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2.探偵

神楽木は朝になるとベットから起き上がり朝食の準備を始めた。


明日から大学が始まるからゆっくり出来るのは今日が最後だと思っていたが、事故物件に住んでいる幽霊の朝霧のせいでゆっくりとした1日は過ごせなそうだ。


コーヒーを淹れて朝食を取ろうとした時に天井から奴がやってきた。


「おはよう、悠介。よく寝れたか?」


「昨日はいろんなことが起きたからよく寝れなかったよ。」


「それはそうだ。いきなり幽霊と対面したからな。」


朝霧は笑いながら話していた。


「そういえば、悠介。探偵になる話はどうする?」


「昨日の提案だけど、僕なんかが探偵になれないよ。確かに好奇心が強いけど、推理力は全くないよ。」


「その点は安心しろ。推理するのは俺だ。悠介は事件に関して調べてくれればいい。」


思わぬ回答に神楽木は茫然としていた。


「え~と、つまり、二人で事件を解決するの?」


「まあ、そういうことになるな。」


神楽木は朝霧から探偵になる提案をした時に何か裏があると思ったが、そういうことだったのかと納得した。


「ただ、一般人の僕が事件に関わることなんて出来ないよ。」


朝霧は自信満々に答えた。


「それも心配しなくて大丈夫だ!!」


「どういうこと?」


「この部屋でまた事件が起きるからな」


朝霧の話を聞いて神楽木は飲んでいたコーヒーを噴き出した。


神楽木は困惑しながら朝霧に聞いた。


「ど、どういうこと?またこの部屋に死体が置かれるの?」


「かもな。少なくとも犯人は悠介をこの部屋から追い出すためになんかしらアプローチをしてくるだろう。」


朝霧の突発的な意見に神楽木はついていけてなかった。


「なんで、犯人が僕にアプローチをしてくると言えるの?すでに2年前の事件だし、もう関係ないんじゃないかな?」


「そうだな悠介、俺がこの部屋で遺体で見つかった事件について不可解なところはないか。」


不可解な点。不動産の話を思い出しながら気になっている部分を朝霧にぶつけてみた。


「そういえば、朝霧さんなんでこの部屋で遺体で置かれてたの?」


「それは犯人が彼女に見つけてほしくて置いたのさ。」


「見つけてほしい?隠したじゃなくて?」


「隠すなら土に埋めたり、重しをつけて海に落とす方が確実で簡単だろ。」


「確かに」


犯人は遺体を隠すならもっと合理的な方法があるのに、なぜかこの部屋に置いた。その理由とはいったい何だろうか。


神楽木は朝霧の発言に気になる部分があった。


「そういえば、朝霧さんは前の住人が女性ていうことはなんで知っているの?不動産はそんな話はしてなかったけど。」


「それは幽霊になった時に前の住人である彼女を見たからさ。ついでに自分の遺体も見たからなんとも不思議な気分だったよ。」


「確かに自分の遺体を見たら不思議な気分になるね。」


朝霧は自分の推理を続けた。


「俺が幽霊になった情報を組み込んで話すぞ。犯人はわざわざこの部屋侵入して俺の遺体を置いた。理由は彼女に見つけてもらってこの部屋に不信感を抱いてもらうため。」


「この部屋に不信感を抱いてもらうため?」


神楽木は疑問に溢れていた。


「不動産の話だと、このアパートはセキュリティに優れていたと話しただろう。そんな部屋に見知らぬ遺体が置いていたら、この部屋に対する不信感を招く。彼女はこれからも同じことが起きるのではないかと考えるだろう。そう考えると退去することを選択しても不思議ではない。」


「確かに。セキュリティを売りにしていたアパートであんな事件が起きたら不信感を抱くよね。でも、犯人はなんでそんなことをする必要があるの?もしかして不動産に恨みがある人が起こしたとか。」


「恨みがあるならネットで不動産の悪口などの書き込みなどもっと手軽なら方法があるだろう。犯人の目的はこの部屋に何かしらの目的があったのさ。」


「目的って何?」


「具体的な目的は分からない。少なくとも犯人はこの部屋に用があるのは確かだ。」


「その根拠は?」


「犯人らしき人が退去後の部屋に入ろうとしたのを見たんだよね。」


神楽木は朝霧の発言に驚いたが、幽霊である朝霧なら人目を気にせずに相手の行動を見ることは簡単だ。


「犯人の顔を見たのですか?」


「残念ながらフードとマスクをしていたからよく顔は見えなかった。ただ、この部屋には何かしらの秘密がありそうだ。」


好奇心で借りた事故物件にまさか秘密があるとは思わなかった。


犯人は彼女を退去に追い込んでまでこの部屋に固執している。そこまで動かす目的とはいったい何だろうか。


「犯人は彼女を退去させた目的はなんだろうか。彼女の留守の間に部屋に侵入して目的を達成すればいいのに。」


神楽木は自分で話したあとに疑問が出てきて、朝霧にぶつけてみた。


「そういえば、朝霧さんの遺体はどうやって置いたの?ピッキングの跡がないし、部屋も鍵がかかっていたんだよね。」


「それは合鍵は使ったんだよ」


「不動産の担当者の話だと前の住人は合鍵を作ってないと言っていたし、そもそも鍵自体がセキュリティが高いと言っていたよ。」


「確かにこの部屋の鍵はディンプルキーが使われていて、鍵の表面に小さなくぼみがあって防犯性能はかなり高い。その分、合鍵を作るのが難しいと思わているが、腕のいい鍵職人が居れば10分で作成可能だ。」


