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『笹本湊人』

「やぁ、君はどうして学校に来ない日が多いのかい?」

「お前に関係ねぇだろ」

「風紀委員だから関係あるんだよね、これが」

行き先を遮るようにこいつはオレの前に立ちはだかった

「んなのオレが知るかよ」

「困ったなぁ、君が登校してくれないと私の内申点が……」

そう言われ、良心が痛む

(こいつにもこいつなりに何かあるだろうし……)

オレの都合だけで何か迷惑がかかっているとしたら、何だか申し訳ないと思ってしまった

そんな自分もいる

「いったい何が困るんだよ」

「聞いてくれるんだ、意外だね」

飄々と語るこいつを見て、本当は何も困っていないのかもしれないと感じた

「まあ、一応……オレのせいでお前に迷惑かけてたら嫌だし……」

少しの間沈黙が流れる

「…………」

オレはこいつの顔を見てみると声を殺して笑っていた

「はぁ!?何で今ので笑ってんだよ!意味わかんねぇやつだな!」

「いや、いやだって…………ぷぷっ!!」

堪えきれなくなったのか声を漏らして笑い出した

「お前、嫌なやつだな……」

「…………まあまあ、そう怒るなよ。実は君にしてもらわないといけないことがあってね」

笑いはおさまったようで、一息ついて口を開いた

「だから何だよ、早く言え」

「まあ……してもらわないといけないと言うよりも、うーん何て言うのが最適なのか……」

「早く言えって」

わざとなのか、性格なのかずいぶんと焦らしてくる

(こういう面倒臭いの苦手なんだけど…………)

「……私のこと、覚えていないのかい?」

「は?初対面だろ?」

「……」

「…………」

「そうだね……風紀委員としては登校して真面目に授業を受けてくれるだけでいいんだけど……」

「は?それだけでいいんじゃねぇのかよ?」

オレの問いの対してすぐに答えず、オレの目を見つめてきた

(な、何がしたいんだこいつは……)

「な、なんだよ……まだ何かあるなら早く言えよ」

『キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン』

聞き慣れた鐘の音が響く

「次の授業に行かないと間に合わないね。この話は後にして、ひとまず次の授業に向かおう」

パッと手を握られ、思わず払い除けた

「な、なに手ぇなんて繋いでんだよ!」

「…………嫌だった?」

「当たり前だろ!初対面のやつと手を握りたいやつなんていんのかよ!」

「…………」

さっきまでとは違い、シュンとして肩を落としてしまっているようだ

(訳わかんねぇ…………)

「ひとまず、授業受けんだろ、行くぞ」

オレは声だけかけて急足で進むと後ろから追いかけてきたようだ

「置いていくなんて酷いなぁ……」

「そうかよ、勝手にしろ」

歩いてはいるものの、かなり早いペースで歩いているのにこいつはペースを合わせてついてきた

「…………」

「ねぇ、湊人くん」

「…………んだよ?」

「私の名前、知ってる?」

「知らねぇよ」

「悲しいなぁ、同じクラスになって3ヶ月目だと言うのに……」

「何だよ、クラスのやつの名前なんて覚えている訳ねぇだろ」

「そっか、湊人くんはそうなんだね。じゃあ今から覚えてよ」

「何でオレがーーー」

オレが言葉を言い終わる前にこいつは被せてきた

「稲荷夕真」

「……夕真?」

(……何か引っかかる…………でも、何が……?)

「そう夕真だ、私のことは夕真って呼んでくれていいんだよ」

「そうか、稲荷か」

「え。酷いな、湊人は」

「呼び捨てかよ、オレのことは」

「それはそうだよ。君と仲良く…………」

変な沈黙が続き、稲荷の顔を見ると悲しみの表情を浮かべているように感じた

「なんだよ……?」

「ううん、仲良くなろう!私たちなら親友にだってなれるさ!」

「はぁ!?嫌に決まってんだろ!だってオレにはーーー…………」

(…………オレには????)

「湊人?」

「な、何でもない……それより授業受けんだろ、着いたぜ」

(オレはいったい何を言おうとしたんだ……?)

ガラガラと引き戸を開けて、郷土資料室に入った

「笹本遅かったなー、先生まだ来てなくて良かったなー」

「おう」

比較的仲の良いクラスメイトがオレに声をかけた

「ん?稲荷も一緒?珍しいな、2人が一緒にいるなんて」

「そうかい?私と湊人、仲良しに見えるだろう?」

と、稲荷は言うとオレの肩に手を回した

「離せって!」

ブンッと稲荷の腕を下ろして、オレは適当な席についた

「嫌われてるぞ?」

「そんなことないけどなぁ……」

そのまま稲荷はオレの横に座ってきた

(何だよこいつ……)

授業開始のチャイムがなり、先生が部屋に入ってきた

苛立ちを抑え、授業に集中するよう努めた

「本日から、前から伝えていた通り私たちが住んでいる夕暮町について各自調べてもらいます。この2時間分の授業を使って、各々が調べることについて見つけてください。

次の授業からは各自調べ、最後に調べたことを確かめるため現地に行って目聞きしてもらいます。

わからないことがある場合は私に聞いてかまいません。さあ、それでは各自調べ始めてください」

先生の話も終わり、オレは調べたいこともなくフラフラと適当に歩いて資料を漁った

(この町、神社が多いな……)

元々オレは地元人ではない

高校生になる時に親元を離れ、夕暮町に1人で暮らしている祖父の家で暮らし出していた

(子供の頃に来たことあるみたいだけど覚えてないしな……)

資料を片手にそんなことを考えていると、せっかく忘れることができていたやつの声が飛んできた

「そんなに悩んでいるなら、私と同じものを調べないかい?」

ヒョイっと隙間から飛び出してきたかのように、オレと資料の間に現れた

「ちょ、近いって!」

「そうかい……」

「な、なんだよ、お前……いちいちつかっかってきたと思ったら勝手に残念がるなよ」

「そうか、湊人にはそう見えているのか!」

急にパアッ花が咲いたようににこやかになった

(や、やっぱ訳わかんねぇ……)

「で、どうなんだい?」

「何が……」

「これだよこれ」

目の前に出された資料には”稲荷神社”と書かれているものばかりだった

「稲荷……」

「何だい、湊人?」

「自分の苗字のルーツでも調べたいのか?」

「……まぁ、そんなところだね」

稲荷は目を逸らしていた

(……何か隠してるのはわかるけど、本当に何がしたいんだこいつは)

