娠を選択するということだよな?つまりそれは、美嗣のリスクを上げるってことだよ。。。?」


「それでもいいの。だって、私、私よりもこの子が大事なんだもん」


「なぜ?僕には同じくらい大事な家族にしか見えない。どっちかを明確に選ぶようなことは出来ない」


「だってねっ。この子といつも一緒にいる私には、この子が生きていたいって、、、心から思ってるのがわかるから」


「だから私、この子を生かせてあげたくなったのよ。とても、とても、ね」


「本当に感謝してるのよ。生きたいって思っていてくれて。お母さんに、こんなにもやりたいことをくれて、大きな大きな感謝を」


そう言ってお腹を撫でる美嗣に、それでもやっぱりもっと色々と考えてから決めて欲しくなって、俺は言葉を続ける。


「生まれたって、この子は心臓が未発達で、きっと長く生きられないんだぞ?」

「何が何でも、長生きできるようにするわ。私が心臓でもあげますよ」


「そんなこと言ったって無責任だぞ。。。?お前が子どもに何かしてやれることはないかもしれない」

「あなただって、そんな冷静なことを言いつつも、ほんとは何でもしてあげてくれるんですよね?」

「。。。。。。」


彼女の決心は固かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結局彼女は十月十日まで妊娠を継続し、いよいよ出産となった。


帝王切開で取り出すことになったその赤ちゃんは、生まれた瞬間にちゃんと産声を出したそうだ。美嗣の状態も安定していて、リスクのことばかりが頭をよぎり何も術中は手につかなかった俺だったが、手術は無事に終わった。


初めて、保育器に入っている子ども、、、楓を見た。『私は今生き始めたんだぞ』って真っ赤な顔をしていて、本当に愛しかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


佳代さんから親の愛をもらったから、子育ても大丈夫だって、自分に言い聞かせていたけど、本当はどこかずっと不安だった。

でも、知らなかった。愛し方は子どもの方が教えてくれること。もう大丈夫って、こっちのほうが思わせてもらえるってこと。


「お父さん〜こっち!」


「楓、走るなよ」


楓は4歳になっていた。借家の庭で元気に遊ぶ楓を見て、俺と美嗣は縁側で目を細める。


これが子どもを思う親の気持ちなんだと、胸の奥から実感していた。


「走らせて、やりたいな」


そう思わず呟く。元気そうな楓だが、、、生まれてから何度か倒れて緊急搬送されていたし、2度の大きな手術を行っていた。


楓は走り回れる体調ではなかった。それがとても悲しい。

それどころか、医者にはあと半年が山だろうと何度も言われていて、彼女の命の光は、このまま指を咥えていてはもうすぐ尽きてしまうようだった。


「この子にはたくさん生きてほしい。会ってみて俺にもわかったんだ。たしかにこの子は、生きたいって言ってるよ。。。そのためには、俺もなんだってする。美嗣がなんだって楓にしたように」


「それって。。。?」


「俺にはやりたいことがあるって話さ」


楓の病気を根本から治すには、心臓のドナーが必要だった。

それは現状、いなかった。ただ一人、肉親である俺を除いて。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「この辺は盆地だから暑いな〜」

「こんにちは、伺わせてもらってます」


俺は久しぶりに俺を育ててくれた施設に足を運んでいた。ただ、やりとりは手紙でずっと続いていて、佳代さんは今少しボケてしまっているかもしれない、ということを聞いていた。


