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7 . ラウド大陸

 爽やかな風が頬を撫で、俺は目を覚ました。

 飛び込んでくるのは雲一つない澄み切った水色の空で、時折り心地よい鳥の囀りなんかも聞こえたりしている。むくっと上半身だけ起き上がると、どこまでも広がる草原が目に入り、思わず感嘆してしまう。

 数秒後、隣で気持ちよさそうに眠っていたニナも目覚めた。


「・・・ここはどこ?」

「さあな。だが、悪くない場所だ」


 俺が遠くを見つめながら返事をすると、ニナは立ち上がって大きく背伸びをした。


「ほんとね、日差しが気持ちいいわ」


 いつまでもこの場所にいたいのは山々だったが、まずはやらなければいけない事が一つある。


「とりあえず、俺の服を調達して来てくれないか?」


 俺が恥ずかしげもなくそう言うと、ニナはクスッと笑って頷いた。


「そうね、さすがにそのままはね。え〜っと、あっ、あそこに建物が見えるわ。ちょっと待ってて!」


 遠くにポツンと牧場らしきものを発見して、ニナが走り出した。俺は茂みに隠れるようにして、彼女の帰りを待つことにした。



   ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「まぁ、とりあえずいいんじゃない?」


 革製のズボンに細身のチュニックを合わせ、目の粗い褐色のウールマントを纏った俺のセットアップは、まさしく庶民そのものであった。ただ、無料で頂いた手前、文句を言うことは憚られた。


「その服をくれた人がね、ご飯も一緒にどうかってさ。どう、行ってみる?」

「ああ。ここがどういう場所かも知っておきたいしな」


 牧場へ辿り着いた俺たちは、牛の世話をする1人のご老人と出会った。名をウォルシュと言う。元々は家族で牧場経営をしていたそうだが、妻に先立たれ、子供たちは儲からないという理由で出て行ってしまったらしい。なので、こうしてたまに訪れた人と会話をするのが、最近の唯一の楽しみになっているようだった。


「ところでウォルシュさん、ここは一体どこなんですか?」

「なんじゃ、そんなことも知らずにこの辺ウロウロしとったんか」


 メインディッシュのシチューをテーブルの上に運び終えたウォルシュは、俺たちと向かい合うようにして席に着いた。


「ここはラウド大陸の南西、チタラ草原じゃ」

「ラウド大陸・・・やっぱり、聞いたことないわね」


 同意を求めるニナに、俺は首を縦に振る。

 ニナは続けて、ウォルシュへ問うた。


「因みにここから1番近い町って?」

「ここから北へ半日進んだところにあるモックルという小さな町じゃな」

「半日・・・何とか今日中には着けるかしら」

「ああ、問題ない」


 俺たちが次の段取りを立てていると、ウォルシュが真剣な面持ちで話に割って入ってる。


「言っておくが夜に動くのは危険じゃぞ。夜の草原には魔物がうようよ出るからのぉ」


 何かと思えばそんなこと。元大魔王の俺からすれば、その辺の小童どもなぞ相手にはならん。

 ニナもそう思ったのか、軽い感じで返答する。


「お気遣いありがとうこざいます。でも、私たちは大丈夫ですので」

「そうかのぉ」


 あまり納得していないようだが、しつこく止めようともしないウォルシュ。その代わり、両手を前に差し出し、食事を勧めてきた。


「じゃあせめて飯くらいはたらふく食べていきんさい。おかわりもあるから遠慮はいらんぞ」


 旅の前の景気付け。太っ腹なウォルシュに甘える形で、俺たちはエネルギーを補給した。



   ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 牧場を後にした俺たちは、ウォルシュから教えてもらったモックルという町を目指して歩き出していた。この辺は昼間は魔物がほとんど出没しないらしく、足止めを食らうことなく順調に進むことができている。この調子なら、日が暮れるくらいには町に入れそうな感じだ。


「ーーちょっと肌寒くなってきたわね」

「そうか?」


 俺には分からなかったが、恐らくは彼女の服装に問題がある。俊敏性を高めるために、防具品は一切なし。丈の短いスカートからは太ももが顕になっており、肩出しトップスにより首回りも風を通しそうだ。上着を着るというのが最善策になるのだが、俺たちは予備装飾品など持ち合わせてはいなかった。


「・・・これでも着てろ」

「え、ありがと」


 俺がマントを渡すと、ニナが嬉しそうにそれを羽織った。これで多少は防寒対策になるだろうと、一安心していたところーー


「な、なに!?」


 進行方向から遠吠えに近い鳴き声が聞こえ、俺たちは注視する。

 陽もかなり傾き、夕焼けが草原を照らしてい中、ゆっくりと歩みを進めてきたのは一体の獣だった。


「なんだ、脅かしやがって」


 四足歩行のそいつは、口の横に牙を生やし、随分丸いフォルムをしている。ぱっと見、イノシシに近かった。


「ちょっ、こっちに来るわよ!?」


 イノシシもどきが走り出し、生意気にも俺に突進を仕掛けてきた。


「あの程度、真正面から受けきってみせる」


 俺は重心を落とし、両手を広げて待ち構えた。

 初速から徐々に加速し、雄叫びを上げながら一丁前に威嚇してきやがる。お前なんぞ捕らえて晩飯にしてやろうーー

 そう思っていたのも束の間、奴のタックルが想像以上の威力で俺を襲った。


「えっ、ガル!?」


 想定外とはまさにこのこと。俺は軽く吹き飛ばされ、草原に打ち付けられていた。起き上がりながら発した言葉は、今の俺の本心である。


「どうなってるんだ、この世界は・・・」


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