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私、魔法使いになりたい!  作者: 五条貞次郎
第一章 魔法学校
7/15

私、魔法使いになりたい! 七

「姉弟」なのに「兄妹」になっていたので修正しました。

「そういえば、リリアが魔法学校に行ってから、今日で半年ね」


 ふとアンナが口を開く。

 夕食のBratkartoffelnに舌鼓を打つクリスティーネ以外の家族の脳内に、騒がしいトラブルメーカー娘の記憶が蘇ってきた。


「今頃何やってるかな」

「あの頼りないねーちゃんの事だし、どうせ禄な目にあっていないよ」

「だが、半年も経ったのに泣いて帰ってこないって事は、案外頑張ってるんだろうな」

「あの子って意外と根性あるわよね」

「褒められるのは根性だけだなワハハハハ」


 全員がディルクの豪快な笑いにつられた。以前ならこの後に「私にだってもっといいところあるもん!」というような誰かの主張が入っただろうが、ここの所そんな突っ込みも不在である。家族としては少し物足りなさを感じていた。


「でもなんか急に心配になってきた。様子を見に行きたいけど、イギリスだもんね」

「どのみち無理よ。あの学校って特殊な宝石を使わないと入れない異空間にあるから、イギリスには行けても学校へはいけないの」


 とアンナは昔通っていた頃の事を思い出してエリーゼに説明する。


「特殊な宝石?」

「ええ。確か、赤くて薄っぺらくて、凄い安っぽい見た目をしてなかったかしら。それをロンドンにいる状態で片手に持って、マジックアイランドだったかっていう単語を思い浮かべながらもう片方の手で思い切り挟むと、その異空間とを行き来できるのよ」


 それを聞いたエリーゼは、なんといきなりポケットからその赤い宝石を取り出してみせた! なんの前触れもなく取り出したので、アンナは目を疑って二回も瞬きをしたあと再びそれを見つめてみたが、その無駄に赤い感じと絶妙に安っぽい輝きは、自身の記憶にあるあの宝石と全く同じ物であった。


「ええ、それどこで手に入れたの!?」

「ほら、学校から招待状が来た時、リリアったらはしゃいで家中駆け巡ったじゃん。あの時に手紙からなんか落ちたの見て、拾ったらこれだったの。別にそんな大事じゃないかなって思ってとりあえず置いておいたんだけど、まさかそんなに重要な物だったんだね」

「そうよ。それがないと行けないの。――あれ、でも待って。って事はリリアは宝石を落としたのに気付かないままイギリスに行ったのよね。……まさか、未だに魔法学校に行けないままロンドンで放浪して……!」

「おい、ちょっと待て、どういう事だ!」

「ええ? 半年も経っちゃってるんだけど!」


 夕食は突如、騒然とした雰囲気に変わった。流石のクルトも状況を察したようである。


「よく考えてみたらあのねーちゃんが外国の学校に半年も通うなんてありえないじゃん、あのドジが!」

「そうだ、何でもっと早く気が付かなかったんだ! 無理に決まってるじゃないか、あの馬鹿が!」

「事件にでも巻き込まれてたら大変だよ、あの泣き虫が!」

「こうしちゃいられないわ、今からイギリスに行きましょう! あの間抜けの為に!」

「あの好き嫌いが多くて面倒くさいねーちゃんの為に!」

「あのおっちょこちょいでのろまでどうしようもないやつの為に!」

「あの朝が弱くていつも遅刻して怒られてる妹の為に!」


 とリリアは本気で心配される時でさえ散々な言われようである。これでは心配しているのか罵っているのか分からない。

 事件性が疑われる以上、特にアンナは母親として心配せずにはいられず、「半年も外国で放浪する馬鹿娘に全く気付かないまま生活する母親なんて、この上なく酷い人間よ! リリアにもしものことがあったら私は喉を切り裂いて死ぬわ!」とまだ放浪していると確定していないのに何度も自分の頭をバシバシと叩きながら泣き叫んだ。