部屋で緑茶を出してもらい、ソファーに座って待っていると、部屋に手を引かれた佳代さんが入ってきた。


「ええ、もうええ、座らせてくれんか」


そう言って佳代さんは連れの人の手をほどいて、自分で歩いてソファーにどっこいしょと腰を掛けた。


「あーあぁ、ほんに裕翔は可愛いねえ」


「うまくやっとるんかいね?」


「あはは、一応。。。」


「おばあちゃん、こればっかりなの。おばあちゃんが贔屓しよるって、みんなに言われよう」


施設の人がこちらに大きな声で耳打ちをしてくる。


「贔屓はしよらん。心配なだけじゃ」


「あはは。。。」


俺は今まであったことを色々と佳代さんに話して聞かせた。美嗣との結婚式での裏話、出産の時どれほど嬉しかったか、3人で海を見に行ったこと。


「俺、大事なものを見つけて、本当に優しくなってきたかも。人に何かをちゃんとあげれるように、あげたいって思えるようになってきたかも」


『だって俺。楓のために。。。』


「だから俺、楓と。。。」


「3人で、これからずっと幸せにやっていくんよ。。。」


「ほうかほうか、そりゃあ幸せなことだ。。。わたしゃあとっても、嬉しいよぉ」


「佳代さん。。。お母さんって呼んでもいいかな?」


「。。。ああ、裕翔、ええよ、ええよお。お母さん、ほんとはいつでもそうして欲しかったんよ」


「お母さん、育ててくれて、ありがとう」


「裕翔。きっと裕翔は優しすぎるからな。だから人に、何かをあげ過ぎたらあかんよ」


「お母さん、わかってるよ。大丈夫」


そう言って、俺は母さんとの別れの挨拶を終えた。

最後まで、そろそろ俺が死んでしまうってことは言わなかった。

俺がずっと幸せにやっていくだろうって思ってもらうために、今日は来たんだから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


手術のことも決まった、ある土曜日の夜。


俺は強めの酒を一人で飲んでいた。楓を寝かしつけた美嗣が部屋へと入ってくる。


「あなた、大丈夫。。。?」


「ああ、大丈夫だよ、ありがとう」


しばらく沈黙が流れ、美嗣は俺の向かいのソファーに座る。


「でもな、死ぬことを考えるのは、どうしようもないことだなあ。果てしのない沼を進んでるようだ」


「なあ美嗣、少しだけ甘えたことを言うよ」


「俺はな、これから先も、」


「これから先も」


「これから先も、3人で、食卓を囲みたかった。。。」


少しだけ涙が溢れ、頬を伝った。


「私も、そうよ。。。やめる気は、ないの?平和に過ごしていれば、楓の心臓に、奇跡が起きるかも。。。」


「昔の君の気持ちと一緒だろうな。やめる気は、ないんだよ」


「ちょっとでも楓が生きる可能性が上がるなら、なんだってしたいのさ」


「そうだ、ビデオレターを撮りたくてね。協力してくれよ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お父さん、お母さん、行ってきます。。。」


「楓、必ず大丈夫だからね。お父さんが、ついてますからね」


「わかってるよ。。。」


楓の手術は、ドナーが父親だということを本人に隠して行われた。


それは、裕翔と美嗣が2人で決めたことだった。


手術は無事に成功し、楓にはお父さんはしばらくお仕事で旅行に行くからと伝えられた。

数年後、体調が安定してから、本当のことを告げると決めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


楓が6歳になる頃。

美嗣はついに楓にお父さんがドナーになってくれたということを伝えた。


楓はその意味を数秒おいて理解し、悲痛な鳴き声をあげた。


「お父さん〜うわああん!」


その鳴き声は、2日ほどもやまなかっただろうか。お父さんは楓を助けたかったのよ。といくら美嗣が諭してもあまり効果がなかった。そこには、父親のいうことじゃないと信用しない!というような怒りさえ籠っていた。


命をあげるということは、ここまでの信頼関係を築くものなのか、、、と、美嗣は切実に感じた。


『楓が泣いてしまうかもしれないからな。。。だからこのビデオレターは、そういう時に見せてやってくれ』


そう言っていた裕翔の姿が、目の裏に浮かんできた。


「楓。。。」


「ここに、お父さんからの最後の言葉があります」


「一緒に見ましょう?」


そう言って、美嗣はテレビの前に目を腫らした楓を座らせ、テレビの電源を入れた。


数秒たち、録音した映像が、流れてくる。


『お父さん、楓に嘘ついて死んじゃって、ごめんな。でもお父さん、十分人生あったかかったからさ。楓とお母さんのこと、もう十分長く好きだったから。だからもう楓にバトンタッチしてもいいって思えたんだ。心の底から思えたんだよ、いつかわかってくれるかい?』