「まあ、いいぜ。他にやることもないしな」

「やった!それなら毎日放課後に調べに行こう!」

喜んだ稲荷はオレの手を握って上下にブンブンと降り出した

「あー、もう!わかったって!いいから離せよ!!」

「オーケー、離すよ。今は授業の時間を使って調べようか」

あっさりと手を離して、稲荷は資料に向き直った

「……稲荷、放課後もお前に付き合ってやる。ただ、今日はなしだ」

「どうしてだい?」

稲荷がちらっとこちらに視線だけを向けた

「じいちゃ……祖父に帰りが遅くなるって言わないといけないからな」

「…………!」

全力で偉いと言わんばかりの態度を示してきた

「うっざ……」

「湊人、偉いな!」

「当たり前だろ、じいちゃんは大切なんだから」

じいちゃんはばあちゃんがなくなってから元気がないように見えていた

オレは元気だった頃のじいちゃんが好きで、じいちゃんの喜ぶ顔が見たくて、高校はじいちゃんの家から通える学校にしたのだ

「そうか、うん、湊人はやっぱりいいやつだな」

「やっぱり?……どういうことだよ?」

「……内緒、湊人が自分で思い出してくれるまで、私からは言わないさ」

その日は訳のわからないことが多い日だった



「ただいま、じいちゃん」

「おお、湊人おかえり」

暖かい笑顔で迎えてくれた

オレが学校に登校しない日があるというのもじいちゃんと一緒に過ごしていたからだった

「あのな……じいちゃん……明日から帰るの遅くなるんだけど」

「そうかいそうかい、構わんよ。優しい湊人が言うんじゃから何かしたいことがあるんじゃろう?」

優しい笑顔のままじいちゃんは頷いてくれた

「う、うん、授業のことで放課後も使って調べることにしたから……それで遅くなる」

「湊人は相変わらず優しい子じゃなぁ……わしのことは気にせんでええからしっかり学んでおいで」

「うん、ありがとうじいちゃん。今日は明日分の仕込みもするよ」

オレはカバンを置いて袖を捲り、キッチンへと向かう

「よっこらっしょっと……」

おもむろにじいちゃんが立ち上がったキッチンへとついてくる

「じいちゃん、今日はオレが作るよ」

「何言っとるんじゃ、明日からしばらく湊人がおらんとなると寂しくてのぅ、一緒に作りたいんじゃ」

じいちゃんも袖を捲り、冷蔵庫の中を確認し出した

(じいちゃんのこういうところ、好きなんだよな)

「ナスとニンジンが余っとるの〜」

「鶏肉もあったよな?煮物にでもする?」

「そうじゃなぁ……そうじゃ、前に湊人が作ってくれたトマトでどうじゃ?」

「トマト……トマト煮込みのこと?」

うんうんとじいちゃんは頷いた

「おっけ、オレ野菜切るな」

「わしは肉を切ろうの」

楽しい料理の時間はあっという間に終わり、明日を迎えてしまった



「行ってきます」

「ああ、行ってらっしゃい」

じいちゃんに声をかけ、学校へと向かう

急にガサガサと茂みが揺れ出す

(たぬきか何かでもいんのか?)

じいちゃんの家も学校も山が多いため、外を歩いていると野生動物と出会うことが多い

「やぁ、湊人、おはよう」

「うおっ!?」

飛び出してきたのは頭や体に葉っぱをたくさんつけた稲荷だった

「おまっ……何でそこから?」

改めて稲荷が出てきた方を見てみるとどう考えても、美しい緑色の夏草しかなく、先が見えない

なんならその奥はどうみても山だ

「そこから?」

稲荷はわざとらしく後ろを振り向いてみせ、その後オレの顔を見てにっこりと笑った

「湊人に会いたくて来ちゃった☆」

ドヤ顔で、決まった、みたいな顔をしているが正直ドン引きだ

「お前……キャラ崩壊してるぞ…………」

何とか一言絞り出して歩き出した

「待ってくれよ〜!」

「……」

(こいつと会話してたら馬鹿がうつる。無視だ無視無視)

「酷いじゃないか、私を2度も置いていくなんて」

「2度……?」

覚えのない発言をされ、思わずパッと振り向いた

「あ……」

完全に失言した、と顔が言っていた

「お前、何隠してんだよ?」

「さ、さて?何のことだか……」

(話すつもりはないってことか)

「…………オレは先に行くぞ」

オレは歩き出した

「湊人」

真面目な声色に、歩みを止める

「何だ?」

「私のこと…………覚えて……ない?」

サアァッと夏草が風で揺れる音が耳に入る

(覚えてない?覚えているも何も、昨日初めて認識したってのに)

「…………覚えていない。それに何のことを話しているのか訳がわからない」

オレは再び歩き始めた

(本当に昨日から訳わかんねぇやつ)

その日、放課後まで稲荷がオレに関わってくることはなかった



「やぁ、待たせたかな?」

郷土資料室の扉がガラガラと音を出し、稲荷は入ってきた

「待っていない」

「同じクラスなんだから一緒に行けばいいのに」

「そこまでお前と一緒に行動しなくてもいいだろ」

「酷いなぁ……」

などといいながらカラカラと笑っている

オレはため息をついて、稲荷神社についての資料を漁り出した

(稲荷神社ってことはやっぱり、狐だよな?)

実際、手に取った資料からわかったことは狐が神だったり神使だったりすること

その神社が作られた経緯が書かれていたり、ほとんどが写真のみで終わっていた

「おい」

「何だい?」

少し奥の本棚から稲荷が顔を出した

「一通り調べたと思うんだが、お前は何が知りたいんだ?」

「んー、そうだな……知りたいじゃないんだよな」

「は?調べたい……なのか?」

(結果ではなく工程を楽しんでいるだけなのか?)

無言のまま稲荷はオレの方に近づいてきた

「……私は、知って欲しいんだ」

「何を?」

「君に……私を」

「はっ??」

(だとして、その手段が稲荷神社を調べること?何の関係があるんだ?)

「ねぇ、湊人」

「……んだよ」

稲荷は急にオレの顔に近づいた

グッと首が紐か何かに繋がれたかのように引っ張られる

「っ!?」

だが、首元には何もない

稲荷の手がまるでオレについた首輪を引っ張るように握っているように見える

(オレは頭でもおかしくなったのか?)

「早く、私のこと、思い出してよ」

「今朝も言っただろ!お前のことなんて知らねぇって!」

「…………そう、今日はここまでにしよう」

何事もなかったかのように一言だけ吐き捨てて、稲荷は部屋を去った

(な、何なんだよあいつ…………)

「…………」

でも、何だ?オレは何かを忘れているのか?

だが稲荷のことは本当に知らない

(ここで考えていても拉致があかねぇ……)

オレは資料を片付けて帰路に着いた



家に帰り、ご飯を食べ風呂も終え、布団の上に転がった

やることもなく、ぼーっとしているとリイィィンと、スズムシの声が耳に入ってきた

(何だか切なそうだな……)

元気がないのか音が小さく聞こえる

蚊帳の外に出て、興味本位でスズムシを探してみる

(こっちじゃ……ないな)

じいちゃん家の庭にも夏草がたくさん生えており、かき分けてまでスズムシを探しか悩んでいるとガサガサと目の前の夏草が揺れた

(今度こそ、たぬきとかだよな?)

今朝ならいざ知らず、じいちゃんの家の庭で稲荷ができきたら叫び声をあげてしまう自信がある

「…………ん?犬?」

バッと飛び出てきたのは狐だった

暗くて判断するのに時間がかかったが、珍しい真っ白な狐だった

(野生……だよな?)

寒冷の地域では白い狐がいるとは聞いたことがあった

しかし、日本でもここは比較的暖かい地域だ

(珍しいな)

狐とオレは仄暗い中で目を合わせていた

オレの部屋から溢れている光のみなので、あまりはっきりとは見えていない

(この狐、目が紅いな……)

「……クゥン」

しばらくの間見つめ合っていると狐から行動を起こした

オレから逃げるのではなく、オレに近づいてきた

「お前、人間が怖くねぇのかよ」

目線が合いやすいようにしゃがんでやると、走ってきたので思わず驚いて尻餅を着いてしまった

(ダッサ……)

狐はオレの足の隙間を通り抜けては、また通り抜けている

(何なんだこいつ?)