「10分で作れるのか。それでも本人が知らない間で合鍵を作るのは無理じゃない。」


「例えば、彼女がサークルの合宿などで遠出したタイミングで大学が近いこの部屋を貸してほしいや付き合っていた彼氏に合鍵を渡していたなどを理由で合鍵を作るタイミングはいろいろ考えられる。少なくとも俺を遺体を運んだ犯人は少なくとも彼女の知人で間違いないだろう。」


「でも、合鍵を作ったら彼女がいないうちにこの部屋に来ればいいんじゃないかな。わざわざ退去させる必要がないだろうし。」


「犯人は何度も合鍵を使ってこの部屋に侵入したはずだ。ただ、目的は達成できなかったみたいだ。多分、部屋には家具や物があって探すのに手こずった可能性がある。なので、犯人は大胆にも退去させた部屋で目的を達成させようと俺の遺体を置いたわけだ。」


「あれ?でも合鍵があれば今でもこの部屋に入ってくるんじゃないですかね?」


神楽木は自分で発言していてとんでもないことを言っていることに気づいて怖気ついた。


「それは心配ない。不動産が彼女が退去した直後に鍵を変えたみたいで、俺が見た犯人も作った合鍵で来なかったわけさ。だから、この部屋は安全だ。」


朝霧に説明を受けて神楽木はホッとした。


しかし、同時に目的のために犯人は住人を退去させたのかと思うと恐ろしく感じる。


「でも、朝霧さんの遺体が置かれた事件は2年前の話ですよね。犯人はもう諦めたんじゃないですかね。」


「犯人は前の住人の知人なら大学生の可能性がある。犯人は恐らく在学中に再びこの部屋に入ろうと考えているんじゃないかな。」


自分の年がそこまで離れていない人がここまで大胆なことをすると考えるとぞっとする。


「そこで悠介にお願いだ。」


朝霧は神楽木の顔をまじまじ見ながら話してきた。


「なんですかいきなり。」


朝霧はにやりと笑みを浮かべながらこう言い放った。


「悠介に彼女の素行調査を依頼する。もちろん、俺も手伝う。」


神楽木はいきなりなこと過ぎて一瞬固まった。


「えっ?、素行調査?そんな素人が出来るわけないだろ。そもそも、手掛かりがほとんどないじゃないか。」


「手掛かりはあるじゃないか。彼女がどんな人が覚えてる?」


「確か、不動産の話だと大学生で、・・・あっ。」


「そう、この辺りで唯一ある大学は東都大学しかない。東都大学について調査していた俺がそこで通う大学の学生の部屋で死んでいたら怪しくないか?」


「確かに、それは怪しい。朝霧さんが追っていた事件とについて関係があるのですか?」


「なんとも言えないな。少なくとも彼女は俺が死んだ事件に何かしらの形で関わっている。少なくとも犯人は合鍵を使って、部屋に侵入して俺の遺体を置いたからね。」


「でも、事件が起きたのは2年前ですよ。すでに卒業してこの辺りにはいないかもしれませんよ。」


「その点は問題ない。事件起きた当時は大学1年生だから中退していない限りはいるはずだ。」


「その情報は幽霊になった時のものですか?」


「もちろん、そうだ。顔もばっちり覚えているから悠介と一緒に大学に行けば見つかるはずだ。」


「そうですね。一緒に・・・って大学まで憑いてくる気ですか。」


「当たり前だ。素行調査を手伝うと言っただろ。」


「いや、でもやるとは言ってないですよ。」


「この素行調査を行うことで俺が遺体として置かれた事件の解明やこの部屋の秘密が明かされるだろう。悠介が求めていた非日常な生活が始まるだろう。」


非日常な生活、地元では味わうことが出来なかった生活。地元では退屈な生活のせいで東京の生活も憧れていたが、今目の前にある異質で非日常な生活に向けた切符が目の前にある。


これからの長い人生でもこれほど異質な生活はないだろう。幽霊と一緒になって探偵を行う生活。


「分かりました。朝霧さん。彼女の素行調査をやります。」


「悠介ありがとう。俺も全力で手伝うよ。そして、この事件を一緒に解決しよう。」


こうして始まった幽霊兼探偵をパートナーにした探偵業。最初のターゲットは前の住人である彼女。


明日から始まる大学生活で今までの人生で味わったことがない生活がスタートする。

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