『もし、それでも、どうして?って思うんだったら。もしお父さんの気持ちが楓も知りたいんだったら、、、たくさん色んなことを経験してください』


『その時には、、、あなたのことが大事なお父さんとお母さんのことを何度でも思い出して。そしたらきっと、たくさん我慢がいるかも知れないけど、いつか大きな幸せにたどり着ける』


『お父さんの意識が終わるときに、楓への好きも終わっちゃうと思うと、悲しくて、淋しいよ。楓、生きて、会いたい。それも心の底から思うことだよ。命っていうのは、大事な気持ちを持てるってことだよ。。。だから、命は大事にするんだぞ』


『お父さんから言いたいことは、幸せに生きてってことなんだけど、いざ人ってどうやったら幸せになるのかを語るのって、難しいなって、思いました。

寝ずに考えました。それでやっとわかったことを、出来るだけ、お父さんの言葉で言い残しておくな』


『好きだよとか愛してるって思うことが、全ての苦しみの始まりなんだよ。そして、それをきっと楓は誰かと分かち合うことになるだろう』


『大抵、大げさなことはいらない。おはようって言われたら、おはようって返して。それだけで楓の苦しみはきっと、少し晴れるから』


『そんな幸せを噛みしめることだけで、人生の大きな意味だからな』


『お父さんが思った幸せの秘訣は、それだけだよ。がっかりしたか?

いや、楓は自分でもっと幸せの秘訣を見つけるかな?それも、いいな』


『人生の注意点はお母さんにこれからたくさん聞いてください』


『お父さんからは、あまり何も言わないようにします』


『ただ、、、楓は愛で生きた命です。愛や優しさがもし楓に芽生えたときには、誰かにそれを与えてあげようという気持ちを忘れないでください。自分も周りも、大事にしてください。あまりにも、もったいないからね』


『みんな出来るだけ元気で。

それで、俺は幸せだ』


『ありったけの愛を楓に』


ビデオを見終わった楓が、口を開く。


「。。。お父さん、いっぱい、言葉をくれたね」


「かっこよかったね」


「こんなふうに、死んじゃったんだね。。。」


「うう、うわあああん!」


ビデオレターには、一人の人間の人生が詰まっていた。楓は幼心に、それを受け取ったのだ。

その涙は、今までの悲痛な涙とは違うものだった。勿論悲しみはあったが、これから生きていくことへの気持ちが心で渦を巻き、楓は懸命に泣いた。


少しあとの話をすると、結論、父が残したものに形があること、楓には、それがとても重要だった。何度も彼女はこのテープを見返すだろう。そして、何度も何度も、心を持ち直して、生きていくのだ。


(↓↓以下EDの歌詞↓↓)


傘から伝う雨が、あなたの愛に、見え、空に立つ飛行機雲が、あなたの線に見えた。

あなたのこと考えてると

誰かを幸せにするということの、大事さ(↑)を考えてしまうんだよ

あなたの気持ち考えると、心を締め付けられる

だけど忘れない、私あなたのことが好きーだからー

線を描く虹を描くあなたの心

稜線を歩んでる私の姿

大好きな日だまりをあなたがそっと歌ってる

愛の影の下


肩にかかるコートに、あなたの影を見て、見えない鼓動を聴いて、あなたの声を聞いた

昔のこと考えてると

自分が幸せになる難しさを知ってしまうんだよ

あなたの気持ち考えると、心を締め付けられる。

だけど忘れない、私あなたのことが好きーだからー

線を描く君を描く私の心

雲を手に掴む2人の姿

いつかは私も誰かに幸せを届けたい

愛をこの胸に


(END)

一人の人間の人生をきちんと受け取る。

そんなことをしたらいいのでしょうね。

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