8 . 油断大敵
今ならあの老人が言っていたことが理解できる。この大陸に生息する魔物のレベルは、俺が天下を取っていたあの世界とは一線を介するものだ。
一気に汗が滲んでくるのを感じたが、奴のタックルが拭う余裕すら与えなかった。
「ガル、危ないっ!!」
油断したが、今度こそ受け止める。
俺は奴の両角を手で掴むと、そのまま持ち上げ後方へ放り投げた。案の定、馬鹿の一つ覚えに再び突進を仕掛けてくる。攻撃のレパートリーが少ないのが、この手の魔物の特徴だ。
「お前の弱点は分かっている」
俺は魔物の鼻に正拳突きを叩き込んだ。嗅覚が発達している分、神経が詰まっているのは普通の動物と同じである。
たまらずのけぞる魔物の腹に、俺はもう一発拳を突き刺した。先ほどの俺以上に豪快に吹っ飛んでいった魔物は、少し離れた木の幹に打ちつけられる。勝負ありである。
「・・・倒したの?」
「ああ、もう心配ない」
安堵の表情を浮かべながら、ニナが近づいてくる。
「もう、心配させないでよ」
「すまん、油断した」
「けど、野良の魔物がこんな強いなんて驚きだわ」
口には出さないが、俺の中で確信めいたことが一つある。ここは俺たちがいた世界の続きの世界であり、ゲームで言うと物語後半にあたるのだろう。つまりは俺には中ボス程度の力しか備わっておらず、間違いなく近い将来、強敵にぶち当たって挫折することになる。
「俺たちもパワーアップする必要がありそうだ」
「まずは町に行って武器を手に入れなきゃ。いつまでも素手で戦うのはキツいでしょ」
「そうだな。よし、先を急ごう」
これ以上魔物に遭遇しないように、俺たちはそそくさと町を目指して歩みを早めることにした。