 兎にも角にも、全く何の事やら分かっておらずポカーンとしているクリスティーネも連れて、全員で本当にイギリスに旅立つ事になったのだった。今も危険にさらされているに違いない、下手すればもう手遅れの可能性が極めて高いリリアの為に――





 リリアは、寮で呑気にチョコレートケーキを頬張っていた。学校が休みの日にだけ経営している売店で買ってきたものである。すっかり修理の施された眼鏡を掛けるユーカと、体調の回復したチェルシーも部屋に呼んで一緒だ。


「ああおいしいな。まあこの前は色々大変だったけど、ユーカが無事で良かったよ」

「良くないですよ! 群衆に押しつぶされるわ眼鏡は割れるわいきなり眠らされるわ、もう最悪ですよ……」


 ユーカは溜息を吐いた。


「リリア、お前急に機嫌良くなったな」

「えへへへだってここで大好きなもの食べられるんだよ? テンション上がるじゃん!」


 とリリアは今も自分を心配している家族の事など全く知らず、また幸せそうにケーキを食って、優雅にホットティーを流し込んでいる。きっと今ここに家族がいたらボコボコにぶん殴られていることだろう。

 そんなリリアの大好物は、五歳の頃から依然としてチョコケーキ以外に少しも揺れ動いたことがない。たとえどんなに感情が落ちぶれても、それを少しでも食べればとりあえず元気になれるほど、彼女のチョコケーキへの一途な想いは本物なのである。なんならこの部屋の壁には、木の額縁に入れられたチョコケーキの絵が常にでかでかと掛けられているくらいだ。ちなみにこれは祖父のクラウスが生前、どこからか見つけてきてリリアの為に買ってくれた物で、その当時家族には「もっといい絵があっただろ」と突っ込まれたが、幼かったリリアだけは大喜びではしゃいで、それ以降子供部屋に堂々と飾ることにしたという思い出が秘められた装飾品である。おじいちゃんの事を常に思い出せるようにと、魔法学校に来る時に寮に持ち込んだのだ。

 さて思い出話はこれくらいにして、彼女らには議題が残っている。


「でも、あの低学年にだけ汚れ仕事をさせる計画、本当に実施してしまうんでしょうかね」

「ああ、いきなりだったからまだ心が受け入れられてないよ……」

「全くろくでもない話だぜ。この学校は設立以降、基本無償でやっていれてたし、別に忙しくなった訳でもないのに、いきなり『私達に奉公しろ』だと? 上の者どものだらしない欲望が丸出しじゃねえか」


 チェルシーは体調不良の間に届けられた紙で重大発表の内容を知った時、憤りで顔を真っ赤にして、聖徳太子に日没する処の天子と煽られた煬帝の如く紙を引きちぎったほど、学校側のこの計画には反対的な立場にあるのである。


「第一これからこの学校を背負っていくのは私達低学年だ。もう長くは学校にいないであろう卒業間近の高学年ばかりを優遇するのはおかしいぜ。先に言うが、この計画の提案には絶対生徒会の権利が介入しているはずだ。生徒会には最高学年の奴しかいないから、どうせ下の世代の私達にばかり重石を乗っけて、自分達はその重石の上に乗って幸せを謳歌するつもりなんだよ。こういう事をすれば高学年の奴らは『どうせもう長くはこの学校にいないし』って将来の事を考慮せずに更に滅茶苦茶な事をしだして、学校に来たがらない子がさらに増えて、その結果余計私達に負担がかかるばかりだ。前々からこの学校は色々と抜けている所が多いなとは思ってたし、先公や生徒会の野郎どもに悪気があるのかは知ったこっちゃないが、このまま生徒会の奴らに甘い想いをさせてたら本当に大変な事になる。なるべく早く手を打たないと学校が崩壊しちまうぞ」

