6 . 新世界へ
骨が溶けて身体が縮み、角や尻尾も跡形もなく消え、びっしりと纏ってた体毛は産毛レベルまで退化した。
これが魔変化の薬の効力。有象無象には当てはまらないはずの俺でさえ、しっかりと人間の姿に変えてしまうとは、何とも末恐ろしい薬である。
俺がそんな風に考えを巡らせていると、ふと呟きめいたものが聞こえた。
「やば、超良い男。ちょっとタイプかも。しかもあれも立派だし」
何のことだと思い、ニナの視線に目を向けると、そこには男のシンボルと呼ぶべき代物がぶら下がっている。敢えて説明する必要もないが、俺はいま全裸である。
とは言え、今はそんなことを気にしている場合ではない。フロアの半分は底が抜けており、頭上からは瓦礫の落下も増えてきている。一刻も早くこの場から脱出する必要があった。
「見惚れている暇はないぞ。このまま光の中に突っ込むから付いてこい!」
「ちょっ、誰が見惚れてるですって!? こら、待ちなさいよ!」
俺を追いかけるようにニナも走り出し、瓦礫のシャワーをうまく掻い潜りながら虹色の光へ飛び込んだ。股間がヒュンとなる感覚と共に、身体が上空へ飛ばされる。
「間一髪だったわね」
「そうだな」
下を見遣れば、つい今しがたまで俺たちがいた場所も奈落の底に沈んでいた。まさに紙一重である。
「さて、こんな状況でそんな格好ではあるけど、改めてよろしくね。え〜っと、なんて呼べばいいかしら?」
「ガナルザーク以外になにがある」
「それだと呼ぶのがめんどくさいわ」
ニナが左手で顎を摩りながら数秒思い巡らせた後、何かを閃いたみたいに手をポンっと叩いた。
「ガナルザークの『ガ』と『ル』を取ってガルっていうのはどうかしら。顔が強面だから、名前くらいちょっと可愛い感じの方が良いわよ」
「・・・嫌と言ってもそう呼ぶのだろう?」
「物分かりいいじゃない。じゃあ決まりね。よろしく、ガル!」
ニカっと笑う彼女の笑顔は客観的に見ても愛らしいと感じるもので、俺としても反応に困るものがあった。とりあえず当たり障りのない挨拶を返してみると、納得したような表情は浮かべていたので良しとしよう。
そうこうしているうちに、俺たちは随分高いところまで来ており、乱気雲突入までカウントダウンを迎えていた。
「いよいよね」
「ああ、この世界とも暫しお別れだ」
大魔王・ガナルザークはもういない。これからは人間・ガルとして新たな人生の幕が上がる。
まだ見ぬ地への期待を胸に、俺はこの世界を後にした。