5.証言と証拠
神楽木と朝霧はオカルト研究会の勧誘スペースに戻り、今回起きた件について調査を始めた。
勧誘スペースには何人か学生が残っていた。
宮島が倒れて救急車に運ばれたこともあって、勧誘は一時止まっていた。
神楽木は意気揚々と調査を始めようとしたが手が止まった。
「どうした悠介。今回起きたことについて調査しないのか?」
すると神楽木はスマホを取り出し、何か文書を打ち始めた。
神楽木は文書を打ち終わると周りに不自然と思われない程度に体とスマホの距離を話した。
神楽木は朝霧に何か伝えたいことを察した朝霧は文章を読み始めた。
【どうやって調査すればいいの?】
朝霧は呆れた顔をして神楽木に伝えた。
「何も考えずにここに来たのか。意外と抜けているところがあるんだな。」
朝霧はむすっとした顔で朝霧の顔を見た。
「わかったわかった。調査する方法を教えるよ。悠介にやってもらたい事は2つ。証言と証拠をそれぞれ集めることだ。」
神楽木はまたスマホを打ち始めて文章を作成した。
【具体的にはどうやって行えばいいの?】
「証拠集めは現場を観察して事件の真実に繋がりそうなものを集めてほしい。証言はいわゆる聞き込みだな。話を聞いて事件の概要をまとめていくんだ。あとは俺が推理をして事件の真実にたどり着くわけだ。」
神楽木は頭を頷きながら聞いていた。
「俺が推理をするためには悠介の証拠と証言を集めることが必須条件だ。あとは任せたよ。」
神楽木は朝霧の話を聞いた後にアナフィラキシーショックが起きて倒れた宮島がいた場所に向かった。
宮島は倒れてたところには机と椅子があり、そばには宮島のリュックがあるぐらいで他に変わったものは置いていない。
机の上には既に封を開けているポテトチップスとペットボトルのお茶が置いてあった。
神楽木が机と椅子を見ていると一人の女性が近寄っていた。
「あの~、君が宮島くんを助けてくれた人だよね?」
「あっはい。あなたは?」
「私は2年の渡辺千尋 と言います。宮島くんの手当をしてくれてありがとう。本当は私が手当に行くできだったんだけど、足がすくんで動けなくて。」
神楽木は思い出した、倒れた宮島の近くで足がすくんでいた女性がいたことを。
「この渡辺という女性は今回の事件の重要な情報を知っているはずだ。よく聞きだすんだ悠介。」
急に朝霧が話を遮ってきて話しかけた。
「えっ!?」
神楽木は一瞬声が出て、朝霧の言っていることに対して困惑した。
「どうかしたのですか?」
渡辺は神楽木の反応に不可解に思った。
「なんでもないですよ。あはは。」
神楽木は笑ってごまかして話を続けた。
「渡辺さんは足はもう大丈夫ですか?」
「救急車が来るまで足がすくんでいたけど、もう大丈夫よ。」
「それは良かったです。仲間がいきなり倒れたりしたら誰だって足がすくみますよね。」
「ええ、そうね・・・」
渡辺のぎこちない回答に神楽木は不思議そうに見ていた。
すると、朝霧が神楽木の肩を叩いてこう話した。
「悠介。この表情とぎこちない回答をよく見るんだ。この表情は何かを知っている。よく覚えておくんだ。そして、彼女は俺たちに話していないことがある。よく思い出すんだ。」
神楽木は朝霧が言う通りに宮島が倒れてから起きた以降について思い出した。
(たしか宮島さんの近くには足のすくんだ女性とリュックからエピペンを・・・ってあ。)
「渡辺さん、宮島さんが倒れた時にリュックからエピペンを出してって言っていたのはあなたですよね。」
「た、確かに私が言ったわ。私は足がすくんでたせいで動けなかったからね。」
「どうして、彼のリュックにエピペンがあることを知っていたのですが。代表は知らないようでしたので他の人もしらないかと思いました。」
「宮島くんはそばアレルギーなの。彼と一緒に外食した時にアレルギーが出ちゃって、その時に彼がそばアレルギーだと知ったわ。」
朝霧が神楽木に話し始めた。
「なるほどな。そばアレルギーだと合点がいくな。そばアレルギーは少量で重症化しやすい。そば扱っている店でそば以外のものを頼んでもそばの成分が入っていることもあるからアレルギーも起きやすい。」
朝霧の解説を聞きながらなるほどなと思いながら聞いていた。
「渡辺さん、宮島さんが倒れた理由はそばアレルギーが起きたと思ったからエピペンをリュックから出してほしいと言ったのですか。」
「以前、宮島くんが言っていたの。意識が朦朧するぐらいになった時はエピペンを使っているって。でも、彼は倒れていたからとてもじゃないが自分で刺せるような状況でなかったから誰かにお願いするしかなかった。」
神楽木は先ほど返事が曖昧であった渡辺がエピペンについてはしっかりと話しているから素直に話していると感じていた。
だが、渡辺の発言には疑問を持っていた。
「宮島さんはどうして、そばアレルギーを発症したでしょうか。」
「そ、それは私のせいかもしません。」
「どういうことですか。」
「私、オカルト研究会以外にも料理研究会に属しているんだけど、昨日、大学の調理室でそばを打ったのよ。そば粉を使ったからもしかして、私の荷物にそば粉が付いてそれが原因で宮島くんが倒れたらどうしようと思ってずっと不安だったのよ。」
渡辺は不安な顔で泣きそうな声で話した。
「そうだったんですね。それはお辛い気持ちだったですね。」
「このことを話せて少し気持ちが楽になったわ。ありがとう。代表にもこのことを話そうと思う。」
そう言うと渡辺は席を外して代表のところに向かった。
神楽木は再びスマホを打ち込み朝霧に見せた。