「はあ。参っちゃうね」


 チェルシーはぷりぷりして、リリアは話を聞きながらもしっかりチョコケーキを完食した。とそこにユーカが問いを投げかける。


「所で、生徒会なんてありましたっけ」

「ああ。なぜか詳しく説明されないからあまり知られていないんだがな、生徒会は最高学年の者だけで構成されているエリート集団なんだ。表面上は『この学校の生徒なら支持を集めれば誰でも入れる』とか謳ってるが、実際ほとんどは校長の息子とか名家の血を引いてるとか、生まれた時から魔法が上手くてエリートになれるのが決まってるズルいやつらばかりだ。しかも何より全員すぐ卒業しちまう学年だから、さっきも言った通り将来の事を禄に考えないでものを決めるせいで、後の学年を毎年困らせている。そんな生徒会の事だし、きっと今回のこの滅茶苦茶な計画にも携わってるはずだって話さ」


 ここから生徒会へのヘイトはたまる一方であった。しかし、魔法のプロフェッショナルである生徒会に普通の生徒が敵う術は無く、ただ言われた通りに動く選択を取らざるを得ないのである。弱い者に権利がないこの様は、弱肉強食の自然に従った構図そのものであり、ある意味これは動物における本来のあるべき姿なのかもしれない。

 話が一段落した後、チェルシーが熱心に弁舌を振るうばかりで全く口がつけられていなかった彼女のチョコケーキに、「いらないならそれも食べていい?」と横からリリアの手が無造作に伸びてきたが、チェルシーはその手を「お前はもう食っただろ」と思い切り叩いて押しのけて普通に食べ始め、リリアは手を押さえながらしょんぼりして、ユーカはニヤニヤしながらそれらを見ていた。

 やがて三人のおやつタイムは終了し、チェルシーとユーカはそれぞれ自分の部屋に帰っていき、少し寂しくなったリリアは校庭を散歩することにした。常に魔法の練習をしたい生徒向けに、休みの日の校庭は基本自由に使っていいことになっており、結構綺麗な所なので散歩する生徒も少なくないのだ。今日も中央では巨大な噴水が流れてその四方には老人のブロンズ像が立っていて、至る所に植えられた木が、肌寒いそよ風に揺られて静かな葉の音を鳴らしている。雲一つないわけではないが、穏やかで散歩日和な天候だ。上空には箒で飛んで競争している子達が小さくちらほらと見え、木の下では別の生徒が光魔法の実験を行っている。この前の殺伐とした暴動を見た後だと実に平和そのものな風景であり、チェルシーの言うような学校の崩壊なんてことが本当に起こり得るのだろうかと、いつもの噴水前のベンチに座りながらリリアは一人思っていた。


「そこ、座っていいかな?」


 また聞き覚えのある男の子の声が響いた。


「ああカルロ君、こんにちは。いいよ」

「いやあ今日は天気が透き通っていて気持ちがいいね。いつも引きこもりがちな僕も今日は散歩がしたくなったよ」

「普段は表に出ないの?」

「うん。どちらかというと自分の部屋でやりたいことをしていたい人間なんだ」

「私も一人でチョコケーキだけを食べてたいなあ」

「チョコケーキが好きなのかい」

「うん!」


 とリリアは堂々と答える。


「へえ。奇遇だね僕も同じだよ」

「本当?」

「僕は四人兄弟の末っ子なんだけど、小さい頃から貧弱だから兄ちゃん達にのけ者にされがちで、両親もあまり愛情をくれなかったんだ。でもおばあちゃんだけは僕に優しくてくれて、こっそりお菓子を貰ったりしていてね。そんなおばあちゃんが近所で経営しているお菓子屋に売ってるチョコケーキが本当に美味しくて、好きになったんだ。そして僕が魔法学校に来たのは、そのおばあちゃんに色々と恩返ししたいからなんだよ」

「なんだか私と凄い似てるなあ。私も弱虫だから似たような境遇だったよ。でもいつもおじいちゃんだけは認めてくれたの。三年前に亡くなったけど」

「そうか……僕らは弱い者仲間だね」

「弱い者仲間?」

「うん。君には共感できるよ。弱い者同士としてね。でも、弱い者にこそ、それだけたくさんのチャンスがあるんじゃないのかな。強くなれるチャンスが」

「強くなれるチャンスかあ」


 リリアは強くなって夢を叶え、誇れるようになった自分を想像した。そのうち自分の夢を語りたくなってきて、立ち上がった。


「――私はね、おじいちゃんにたくさん助けられたから、今度は私が魔法使いになって、おじいちゃんみたいな病気の人を幸せにしてあげる為にここに来たの! どんな病気も治す薬を作るんだ!」