いや、オレはこいつに見覚えがある

いつの頃だったか、まだばあちゃんが生きていた頃だったはずだ

(確か……小学生になったばかりの頃か)

じいちゃん家の庭で遊んでいた時に、大雨が降ってきて帰り道がわからなくなった日があった

心細くて寂しくて、誰かに見つけてもらいたくて

そんな感情が残っていることを思い出していた



*****



「じいちゃん……ばあちゃん……どこにいるのぉ…………」

オレは1人泣いていた

幼いながらに迷子になったのだとわかってしまっていた

(こわいよ……)

適当に彷徨っているとポツリ、またポツリと雨が降ってきた

(さむい)

夏であるはずにも関わらず雨に濡れたせいか寒い

ザアアアッと雨は本格的に降ってきた

(かえりたいのに……みちがわからないよぉ……)

そんな折、何かが耳に入ってくる

「……クゥン」

(何だろ……?)

辺りをキョロキョロと探してみると真っ白な何かがいた

(いぬ?)

寂しいことも寒いことも白い何かへの興味によってかき消された

近づいてみると犬ではないことに気がつく

(きつね?)

狐も寒いのか丸まって震えている

「さむいの?」

狐は何も答えずに閉じていた目を開いてこちらを見た

(まっかないろだ……)

オレは狐を抱えて歩き出した

噛まれたりするかもしれないと覚悟したが、狐は腕の中で丸まったままだ

オレは必死に歩いた

するとすぐに見知らぬ神社にたどり着いた

(ボロボロだ……)

赤かったであろう鳥居は赤黒くなっており、たくさん傷がついている

ひとまず賽銭箱があるところだけは屋根があり、オレは屋根の下まで夢中で走っていった

「早く良くなってね……」

オレは狐が少しでも暖かくなるように何度も撫でた



*****



あの後、そのままオレは神社で寝てしまっていて、オレのことを探してくれていたじいちゃんとばあちゃんに見つけてもらったと聞いていた

雨に濡れたせいで風邪を引いてしまい、回復してから白い狐のことを聞くと、じいちゃんもばあちゃんも揃って、オレ以外には何もいなかったと言っていた

だが、オレは白い狐のことが忘れられず、しばらくの間神社に通っていたが白い狐に会うことはできなかった

(やっぱり白い狐はいたんだな)

目の前の狐を見て、懐かしい気持ちになる

「お前、無事だったんだな」

オレが撫でようと手を差し出すと、狐はその場に座り込んで頭を差し出した

(……思ったより毛が硬いな)

狐は気持ちいいのか手に擦り寄っている

「思ったより人間に慣れているのか」

しばらくスズムシの声を聴きながら狐を撫でていると遠くから声が飛んできた

「湊人〜?トイレかの〜?」

(じいちゃんに何も言わずに来てしまっていたな)

「じゃあな、お前に会えて良かったよ」

オレは狐に別れを告げて部屋に戻った



次の日、いつも通り学校に行くために準備を終え家を出る

「……は?」

「おはよう、湊人、いい朝だね」

「何でお前がオレん家にいんだよ」

「一緒に登校したくて」

「1人で行けよ」

「湊人?どうしたんじゃ〜?」

行ってきますと、挨拶した後に話し声が聞こえたからか家からじいちゃんが出てきた

「何でもないよ、じいちゃん」

「そうかいの……ん?同級生の子かい?」

「初めまして、湊人くんの親友の稲荷と申します」

「おお!湊人にも親友ができたのかぁ!」

「じ、じいちゃん……」

ここまで喜ばれると否定するのもはばかれた

「おじいさん、湊人くんと登校しても?」

稲荷は稲荷で温和でいい人なんです感をだしている

「もちろん、湊人のことよろしく頼んだよ」

じいちゃんの笑顔には逆らえず、オレは諦めて稲荷と登校したのだった



あっという間に放課後になり、稲荷と郷土資料室で昨日同様に調べていた

「なぁ、稲荷」

「何だい?」

「お前、ずっとここに住んでんのか?」

「夕暮町にってこと?」

「ああ」

「……湊人はどう思う?」

「知らねぇから聞いてんだろ」

稲荷はカラカラと音をたてて笑い、口を開いた

「秘密☆」

(相変わらず意味わかんねぇな、こいつ)

だが3日目ともなれば変に慣れてしまっていた

「お前が、夕暮町に昔から住んでるって前提で話すけど、ここって白い狐いんのな」

「…………狐……それに、白色の?」

「ああ、昔……つっても小学生になった頃くらいだったか、白い狐見たことがあったんだ」

「ここで」

「そうだ。で、だ。昨日もそいつを見た」

「……へぇ〜、そうなんだ。私は見たことないな」

「そうか、この町ならそんなに珍しいもんでもないと思ったんだけどな」

稲荷が違う街から引っ越してきて知らないのかもしれない

(オレだけか、知っているのは)

「……湊人〜、遠回しに夕暮町が田舎だって言ってる〜?」

「んなつもりで言ったわけじゃねぇよ」

「またまた〜、湊人はツンデレだから本当のこというのが恥ずかしいんだよな?」

「…………」

(こいつの相手、まともにしない方が楽だな……)

オレは稲荷のことを無視して、まだ見ていない資料を探し出した

「ぷんぷん!もう湊人のことなんて知らな〜い!」

「…………」

(本当に何なんだこいつは……)

呆れはててしまっていたが、そろそろ新しい資料がなくなってきたので否応なしに口を開いた

「稲荷、郷土資料室にある稲荷神社の資料、今日で見終わるんじゃないか?」

「奇遇だね、私もそう思っていたんだ」

「てなると、どこの稲荷神社に行くか決めて、授業の時間使って行くくらいしかやることなくないか?」

「……湊人」

「んだよ?」

シンと沈黙が続く

(…………何が言いたいんだよ……)

急にニンマリと不気味に微笑んで稲荷は言葉を綴った

「明日、私とデートしよう」

「……」

「…………ダメ?」

「……………………はっ?」

「うそうそ!冗談だよ!そんなに本気でキレないでくれ!!」

と、いうのも稲荷の常套句のような嘘で、明日の放課後からは稲荷神社に行ってみて現地調査しようとのことだった

現地調査って何をするのかと聞いたら、はぐらかされていた

まあいいかと、明日行く場所の候補を出して解散ということになった

……のだが

「湊人、帰りはどこか寄って行かないのかい?」

昨日、そして一昨日は1人で帰っていたからか、今日も何の根拠もなく1人で帰れると思い込んでいた

「ねぇ、ねーえ、湊人く〜ん?」

(うざい……)

オレの後ろをちょこまかと動いては声をかけられている

「ん?」

美味しそうな香りが漂っている

(何の匂いだ?揚げ物とか……醤油とかの匂いだな)