【これって事件じゃなくて事故かな?】
「まだ分からないな。荷物にそば粉が付いていれば荷物に触れると多少アレルギー反応は示すだろう。ただ、アナフィラキシーショックまで発展するかどうかと言われると何とも言えないな。」
【なるほど~】
「とりあえず、今は机の周りを調べる方がいいな。宮島が倒れる前に居たのはその椅子に座っていた時だからな。」
神楽木は宮島が倒れた椅子と机を調べ始めた。
机の上にはポテトチップスとペットボトルのお茶があり、注意深く見始めた。
【特に気になる点はないね】
スマホにそう打ち込んでも朝霧はスマホは見ず、ずっとポテトチップスの中身を見ていた。
「悠介、これを見てみろよ。」
朝霧はポテトチップスの袋の手前のチップスを指さした。
神楽木は手前のチップスを手に取ると裏側に白い粉が付いていることに気づいた。
【これって!?】
「ああ、おそらくそば粉だ。これが原因でアナフィラキシーショックが起きたはずだ。ただ、」
【ただ?】
「これがそば粉と判断する方法がない。警察なら調べてくれるがこれが事件性が認めてくれないと動いてくれないだろうな。」
【そんな~】
「とりあえず、物的証拠というよりはポテトチップスに白い粉が付いていたことを覚えておこう。」
証拠が出てきたが肝心のそば粉であるかどうか判別できない状態になっている。
これがそば粉なら確実な決め手になるだろう。
【この後はどうするの?】
「そうだな、代表の麻倉に話を聞きに行こう。宮島が病院に運ばれてから時間が経っているから何か情報を得ているかもしれないからな。」
神楽木はオカルト研究会のメンバーに麻倉の場所を聞き出して東都大学の中央広場に向かった。
神楽木が麻倉を見つけた時、麻倉はちょうど電話を切っていたタイミングであった。
「麻倉さん今お時間よろしいでしょうか。」
「ああ、君か。ちょうどよかったよ。宮島が運ばれた病院から連絡があったんだ。エピペンが刺したおかげで症状は安定してきたそうだよ。」
「それは良かったです。」
「ところで、私に何か用かね?」
神楽木は安堵していたが本来の要件を思い出した。
「宮島さんのことですがそばアレルギーを持っていたそうです。麻倉さんもご存じでしたか?」
「それは知らなかったな。なんせ今回のことで初めて知ったよ。あらかじめ知っていれば対処もできただろうに・・・」
「そうですか。」
「悠介。宮島の周りで変わったことがないか聞いてみろ。」
朝霧が会話の間に入って話しかけてきた。
「麻倉さん、最近宮島さんの周りで変わったことがありませんでしたか?」
「変わったこと?そういえば、USBをなくしたから探すのを手伝ってくれないかって言われたな。」
「そのUSBについて詳しく聞くんだ悠介。」
またしても会話に入り込んできたが先ほどよりも朝霧の表情がこわばっていた。
「そのUSBですがどのようなUSBなのですか?」
「どうやら大事なデータが入っているらしく【X】と書いてあるUSBだそうだ。私を含め何人かでサークル室を探したが結局見つからなかったよ。」
麻倉の会話を聞いて朝霧の表情は一層険しくなった。
「そうですか。わかりました。」
「こんなことになってあれだが、君はオカルト研究会に入ってくれるのかい?メンバーを助けてくれた恩人に出迎えたい。」
「もちろんです。これからもよろしくお願いします。」
麻倉と神楽木は連絡先を交換してその場を去った。
神楽木は先ほどから何もアクションをしない朝霧のことが気になり人手の少ない校舎裏に行き、朝霧に声をかけた。
「朝霧さんどうしたの?さっきから黙っていてさ。」
「悠介。麻倉からUSBの話があっただろう。」
「そうだね。【X】と書いたUSBがなくなって一緒に探したって言っていたね。」
「おそらくそのUSBの中には通称Xファイルと呼ばれているファイルが入っている。特殊な暗号で管理されていてUSBの表面には【X】のマークがついている」
「詳しいですね朝霧さん。なんでそのことを知っているんですか?」
「俺が死ぬ前に東都大学について調べていたことは以前話しただろう。調べていくうちに東都大学の重要な情報に関してXファイルで管理されていることが分かった。」
「それじゃあ、朝霧さんはXファイルを手に入れたのですか。」
「いや、手に入れる前に死んでしまった。ただ、このXファイルは東都大学で起きた事件なども管理しているらしい。だが、一人の生徒がXファイルが持っているのはとても不自然だ。悠介の前の住人とXファイルを持っている宮島が同じサークルに在籍している。このサークルは何かあるぞ。」
神楽木はこれから入ろうとしているサークルに大きな闇があるのではないかと感じている。
「Xファイルが重要なものだと分かったけど宮島さんのアナフィラキシーショックについてはどうするの?ひょっとしたらそば粉を盛られた可能性もあるし。」
「それについてはXファイルと関係しているかもしれない。一学生が持ってはいけない代物を無くしたからなんかしら事件に巻き込まれた可能性がある。」
「でもこれ以上どうやって調べるの?」
「まだ聞いていない人がいるだろ。」
「そんな人いないよ。」
「いるだろ。幽霊が」
「幽霊って!?あのサークル室にいたの!?」
神楽木はいきなりの発言に戸惑いを隠せないでいる。
「オカルト研究会だからか降霊術をしているせいで幽霊が何人かいたよ。明日、人がいない朝にサークル室に行って幽霊に話を聞いてみるんだ。」
朝霧以外の幽霊と話すとは思わなかった神楽木は朝霧の言う通りに早朝にサークル室に向かうのであった。




