4 . 決着そして絶望
長かった。これまでの歳月を振り返って、最初に出てくる感想がそれである。
転生して数百年、もはや前世の何十倍もの時間をこの世界で過ごした。本当の俺がどっちかと問われれば、迷わず今の俺こそが俺であると答えるはずだ。
本音を言えば、この与えられた圧倒的な力を世のために役立ててみたかったものだが、魔王として転生した以上、悪を演じ、ヘイトを集め、忌み嫌われる存在でなければならない。こういうのを前世ではキャラ作りと言っていた気もするが、我ながらよく演じ切ったと思う。ようやく肩の荷が降りそうだーー
「アレクサンダー・ギルバード、俺が憎いか?」
「愚問だ!」
「ふっ、それでいい。その怒りを、余すことなく俺にぶつけろ!」
光が闇を包み込み始める。走馬灯が駆け巡り、いよいよ最後なのだと実感させられる。
だが、俺にもラスボスとしてのプライドがある。おいそれと敗北するわけにはいかない。
振り絞った雄叫びに呼応するように、闇が光を押し返す。苦悶の表情を浮かべるギルバードだが、奴もまた己の限界を越えた力で、一進一退の攻防を繰り広げていた。
ーーそんな中、均衡を破ったのは彼女の一言からだった。
「ギル、負けないで! あなたには私たちがついている!」
「・・・そうだぜ、相棒。お前さんはここで負けていい男じゃない」
「・・・勝て、ギル。勝って全てを終わらせるんだ」
ボロボロで身動きが取れないダリルやライスも必死の応援を続ける。それはギルの糧となり、説明しようのない力を沸き起こす。
「当たり前だあぁぁぁああっ!!」
闇が打ち消されると同時に俺の剣が弾かれる。
無防備となった俺の胴部に、斬撃が斬り込まれ、燦爛たる光が視界を走った後、意識が暗転した。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
目が覚めると、視界の先には見知った天井があった。否応なしに、自分が敗北して地面に仰向けになっているのだと実感させられる。だが、不思議と後悔といった類の感情はない。そればかりか清々しささえある。それはきっと、やり切ったという思いが強いからで、ラスボスとして恥ずかしくない立ち振る舞いができていたのだろうと、ついつい自己分析をしてしまう。
横目で見遣れば、勝者は歓喜の渦に沸いている。その表情が、俺という存在がいかに強大で大きな壁として立ち塞がっていたということを物語ってた。
ーーこれで俺の魔王人生も終了か。
おそらくこのまま身体が消滅して、俺の魂は、また違うどこかへ飛び立つのだろう。そう信じて、瞼を閉じた。しかし、一向に俺の肉体は消失しなかった。
「・・・どういうことだ」
俺の呟きは聞こえてはいなかっただろうが、さすがに勇者達もこの状況が不可解であるということを察したようだった。
「どういうこと、ガナルザークを倒せば全てが終わるんじゃなかったの!?」
その通りのはずだ。何せ俺はラスボス。本来であれば俺を倒した後、ハッピーエンドを迎えるエンディングが用意されているのが定石。一体何が起こっているというのだ。
そんな風に考えていたのも束の間、予兆もなくフロアの天井が破られ、七色の光が差す。
「ギル! みんな!」
不思議な光のスポットライトに当てられたエルシィ。慌てて光の外に出ようとするが、足を踏み出したと同時に体は宙に浮き始め、そのまま魔王城の外へと運ばれてしまう。
「エルシィーーーッ!!!」
咄嗟の判断で、ギルバードも光の中に飛び込んだ。後を追うように、ダリルとライスも突っ込む様子を見て、俺は震え上がってた。
「おいおい、聞いてないぞ、こんな展開・・・」
確実にこの世界のストーリーは続いている。そうなると思案されるのはただ一つ。
ーー俺はラスボスでもなんでもなかったんだ。
頭が真っ白になる。俺のこれまでの数百年は、奴らに取ってはただの前座でしかなかったのだ。
「この城も用済みというわけか・・・」
気付けば地響きが発生しており、魔王城の倒壊も近い。ちょうどいい、この城と共に俺も消えてなくなろう。自暴自棄となった俺は、抗うことなくこの世の行く末を見守ることにした。