「リリアならきっと出来るさ。前から思っていたけど、君はどんな事に巻き込まれても弱音を吐いたりするのを見せたことがないよね。僕なんかが言っても励ましにならないだろうけど、ほんと最高に格好良いよ。絶対に強くなれるよ。応援してる」


 カルロは歯を輝かせて笑って、それを目の前に見たリリアは、なんだか胸のあたりが少し、言葉では言い表せない不思議な感覚に陥った。今までこういう事は一度もなく、全く初めての体験である。その上で、


「私も、カルロ君の夢を応援するよ。お互いに頑張っていこうね」


 とその気持ちを抑えながら友情の一歩を踏み出した。


「ああ。宜しく」


 二人はお互いの手を握った。リリアは自身の手を握られた時、先程から続く不思議な感覚がより一層強くなった気がした。激しい鼓動の音が耳の奥まで突っ切るように何度も轟いて、熱がある時のように体がふわふわする。そのまま天にも昇っていけそうなくらい、魂が海の水面の如く絶えず揺れ動いている。ただ、ずっとこのまま手を握られていたいと願うほど、この時の彼女の心は幸福感に満たされていた。しかし唯一むず痒いのは、今の自分の気持ちを自分で言語化する事ができない所である。自分の身体の事を一番知っているのは自分であるはずなのに。


「どうしたの?」

「なんでもないよ」


 リリアの息が少し乱れ始めている事はカルロにも伝わったようである。それがいま手を握っているせいなのではないかという考えがなぜか咄嗟に過ったカルロは、思わずリリアの手から自分の手をスッと離した。リリアはその刹那、空を失った海のような喪失感に心を抉られ、激しい痛みに蝕まれた。こんな経験はやはり初めてのものであり、カルロに対して、友情以上の新しい気持ちが芽生えつつあることを、徐々に受け入れる事になるのだった。


「ねえ、カルロ君」

「んん?」

「いきなり変な事聞くけど……カルロ君は私のこと――」

「うわああああ!」


 所に、突如響いた叫び声がリリアの声をかき消した。二人は何事かと声の方を向く。

 遠くの方に、走りながら泣き叫ぶ人が見えた。しかもよく見てみるとそれは、リリアの方に向かってきているではないか。


「ええ? ええ?」


 と二人は困惑する。しかし、ある程度近づいてきた所で、リリアはその人の驚くべき正体に気が付いた。


「ちょっと待って、あれ私のお母さんだよ!」


 いやいやまさか、そんな訳無いと自分に何度も言い聞かせてみる。しかしやはり母そのものである。最も泣き叫びながら走る母の姿など想像するのも嫌なくらいだが、やはり何度見ても、見れば見るほどアンナである。いくら実の母といえど、段々と人が叫びながら自分に近づいてくる状況に恐怖を覚えないわけがなかった。第一なぜここにいるのかという疑問が真っ先に浮かび上がる。カルロにしたら全く面識のない赤の他人であるから余計に怖くて、二、三歩退いた。その間にも、リリアとアンナの距離は縮まっていく。そしてついにお互い目と鼻の先になり、あまりに酷い形相をした母の顔が完全に見えて恐怖がピークに達した時、リリアはそのまま流れるように抱きつかれた。