その正体はどうやら地元の惣菜屋のようだった

「おや?湊人は惣菜買って帰るのかい?」

「いや、じいちゃんが張り切ってご飯作ってくれているから今日は買わねぇな」

それにしてもおいしそうだ

『ぐぅ〜』

腹の虫の音だ、オレではない

いつの間にか隣にいた稲荷を見ると、

『テヘ☆お腹鳴っちゃった☆』と顔で語っていた

(本当にうぜぇ…………)

何でこんなやつに付き纏わられているのか、改めて考えさせられた

「買いたいところだけど、我慢我慢!」

「買わねぇのか?」

「お金持ってないからね〜」

そう言って稲荷は店に入ることなく帰路に戻った

(オレは気になるし、入ってみるか)

オレは暖簾をよけて、店に入ってみた

「いらっしゃい、おんやぁ?」

「こんちは……何すか?」

店主であろう初老の女性はオレをまじまじと見つめている

「君……ハツちゃんのお孫さん?」

「……ばあちゃ……祖母の知り合いすか?」

おばあさんはぱあっと顔を輝かせて話しかけてきた

「嬉しいわぁ!ハツちゃんねぇ!!あなたのことが大好きだったのよ〜!そうだ!何か好きなの持っていきなさい!!何でもいいわよ、おばちゃんの惣菜は夕暮町1美味しい惣菜屋だからね!!」

おばあさんのマシンガントークは続き、惣菜をいただけることになったので、オレは何を持って帰るか悩んでいた

「1つ2つじゃなくて、全部持って帰ってもいいのよ〜」

「いえ、それはさすがに……」

オレとじいちゃん、2人で食べても2日分くらいはありそうな量だった

(ん?)

「あら、いなり寿司好きなの?」

「……そういうわけでも……いえ、これもらってもいいですか?」

「もちろんよ〜!」

そう言っておばあさんはオレにパックに入ったいなり寿司を渡してくれた

「ありがとうございます。今度は金払いますんで」

「いいのよ、また来てくれるだけでおばちゃん嬉しいから!」

そう言って、店を出るとオレの予想通り稲荷は待っていた

「湊人、遅かったね。何か話していたのかい?」

「ああ、ちょっとな……それよりこれ、やるよ」

オレはいなり寿司を稲荷に差し出した

「…………共食い?」

「お前ならそう言うと思った」

「……ぷぷぷっ!」

声をあげて笑っている稲荷を見ていると、いつの間にかオレもつられて笑っていた

「あははっ!湊人が笑うなんて珍しいな!」

「んなことねぇよ、稲荷の方こそ学校ではそんな笑い方しねぇだろ!」

2人で笑っているのがさらにおかしく思えてきて、しばらく笑いがおさまらなかった

「あー……面白かった。初めはちょっとしか面白くなかったのにな」

「お前が変な笑い方したんだろ」

「いやいや、湊人が笑ってたらつられたんだって〜」

稲荷はいただきますと、いなり寿司を食べ出した

「そうか、だとしてもお前そんなキャラだったか?」

「ん?ほういうこほ?(どういうこと?)」

食べながら話しているからかなんて言っているのか微妙にわかりにくい

「お前、学校だといつも澄ました顔して、ちゃんといい子です。……みたいなオーラ出してるじゃねぇか」

「……私のこと見てくれているのかい?」

ニンマリと笑みを浮かべて稲荷はオレを見つめ出した

「……あまりにもお前のことがうざくてな」

「嬉しいな〜、湊人、私のことが気になるんだ?」

「そんなんじゃねぇよ」

だんだんと日が沈んできており、辺りはすっかり夕暮れ時になっていた

「そろそろ帰るぞ」

「そうだね。湊人が誘拐されたらいけないからね」

「オレを誘拐するやつなんかいねぇだろ」

稲荷を置いて、スタスタと歩き出す

「……ここにいるかもしれないよ」

「何か言ったか?」

「い〜や、な〜んにも言ってないよ」

オレたちはそのまま帰路についた



オレはじいちゃんに惣菜屋のおばあさんと会話したことを話した

「おお、キクさんか、ばあさんと仲良かったんじゃよ〜」

「やっぱりそうなんだ」

「キクさんとこはいなり寿司が美味いんじゃよ!そうじゃ明日……は、もうご飯を仕込んだから、明後日にでもキクさんとこの惣菜を買って食べようの!」

「うん、いいよじいちゃん」

(明後日っていうと金曜日か)

「あ、でもじいちゃん、オレ学校あるから土曜日でもいい?」

「そうじゃの、一緒に買いに行くか!」

やたらとテンションの高いじいちゃんと休日の予定を立てたのだった



稲荷と関わってから4日目

今朝も昨日と変わらず稲荷はオレの家の前にいた

「おはよう!」

「……おはよ」

断ったり嫌がってもついてくるとわかっていたので、大人しく学校へと向かうことにした

「湊人、昨夜はいなり寿司ありがとう、美味しかったよ」

「ああ、じいちゃんに聞いたんだけど、キクさん……惣菜屋のおばあさんのいなり寿司美味しいんだって?」

「美味しかったよ、思い出の味……て感じがしたな」

「もしかして食べたことあったのか?」

「いんや初めて……のはずなんだけど、知ってる気になっただけだよ」

「そうか」

「……今日の放課後から神社巡りだけど、準備してきた?」

「何のだよ?」

地元のすぐに歩いて行ける範囲の神社に行くだけだというのに何の準備がいるというのか

(……何もなくないか?)

「か〜さ」

「傘?」

「そう、今日雨降るんだって」

(ん?今朝の天気予報では1日中晴れだっていってたけどな……)

空を見上げてみても、雲ひとつない快晴だ

照りつける太陽の日差しが肌を焦がす

(蒸し暑いって言うよりも、乾燥してるな)

「本当に雨が降るのか」

「うんうん、夕方から降るよ」

鼻歌を歌いながらスキップして稲荷は足早に学校へと向かい出した

(……慣れたな)

稲荷の奇怪な行動にも慣れてしまっている自分がいた



放課後になり、稲荷との約束通り事前に決めていた稲荷神社へと向かい出していた

「ん?」

「ほらね、言ったでしょ」

ポツポツと少しずつ雨が降ってきていた

(空は晴れてんのに降ってきたな)

「天気雨か」

スイッと影が現れた

(ん?)

稲荷が傘をさして、オレを半分入れてきていた

「またの名を”狐の嫁入り”。稲荷神社を巡る私たちへの門出みたいだね」

「逆じゃねぇか?自分たちの領域に人間如きが足を踏み入れるなってな」

パッと稲荷の傘から出てオレは歩き出した

「相合傘は嫌かい?」

「オレたち恋人とかじゃねぇんだから、入らなくていいだろ」

「……親友でも?」

「親友なら入ってもいいが、あいにくオレと稲荷は親友でもねぇよ」

少しずつだが雨が強くなってきている

「稲荷、早く行くぞ」

声をかけるが、稲荷は動かない

「ねぇ、湊人」

「何だ?早くしないと置いていくぞ」

稲荷は口を開くが何も言わずに、口を閉じた

「おい、行くぞ」

もう一度声をかけると今度は少し俯いて声を出した

「湊人、君にとって親友とは何だい?」

「今じゃないといけないのか?」

「うん、”今が良い”」

今でなくても良いが、今が良いときた

この数日間、稲荷を見てきたがここまで辛そうに、それでいて真剣なのは初めてだった

「……オレにとって、親友は……昔いた1人だけだよ。それ以上でもそれ以外でもない」

「その人は……誰だい?」

「お前に言わなきゃいけないのか?」

雨が強くなってきていた

「…………私ではないのかい?」

何かを言っているのは聞こえているが、雨音で稲荷の言葉はかき消された

「今、なんて言ったんだ?雨で聞こえねぇよ」

ザァァァと雨は急に強くなってきた

まだ夕暮れ時には程遠いと言うのに、空が紅く染まっていた

(何だ?これ?)

