9 . 怪鳥の噂
俺たちがモックルに辿り着いたのは、町に明かりが灯った頃だった。人通りは疎らであり、特に活気があるような雰囲気ではない。とりあえずここまでの道のりで飲まず食わずだったということもあり、俺たちは場所を選ばずその辺の酒場へ駆け込んだ。
「今更聞くのもおかしな話なんだが、ニナって酒飲めるんだな」
「あら、そんなお子ちゃまに見えてたかしら? ちゃ〜んと20歳を過ぎた大人の女性よ」
既に2、3杯飲んでいるニナだが、少しも酔っている素振りを見せない。
「ところで、今晩はこの町に泊まるとして、明日以降どう動く。何か当てはあるのか?」
「ないわ。だからこそ、この酒場に来たのよ」
何を言っているんだと訝しんでいると、ニナが酒を持って立ち上がり、カウンターでしっぽり飲んでいた男性に近づいていく。そのまま相席で酒を飲み交わしている。
数十分後、今度は2人で飲んでいる中年の男性たちへ声をかけていた。やはりこちらでも楽しそうにテーブルを囲んでおり、暫くして俺の元に戻ってくる。
「いい情報を手に入れたわ」
「まさか、そのためにわざわざテーブルをハシゴしていたのか?」
「当然よ。情報は転がっては来ないわ。自分から掴みにいかないと」
ドヤ顔を見せてくるニナ。特にリアクションすることはせず、彼女に先を促す。
「で、いい情報って?」
「ここ最近、町の外れの鉱山で怪鳥が出没しているみたい」
「怪鳥?」
「ええ。とてつもない大きさの鳥で、ダイヤモンドより輝く羽根を持っているとか。この町はもちろん、他の町の冒険者も挑んでるみたいだけど、捕えるは愚か、無事に帰ってきた人も少ないっていう話よ」
予想以上にスリリングな話を展開され、俺も食い付かずにはいられなかった。
「面白いじゃねぇか。俺たちの手でその怪鳥を捕獲しようぜ」
「そう言うと思った。ダイヤモンドより輝く羽根なんて聞いたことないし、きっと売ればかなりの値になるはずよ。ただ、まずは資金集めから始めなきゃね。ガルの武器や、その他諸々買い揃えないと話にならない」
言葉尻に一つ疑問を感じた俺は、彼女の言葉を遮った。
「ちょっと待て、金ならニナが持っているんじゃないのか?」
「まさか! 言っておくけど、私たちってかなり貧乏だからね。レジャーハンターがみんなお金持ちだと思っているなら大きな間違いよ」
「・・・因みに、あとどれくらい残ってる?」
「この店の代金と、今晩泊まる宿を差し引くと、後はほとんど空ね。明日は朝からクエストに参加必須だからよろしく」
まさかのその日暮らしに言葉が出なかったが、働かざる者食うべからずとは前世でもよく言ったもので、渋々ニナの提案に了承するしかなかった。
こんなことならもう少し酒をセーブしておけば良かったと思いつつ、俺は手元のジョッキを呷った。