「ちょっと待ってよ! なんでお母さんが!? なんで泣いてるの!? どうやってここまで!?」


 リリアは、カルロに対して一時的に抱いた不思議な気持ちの事などとっくに頭から吹き飛び、ただただパニックだった。そして抱きついたまま泣く母に、浮かび上がった全ての疑問を次から次へとぶつけていった。しかしアンナは「無事で良かった」とか「生きていてくれてありがとう」などわけのわからない事を述べるばかりで一向に答えてくれない。リリアはそれを見て、この前の保健室でのチェルシーを思い出した。どうしてか泣いたまま抱きつかれるという事を、短期間の間に二度も経験することとなった。その後、遠くからアンナを追いかけるようにさらに多くの人が向かってくるのが見える。言うまでもなくディルク、ディルクが押す車椅子に乗っているクリスティーネ、エリーゼ、クルトだった。なんと校庭の噴水前に一家が全員集合したのだ。リリアはあまりの情報量の多さで、頭がパンクして死にそうになっていた。


 ある程度落ち着いた後、家族全員はここに来た理由をリリアに少しずつ解説し始めた。ちなみにカルロは横で呆然として突っ立っているばかりだった。

 ――リリアが放浪している可能性が高いという話題で騒然となったあの夕食のあと、行方不明届けを出すかという話も進んでいたが、ディルクが「魔法学校に行けるなら、まずは直接行って確認してみよう」と提案し、議論の末結局飛行機でロンドンまで来て、エリーゼの持っていた宝石を使って全員で勝手にマジックアイランドにワープして、たまたま校庭を探していたら男の子と歩くリリアを見つけて……という流れだった。

 リリアからしたら、心配してくれるのは良いのだが、はっきり言って迷惑以外の何者でもなかった。


「全く……私を信じてないの!? 私は何が起きても絶対大丈夫だから!」

「信じられないから来たんでしょうに! 普段からしっかりしてるならまだしも、何をやってもやらかすような娘が一人で外国に行って、半年も経ったのよ? 心配しないわけないじゃない」


 とアンナは涙を拭いながら叱るように言う。


「おやリリア、久しぶりだねえ。最近顔を見なかったけどどうしたのかね」


 クリスティーネは自分で車椅子を動かして孫娘の目の前に来た。やはり何が何だか分かっていないようだ。


「どうなることかと思ったぞ」

「まあとりあえず無事で良かったよ」

「僕はね、もしかしたらねーちゃん野垂れ死んでるんじゃないかって思ってたんだよ」

「なんてことを! お姉ちゃんはそんなに弱くないってば。この馬鹿弟!」

「うわ馬鹿に馬鹿って言われたし。馬鹿姉!」

「言ったな、腰抜け!」

「泣き虫!」

「阿呆!」

「寝坊助!」

「おたんこなす!」

「大英帝国!」


 リリアとクルトは姉弟で思いつく限りの罵倒語を次々と浴びせ合い始めた。それはアンナが「いい加減にしなさい!」と横から怒鳴る瞬間まで続いた。やはり親は強い。

 なおカルロはますます自分のいるべき立場がわからなくなってきて、


「あの、なんか色々あったみたいなので僕はこれで」


 と言いながら気まずそうにその場を去っていった。リリアは咄嗟にその背中を追いかけそうになったが、家族の目を見てやめた。そしてアンナがカルロを見てリリアに、


「――あの子は誰?」


 と聞いた後、エリーゼがふざけて


「彼氏でしょ」


 と言った。その瞬間、リリアは心臓が張り裂けそうになるくらい鼓動が激しく反応して、「かかかかか彼氏なわけないじゃん!」と動揺しながら大袈裟に否定し、家族を困惑させた。やがて真っ赤になってしまった顔を覆い隠しながら、カルロに続いてその場を去ろうと走り出したが、前を見ていなかったせいで自分が走り出した方向に噴水がある事に気付かなかった。直後、リリアは噴水の段差に躓いて、飛沫を上げなから水の中に思い切りダイブしてしまった。


「あはははやっぱりねーちゃん変わってないじゃん! やーいオタンチン!」


 クルトのからかう声と、ディルクとアンナの溜息、そして「ああリリア大丈夫かい!」と孫娘を心配するクリスティーネの言葉だけが響いた。

 なお、エリーゼは「ははーん、この様子だとあの男の子に……」と長年妹を見てきた経験から分析し、何かを察したような表情を浮かべていたのだった。

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