「おい、稲荷。何か変な天気だし、明日にしようぜ?」

稲荷に近づき声をかける

すると、俯いたままの稲荷は顔をあげた

「湊人」

「何だよ、今日はもう帰るぜ?雨も止まねぇし」

「…………そうだね、また明日!」

驚くほど急にパッといつもの胡散臭い笑顔を見せて、何だかほっとした自分がいる

(……?)

自分は何も悪くねぇのに何でオレが稲荷の顔色を気にしてるんだ

稲荷はすでに遠くまで行っていた

オレも風邪を引きたくなかったので急いで家に帰ったのだった



稲荷と出会って5日目、金曜日なので学校は明日明後日休みだ

(明日はじいちゃんと出かけるし、稲荷に話をつけて今日は少し早めに帰るか)

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけて行ってくるんじゃぞ」

家を出ると、稲荷の姿はない

別に待ち合わせをしていたわけでもないのに、少しがっかりしている自分がいる

(……何あいつに絆されてんだよ)

何に期待していたのか、オレはブンブンと頭を振って、1人で登校した

登校するといつもとかわらない姿の稲荷がいた

「お前、今朝オレん家にいなかったな」

「あれ?湊人もしかして期待した?」

「…………まあな」

「え?…………湊人がデレた」

稲荷だけでなく教室にいたクラスメイトたちも同時にどよめき出した

「んだよ……思ったこと言っただけだろ」

(何か恥ずかしくなってきた……)

「湊人、本当にツンデレだったんだ」

「ツンデレじゃねぇよ」

面白半分でオレのことを揶揄う稲荷のことを、そんなに嫌いになれなかった

「じゃ、放課後までは真面目に授業受けようか」

「ああ」

なぜだか今日は稲荷のことが目につく

(…………あいつ、オレに何か隠してんのは間違いねぇんだけど)

この数日間見てきた時よりも何か、遠くに感じる

(だからなんだって言うんだ)

稲荷のことを考えていると、何だか稲荷の思う壺な気がしてならない

(やめだやめ、稲荷のことを考えるのはあいつと話している時だけでいいだろ)

ブンブンと頭を横に振って、稲荷のことを考えないように気合を入れ放課後まで何とか乗り切った

授業も終わり、放課後になったので郷土資料室に向かうと珍しく稲荷がオレよりも先にきていた

「お前が先に来ているなんて珍しいな」

「……そう?」

(ん?)

稲荷はなぜか帽子を被っている

「お前何で帽子なんて被ってんだよ?」

「ああ、これかい?」

被っていた帽子を取り、稲荷は窓際のデスクに腰掛けた

「風紀委員がデスクなんかに座って良いのかよ?」

「んー……良くはないだろうね」

「……」

稲荷は帽子を回したりして遊んでいるようだ

(…………)

「湊人、この帽子、見覚えない?」

「ねぇけど……それがどうかしたのか?」

何の変哲もない学生帽だ

(変わったところをあえて言うなら布っぽいところが赤色だな)

「……この帽子、お気に入りなんだ」

「…………」

「学校では帽子を被っていたら、規則違反になるから被っていなかったんだけどね」

「ならなんでお前は帽子を持ってきたんだ?」

「…………本当に見覚えない?」

「……ねぇな、どこにでもありそうな帽子に覚えはねぇよ」

「…………」

「…………」

変な沈黙が続く

オレはこの沈黙が嫌で話題を変えた

「なぁ、昨日雨が降って調べられなかっただろ?今日はもう一度現地に向かうのでいいんじゃないか?」

「……ねぇ、湊人」

「何だよ?」

「今日は晴れているね」

「……そうだな、外、見りゃわかるな」

稲荷が腰掛けている隣のデスク横から外を見渡した

(快晴だ、今日も雲ひとつねぇ)

とは言っても、昨日のように急に大雨が降るかもしれない

(んなこと考えてたらいつまでたっても、行けねぇけど)

「湊人」

「どうした?」

「私は……人間に見えるかい?」

窓を開けていないはずなのに、風がオレたちの周りを包むように吹き始めた

(……稲荷といると変な現象が良く起きるな…………)

稲荷が放った言葉

”人間に見えるか”

その発言はまるで、稲荷が”人間ではない”かのように聞こえる

「……お前は……人間じゃないのか?」

「もし、そうだって言ったらどうする?」

「何者なのかって聞くだろうな」

稲荷の細い目がさらに細くつり上がって、ニンマリと笑った

いつもとは何かが違う、これは何か良くない方向に進んでいる

オレの直感がそう告げていた

「何でお前はこんなにオレに構うんだよ、別のやつでもいいだろ」

オレがそう、言葉を放った瞬間だった

急に窓が割れ、夕方とはいえまだ昼間に近いのに真っ赤な夕日がオレたち2人を包み込んだ

天井には赤い紐が現れ、いつの間にかオレは首輪をはめていた

(あの時と同じ感覚……あの時の首輪はこういうことか)

「私たち、お互いに一度落ち着こうか」

稲荷の声が資料室ににシンと冷たく響いた

そう言い放つ稲荷はいつの間にか黒い狐面をつけていた

真夏なのに肌寒い

(そうだ、こいつのペースに合わせる必要はない)

オレは近くのデスクに腰掛けた

「オレは落ち着いている。落ち着いてねぇのはお前だ、稲荷。……お前が何者かとか知らねぇけど、こんなことされてもオレは何も変わらなねぇからな」

稲荷のネクタイをつかみオレは淡々と反抗した

ずっと吹いていた風がザッと強くなり、デスクの上にあった神社の資料が宙を舞う

「ねぇ、いつになったら私のこと、思い出しくれるのかい?」

「だからお前のことなんか知らねぇって!」

「本当に?」

狐面から除く稲荷の瞳は憂いを帯びていた

「なん、っで……」

(そんな眼でオレを見るんだ!?)

すっと風が背中を通ると、あたりの景色は元の教室に戻っていた

窓ガラスは割れておらず、夕日は消え、オレの首輪もいつの間にかなくなっていた

先ほどの表情とはうって違い、稲荷の顔から狐面は消え、先ほどとは違いいつもの気味の悪い笑みを浮かべていた

(いったい何なんだ!こいつは!)

だが、瞳だけは虚にオレを捉えていた

「そんなに私のことが嫌いなようだね。もういいよ。疲れたんだ。」

「…………何だよ」

稲荷は帽子を目深に被った

「…………さようなら、湊人」

珍しく淡々と言葉を放ち、稲荷はオレの方を一度も見ることもなく立ち去った

「あ、ちょ……おい!」

1人ぽつんと残されたオレは風で一度は散ったはずの資料を集め、まとめた

(まじで……何なんだよ…………)

やけにモヤモヤする

いやむしゃくしゃしているのだろうか

(とりあえず何かスッキリしねぇ……)

オレは資料を片付けて家に帰った

「おかえり湊人……なんじゃ元気がないのう?」

「じいちゃん……」

「とりあえず風呂に入っておいで、じっくり湯に浸かってあったまるんじゃぞ、いいの?」

「う、うん、わかったよ」

じいちゃんに促されるがまま風呂に入る

(何か……疲れたな)

ちゃんぷんと肩までとはいわず、口まで湯に浸かって頭の中を空っぽにする

(何だよ稲荷のやつ……本当に意味わかんねぇ…………)

ぶくぶくと口から泡を出す

考えないようにしようとしても悶々と考えてしまう

「ああーーー!!もうっ!!何なんだよあいつ!!」

勢いよく立ち上がり思わず声に出す

急に湯から出たせいか、ザバッと湯煎から湯が逃げていく

(何かイラついてきた)

オレは気持ちが切り替えられないまま風呂から上がると、笑顔のじいちゃんがオレを迎えてくれた

「湊人や、少し話をしようかの」

そう言ってじいちゃんはオレを縁側に座らせた

緩やかに風が吹いており、風鈴がチリンチリンと心地よい音色と唱えている

それに加えて、スズムシも元気に音楽を奏でている

(……少し落ち着いてきたな)

「よっと……ほれ、さっき買ってきたんじゃ」

そう言ってじいちゃんは皿の上に乗ったいなり寿司を渡してきた

「これ……キクさんとこの?」

「そうじゃ、今買ってきたんじゃよ」

「でもこれ明日買う予定だったんじゃ……」

「ふらいんぐってやつじゃな」

ほっほっほっとじいちゃんは独特に笑い、オレの横に腰掛けた

「それにほれ、湊人はこれが好物じゃったじゃろ?」

いなり寿司の横に見慣れた瓶を並べる

「……ラムネ」

(このラムネ、昔じいちゃん家に来た時は絶対に飲んでたな)

「もしかして、嫌いになったかの?」

「いや、好きだよ、これ。ありがとじいちゃん」

じいちゃんの優しさに預かり、オレはラムネの蓋を押してビー玉を下に落とした

プシュッと炭酸が抜け、泡がこぼれないようにすぐに喉を潤した

「ほれほれ、いなり寿司も食べんか」

「うん、食べるよ」

パクッと一口で口に入れる

(あれ?この味、覚えてるな……?)

「じいちゃん、このいなりってオレ昔食べたことある?」

「あるとも、ばあさんがキクさんとこでもらってきてな、それを湊人はうまいうまいって言ってよぅ食べよった」

「……そっか」

「それにの、”狐さんにあげるの”って言って近くの稲荷神社に毎日行きよったな」

「狐さん……」

稲荷神社に毎日行っていたことは覚えていた

(……あいつ、どこ行ったんだろうな)

幼い頃に毎日稲荷神社に通っていたその理由は、親友に会いに行っていたのだ



*****



「あの狐が早く元気になりますように」

オレは先日出会った白い狐のために、狐に出会った小さな神社でお祈りしていた

(あのきつねさん……げんきになったかなぁ?)

それから毎日オレは神社に通った

じいちゃんとばあちゃんから5円玉をもらい、きちんと賽銭箱に入れ、お祈りをする

1週間ほど経った時、オレはいつもばあちゃんがくれるいなり寿司を持って神社に来ていた

狐の話をじいちゃんとばあちゃんにすると、いなり寿司を分けてくれたのだ

いつものようにお祈りしていると、知らない子供がひょいっとオレの前に顔を出していた

(だ、だれだろう……?)

「やぁ、君は参拝に来たの?」

「さ、さんぱい……ってなんの……こと?」

「……お祈りのこと、君はどうしてここに来たの?」

「そ、そうだよ……おいのりにきた」

オレは話すことが得意ではなく、おどおどとしてしまう

「ふーん、何をお祈りしに来たの?」

「えっと……それは…………その…………」

今度こそ言い淀んでしまっただ

(きつねさんにげんきになってほしい……だけど、いうのがはずかしい……)

オレがもじもじして言い淀んでいると子供はオレに背を向けて声を発した

「言いたくないなら、いいや」

「ち、ちがうの!きつねさんげんきになってほしくてきてた!」

嫌われるのが嫌で、オレは素直に思ったことを口にだした

「大きな声出せたね」

(は、恥ずかしいよぅ…………)

「狐って?」

問いに答えないと嫌われると思って、勇気を持って言葉を紡いだ

「……オレがはじめて、ここにきたとき……きつねさんがいたんだ」

「それで?」

オレはそのまま、言葉を続ける

「あめがふっていて、ぬれててげんきがないみたいだったから……」

「それだけ?」

(……この子、オレのことわかってるのかも)

伝えようとするが声が出ない

「そ、その……」

(ここでいえないと、このこにもきわられる!)

意を決して口を開く

「オ、オレ……上手に話せないから……みんなに嫌われているんだ」

「……」

「そ、それで、あのきつねさんもオレみたいになかまはずれにされたとおもったんだ。そうおもうときつねさんをたすけなきゃっておもったから……」

「…………」

「…………」

「……………………」

沈黙が長い

オレはもう一度、勇気を持って声をかけた

「あ、あの……だいじょうぶ?オレ、なんかへんなこといった?」

オレの目を見つめて子供は口を開いた

「何でもないよ」

「そ、そう……」

(なんだかはずかしい……)

ぷいって思わず視線を逸らしてしまう

「そうだ。私たち似たもの同士友達になろう」

「と、ともだち?オレたちが?」

「うん、そう」

「い、いいの?」

オレは嬉しくて考えるよりも先に口が動いていた

「もちろん、君だから友達になりたいんだ」

「う、うん!よろしくね!」



友好の印としていなり寿司を一緒に食べた

それからオレたちは毎日神社で会い、色々なことをしてたくさん遊んだ

かくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたり、下駄ではなく靴を飛ばして天気占いをした

虫取りや、川遊び、鳥居に登ったり、本当に色々なことをした

オレはとても楽しそうだった

それでも別れはやってきた

言わないといけないことがある

オレはぎゅっと心臓を掴まれたような痛みがする

「あのね、いわなきゃいけないことがあるんだ」

言わなければならないと強く決意して言葉を紡ぐ

「ん?改まってどうした?私の大事なものでも無くしたのかい?」

(ちがう……ちがうんだよ)

深呼吸してさらに紡ぐ

「あの、あのね……オレ、あしたにはかえるんだ」

「……どこに?君の家は前に教えてくれたところじゃないのかい?」

「うん、じつはここにはなつやすみのあいだだけなの。いえはとおいの」

「…………」

何も言わない友人に勢いのまま伝える

「おじいちゃんとおばあちゃんのいえにいたの。……で、でも!かならずらいねんもくるから!」

「……来年も?」

「うん!らいねんのなつやすみ、またここでいっしょにあそぼう!」

「…………う、うん……」

(言わなきゃ……言わなきゃ!)

顔をあげてオレは目を見つめて、勢いよく言葉を発した

「だって、だって、オレたちもう親友でしょ!」

「え?」

「ち、ちがうの……?」

「…………はははっ」

(きゅうにわらいだしてどうしたんだろ……?)

もしかしたら親友だって言われて怒ったのかもしれない

「あ、あのーーー」

「ありがとう、湊人」

「う、うん!」

(よかった!おこったんじゃなかった!!)

「私は君の親友だ」

「うん!」

彼の目が優しく揺れた

「ねぇ、湊人」

「なぁに?」

「私に名前をくれないか?」

「な、なまえ?みなとってなまえはあげられないよ?」

彼はぷぷぷっと笑いをこらえながらこたえた

「違うよ。私に名前をつけてくれないか?」

(そういえばなまえ、しらない)

「なまえ、ないの?」

「ああ、ないんだよ。だから君につけて欲しいんだ」

「う、うん!いいよ、えっと、えっとね……」

一生懸命考えてみるがすぐにはうかばない

ザァッと夏草が揺れる

昼時だと言うのに夕暮れ時のように空が紅い

(そういえば、めがあかいよね)

彼の瞳は夕暮時の太陽のように紅い

(きみのなまえは……)



*****



(オレが……あいつの名前、決めたんだったな)

だが思い出せない

何度か思い出そうとしたが、思い出せずに何年も過ごしていた

あいつと出会い、親友になった次の年も夏休みの間はじいちゃん家に行く予定だったが、急にばあちゃんが亡くなり、その関係か両親の仕事も忙しくなった

そのせいか夏休みの間、じいちゃんに会いにいけなくなっていた

(あいつとの約束を反故したのは……)

考えまいとしていたが思い出してしまっては考えてしまう

(オレ、あいつに何かやったんだよな……でもこれも思い出せない)

親友のあいつのことで思い出せるのは印象的な紅い目と、とても仲が良く楽しかったことだ

(紅い……目?)

そういえば稲荷も紅い目だったなと気が付く

散らばったパズルピースがくっついたように思い出してしまう

(まさか……同一人物…………じゃないよな?)



『幼い頃、毎日稲荷神社で一緒に遊んでいた親友』

『クラスメイトでやたらとオレに絡んでくる稲荷夕真』



稲荷はオレによく”覚えていないのか”と言っていた

覚えていない

いや、思い出せなかっただけに過ぎないのではないか

オレはピースを次々に埋めていく

(他に稲荷は何を伝えていたか思い出せ……)



山しかない草むらから出てきて登校している

何かをオレに思い出してほしい

稲荷自身のことを知ってほしい

惣菜屋のキクさんのいなり寿司を懐かしいと言っていた

オレの親友に固執している

稲荷といると起こる、空が夕暮れ時のように紅くなる怪現象

学生帽を覚えていないかと言っていた

”人間に見えるか”と尋ねてきた



(……やっぱり……そうなのか)

いくつかわからないこともあるが、おそらく稲荷が”あいつ”なのだ

気づいた途端、オレはやりきれないようなやるせないような形容し難い感情に支配された

(何でオレはすぐに気がつかなかったんだ……)

稲荷は何年もオレを待っていてくれていた

それにも関わらずオレは忘れてしまっていた

(厳密にはあいつとは違う人物だと思っていたんだけどな)

あまりにも自分が愚かで惨めな存在に思えてきた

(オレ……稲荷にどんな顔して会えばいいんだよ……)

じわりと涙が溢れてくる

足の間に頭を挟んで隠し、じいちゃんに見えないように自分を隠した

「ふっ……うぅ…………」

声を殺そうとするが、とめどなく溢れる涙を追うように声が漏れる

優しく背中をさすってくれるじいちゃんの手が、心地よい

それなのに胸は槍で貫かれたかのように痛む

じいちゃんはオレが泣き止むまでずっと背中をさすってくれていた

しばらくして泣き止んだオレは、恥ずかしさを紛らわすようにポツリと言葉を漏らした

「じいちゃん……子供の時、オレに親友って、いた?」

顔をあげ、涙を拭いじいちゃんの顔を見て、答えを待つ

「ああ、おったよ。夕真くんじゃろう?」

「夕真……夕真っていうのか?」

「……まだばあさんが生きとった頃、夏休みの間、湊人がわしの家に来とったことは覚えておるか?」

オレは大きく頷いた

「あの時にな、ある日迷子になったんじゃ。大雨で見つけた時には熱も出とっての」

うんうんとオレはじいちゃんの話に耳を傾ける

「ばあさんと2人で必死になって湊人の看病をしたんじゃ。幸い風邪を引いただけで大事はなかったんじゃ」

それはオレも覚えていた

あの白い狐と出会った時のことだ

(白い狐……あいつも目が紅いな)

まさか、とは思うが考えることは後にして、今はじいちゃんの話を聞くことにした



「数日経ってすっかり元気になった頃に、1番家から近い稲荷神社に毎日通い出したんじゃ。

理由を聞いても狐に会いに行くの一点張りじゃったよ。

1週間くらい通っていた時にな。そんなに狐に会いたいなのならと思ってキクさんところのいなり寿司をばあさんと渡したんじゃよ。

狐はいなりが好きじゃから喜ぶじゃろうって幼い湊人に教えてな。

その時の湊人はものすごく喜んでなぁ。

それからじゃよ、初めての友達ができたって大喜びで教えてくれたのは。

それまでわしとばあさんにべったりだった湊人が、友達に会いに行くって言って毎日稲荷神社に行っとったよ。

夏休みが終わるまで毎日行っておったのぅ。

夏休みが終わる最後の日に、お別れしてきなさいって言ったら大泣きしてのぅ。

『初めての友達なのに離れたくない』

って、叫んで慰めるのに苦労したのは今でも忘れんよ。

そんなに仲が良いのは親友である証、だからこそしっかり言わんといけんのじゃって、教えたんじゃよ。

また来年に遊ぼうって言ったらきっと分かってくれるって、教えたら湊人はその頃からいい子じゃったから、最終日にちゃんと伝えたって報告してくれたんじゃ。

『じいちゃん、オレね!オレね!親友ができたの!!ゆうまはオレの親友なの!!!』

そう泣きながら満面の笑みで言っとったことが昨日のことのように思い出せるわい」



「オレ、そんなに泣いてたのか……」

「ほっほっほっ、まだ湊人も小さかったからのぅ。そうじゃその頃の写真も残っとるぞ」

そう言ってじいちゃんはすぐ近くにあるタンスからアルバムを取り出した

「確かこれくらいの時……おお、あったあった」

じいちゃんからアルバムを受け取り見てみる

(あ、れ……この帽子…………)

「じいちゃん、これは?」

「ん?……わしが湊人にやった帽子じゃな。」

(……ってことは、オレのだったのかこの学生帽)

稲荷がオレに見せてきた学生帽を、アルバムの中のオレは笑顔で嬉しそうに被っていた

「わしがまだ学生の時のものでの、湊人が気に入ってな」

「そっか……」

「湊人にやったら、ここは紅くする!って言い出して、つばの上の部分を紅い布に変えたんじゃよ」

(……思い出した)

学生帽がかっこよく見えてじいちゃんにねだったことがある

(それで、稲荷…………夕真の目みたいな綺麗な色にしたかったんだ)

「じいちゃん……オレ…………」

バッと立ち上がり、じいちゃんを見るとじいちゃんは優しく微笑んで口を開いた

「わかっとるよ、湊人のことじゃからな。あの稲荷神社に行きたいんじゃろう?」

「うん、オレ行ってくるよ」

「じゃが、ダメじゃ。今日はもう暗いから明日の朝にしなさい」

「……でも…………」

「今行っても夕真くんはおらんじゃろう。今日はしっかり寝て、明日にしなさい、いいの?」

「……………………うん、おやすみ、じいちゃん」

「おやすみ、湊人」

今すぐに行きたい気持ちを堪えて、オレは自分の部屋に行き布団を被った

「……」

バラバラだったピースがほとんど繋がった

じいちゃんと話す前とは違い、今は物凄く心がスッキリしている

(明日……明日、夕真に会えるんだろうか)

あいつが人間じゃないのなら会えるような気がする

(何の根拠もないけどな)

泣いて疲れたからかオレはすぐに眠りについた



朝になり、目を覚ますとオレはすぐに着替えて家を出た

「湊人、行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます、じいちゃん」

じいちゃんに手を降って、山道を登る

(そういえば高校生になってからこの神社に行くのは初めてだな)

高校生になって引越ししてきた時、夕真はすでにオレのことを忘れているだろうと思い、なんとなく足が遠のいていた

だんだんと道なき道となり、緑色に輝く夏草が生い茂っている

急いでも変わらないかもしれない、それでもオレはハイペースで山を登る

「……はぁ……はぁ…………ん?」

息を切らしながら登っていると、夏草がなくなり懐かしい景色がオレの視界に飛び込んできた

(ここだ……!)

幼い頃、オレが稲荷夕真と遊んでいた境内だ

辺りを見回してみると、記憶が蘇ってくる

(あの芝で一緒に昼寝して、あの場所で天気占いして……建物の中だけでかくれんぼして…………)

懐かしさが徐々に込み上げてくる

「……?」

ふと視界に2つの像が入る

像は2つあり、2つともすでに欠けてしまっており、狐だったのだろうとは思うが狐だったのかわからないくらいには壊れてしまっている

すぐ横には壊れた像の破片らしきものが落ちている

(地震か何かで壊れたのか?)

「…………」

(いや、でも……この像昔は壊れていたの、1つだけだったよな?)

訝しげに思い、よく観察するがそれ以上のことはわからない

(とりあえず、月曜に夕真に聞いてみるか)

オレは早まる気持ちを抑えて家に帰った



月曜日になり、学校に行く準備を終え、玄関を出るが夕真はいない

今日はあいにくと大雨だ

傘をさして通学路を歩く

(……そういえば、喧嘩したみたいな感じだったなオレたち)

金曜日の放課後のことを思い出し、オレは1人で登校した

だが、授業が始まったにも関わらず夕真の姿はない

授業合間の時間にクラスメイトに尋ねた

「今日、稲荷って休みなのか?」

クラスメイトはキョトンと目を丸くして不思議そうに口を開いた

「稲荷……?稲荷が休みって何?神社か何かが休みってこと?」

(???)

クラスメイトの言っている意味がわからない

「とぼけてんのか?稲荷だよ。稲荷夕真。今日は休みなのか?休みなのかどうか知らないならそう言ってくれ」

「何言ってるんだよ?そんなやつ知らないよ」

「はっ?」

(どういう、ことだ……?)

稲荷夕真を知らない

そんなことはないはずだ

今話しているクラスメイトは、オレが夕真とクラスで初めて話した時に一緒に話したやつなのに

「本気で言っているのか?あの風紀委員の稲荷夕真だ」

「知らないって、笹本、頭おかしくなったのか?」

クラスメイトは本気で知らないようだ

あたかも稲荷夕真という人物を知っているオレの方がおかしいかのように

それからオレはクラス全員に稲荷夕真のことを聞いたが、皆が皆、口を揃えて知らないと言った

(何で……何で???)

オレは授業をほっぽり出して駆け出した

雨がオレの体を冷たく切り裂く

膝下全てが泥でまみれて、足が重くもつれる

そんなことは無視して無我夢中で山を駆け登る

(どういうことだよ?何で夕真がいないことになっているんだ?)

息が切れ、走りすぎて激しい動悸がする

(夕真は本当に人間じゃなかったのか?)

頭の中で答えが出ない問いが延々と繰り返される

(お前は今どこにいるんだよ??)

雨で目が霞み、前が見えない

(何で忘れていたオレのこと、ずっと覚えていたんだよ??)

何とか倒れることなく稲荷神社の境内にたどり着いた

膝に手を置いて、肩で呼吸をする

すっと大きく息を吸ってオレは思いを吐露し始めた

「どうしてだよ!どうして今まで何も言ってくれなかったんだ!?」

境内にはオレの声のみが響く

「返事しろよ!子供の頃、あんなに一緒に遊んだってのに!!」

(……なのに、忘れていたのはオレの方だ)

だとしてもオレは叫ばずにはいられなかった

「お前はオレにどうして欲しかったんだよ!?思い出すだけで良かったって訳じゃねぇだろ!?」

焦燥感に駆られる

もうこのまま夕真には会えないのかもしれないと考えだしてしまう

(嫌だ!オレはもう一度あいつに会いたいんだ!)

今度こそ、時が止まった子供の時からのこと

たくさん遊びたかった

たくさん話もしたかった

もちろんあいつの話も聞きたかった

「なのに……なんで……!!」

オレが、夕真があいつだと気がついた途端にお前はオレの前から消えたんだ

頰に涙が伝う

声も震えてだんだんと虚しくなってきた

「…………」

ふと視界に賽銭箱が入る

(なんで今、賽銭箱のことが気になるんだ……)

オレはポケットに入れていた小銭入れから5円玉を取り出した

幼い頃、白い狐に会いたいと願っていた時と同じように賽銭箱に投げ入れた

そして、鐘をならして祈った

(もし、ここに神がいるのなら、夕真と会わせてくれ!!)

「……」

「………………」

「……………………え?」

突然、賽銭箱が眩い光に包み込まれた

(うわっ!眩しっ!!)

咄嗟に目を覆い隠し、目を閉じた

「やぁ、君は私に会いに来たの?」

聞き慣れた声が耳に入ってきた

反射的に目を開くとそこには、いつものようにニンマリと笑う夕真がいた

「お、お前……!!」

それ以上は胸が張り裂けそうになり、声にならない

いつの間にか雨は病んでいた

「ごめんごめん、何だかもう眠りにつく時間だと思ってたけど、もう少し先みたいだね」

「……んだよ…………心配して、損し……たじゃ、ねぇか…………」

「やっぱり湊人は優しいままだね。湊人が大人になって、君のおじいちゃんよりも歳をとって、老衰して亡くなるまで、私は君の側にいるよ」

「…………何、言ってんだよ……」

「邪魔だったかい…………?」

夕真は心配してオレの顔を覗き込む

雨が上がり、綺麗な7色の虹がオレたちの再会に感動しているかのようだ

オレは袖で涙を拭って満面の笑みを浮かべ、にこやかに口を開いた

「そんな訳ねぇだろ!だってオレたちーーー」


『親友じゃないか!!!』

pixivノベル春_イラストBで投稿したオリジナル作品です。

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