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3 . 皇女 エルシィ・グレース・アセンディス

 白煙が立ち込める中、俺はラスボスとは何かを考えていた。ラスボスとは、主人公を待ち受ける最強の敵であり、そう簡単に敗北は許されない存在。逆に言えば、容易に勝利することもあってはならない。故にベストバウトを繰り広げる義務があるのだーー


「やったか?」


 勇者一行が半信半疑でこちらを見ている。徐々に煙は晴れていき、俺の状態が露わになる。


「・・・そんなバカな」


 エルシィの表情が目に見えて曇る。それもそのはずだ。眼前には多少のダメージはあるものの、つつがない俺の姿があるのだから。


「第2ラウンドといこうか」


 俺は膝を曲げ、全身をバネのようにして跳躍。そして、天井に据えられていた双剣を取り、身体を回転しながら着地する。

 鎌鼬が勇者一行を襲い、奴らは落ち葉のように吹き飛んでいった。


「・・・化け物か」


 ライスの呟きは、全員が納得するところだろう。だが、ここで諦めるようでは英雄になることなど叶わずぞ。どう出る、勇者よ。


「相手がどんな化け物でも、俺たちは負けるわけにはいかない。世界中のみんなの重いを背負って俺たちはここにいるんだ!」


 ギルバードの鼓舞する一言に、仲間達が反応する。


「そうね、ギルの言うとおりだわ!」

「まったく、若いのに末恐ろしいねぇ。柄にもなく、おじさん感動しちゃったよ」

「それでこそ、俺たちのリーダーだ」


 再び目に光を宿し、4人は立ち上がった。逞しく勇敢な戦士達の視線を一身に受けて、俺は剣を構え直す。


「死をも恐れぬその度胸、買ってやる。来い、掻き切ってやる」

「いくぞ!!」


 至高のバトルは続く。互いに目の前の相手を倒すこと以外、頭には無かった。



   ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 カランと乾いた音がフロアに響き渡る。握っていた聖剣を落としてしまうくらい、もはや握力も残っていないのだろう。


「どうした、もう終わりか」

「・・・終わり、なものか」


 そう言って、ギルバードが倒れ伏してしまった。認めたくはないが、かなり善戦したと言える。この俺が肩で息をしなければならないほどに、奴はしぶとい男だったのだ。


「・・・残念だ、ギルバード。貴様ならこの俺を超えることも可能だと思ったのだがな」


 激戦中、ふと思っていたことが口を衝いて出た。これほどの好敵手は二度と現れない、不思議とそんな感覚に襲われていたのだ。


「だが、結局お前は俺に敗れた。所詮はそれまでの男でしかなかったということだ」


 情けは無用。俺は足音を鳴らしながら、ギルバードに近づく。


「さらばだ、アレクサンダー・ギルバード」


 右足を高く上げ、全体重を乗せて踏みつけたーーその時だった。

 突として、俺の足の隙間から眩い光が漏れ始め、徐々に押し返される感覚を味わう。


「ば、ばかな!?」


 その力の正体に唖然とする。金色に輝くギルバードが、何百トンもある俺をものともせず持ち上げているのだ。

 危機察知能力が働き、たまらず俺は距離を取る。


「どういうことだ」


 ギルバードだけではない。気付けば残りの3人も同じようにオーラを纏い、起き上がり始めている。


「みんな、この声聞こえる?」

「もちのろん」

「民よ、感謝する」


 エルシィ、ダリル、ライスがそれぞれ天を仰ぐ。奴らの身に何かが起きているのは明白だが、俺には理解が及ばない。


「貴様ら、一体何を言っている」


 俺の疑問に答えたのは、先頭で誇らしげに剣を構えているギルバードだった。


「分からないのか、このみなぎる力はこの世界に生きる人々の想いだ」

「想いだと? そんなものを背負っているから強くなったとでも言うのか」

「人は助け合うことで強くなる生き物だ。魔王であるお前には縁のない話だと思うがな」

「くだらない。他者に縋らなければ生きていけないとは、人間とはつくづく軟弱な生物だ」


 空気が張り詰め、獲物を狩る前の静けさが訪れる。これが正真正銘最後の闘いになることをこの場にいる全員が肌で感じ取っている。瞬きさえ許されない、そんな境地に達していた。

 合図はなかった。次の瞬間、勇者達は一斉に駆け出し、俺も咆哮を上げ、詰め寄る。

 先刻同様、ダリルの弓が飛来し、俺は可能な限り避けることに努めている。だが、目の前のギルバードとライスを相手にしながら全てを回避するのは不可能であり、先ほどから体躯に弓矢が突き刺さり、ダメージが蓄積されていく。隙を見てダリルへ飛ぶ斬撃を放つも、エルシィの防御魔法に阻まれてしまっており、戦況としては思わしくない。であれば、俺も余力を残した闘いは止めにしよう。

 俺は深く息をし、全身に力を漲らせる。腕や脚が膨れ上がり、何倍にもなったパワーで反撃に出る。


「下がれ!」


 ここは俺に任せろと言わんばかりに、ギルバードがライスの前に出た。常人では視認することさえ不可能な俺の斬撃を紙一重で受け切っている。


「どうした、防戦一方だぞ」


 俺の挑発に奴は乗らない。むしろ何かを図っているかのようにも見える。


「ライス!」


 俺の袈裟斬りをいなした後、ギルバードが叫んだ。すぐさまライスがギルバードとスイッチして、俺の懐に無数のレイピアを突き刺す。さすがに効いていないと言えば嘘になるが、まだ致命傷は負っていない。


「失せろ!」


 俺は目の前のライスを薙ぎ倒し、ギルバードに照準を合わせる。だが、俺の刃がギルバードに届くよりも先に、ダリルの弓が俺の剣を弾いた。


「恩に着る!」

「どういたしまして、相棒」


 それが先ほど貴様が言っていた助け合うということか。反吐が出る。

 俺は地面を強く蹴って飛び跳ね、一瞬でダリルの前に躍り出た。バックステップで距離を取ろうと試みるダリルだが、一度この間合いに入ってしまえば俺のリーチから逃げることなど出来やしない。


「ガハッ!」


 回転回し蹴りをもろにくらい、ダリルが数十メートル先の壁に突き刺さった。肋骨がほとんど折れ、奴はもう動けはしないはずだ。


「後は貴様らだけだ」


 振り向いた先には、ギルバードとエルシィがいる。状況としては、姫を守る王子と言ったところか。


「エルシィ、ありったけの魔力を俺にくれ」

「もちろんよ、ギル。あなた以外にあいつは倒せない。私の全てをあなたに託すわ」


 2人は信頼し合うように手を握る。刹那、目を覆いたくなるような光彩が飛散した。一歩、二歩とギルバードは歩みを進めながら、俺に言う。


「決着をつけよう、ガナルザーク」


 無論、返す言葉はこうだ。


「臨むところだ。貴様の全てを俺にぶつけてみろ」


 小賢しい技はいらない。真正面から渾身の一撃をぶつけるだけで勝者が決まることは、お互い分かっている。

 ギルバードは浅く息を吐き、剣を振り上げる。

 俺は双剣を身体の前でクロスさせ、猪突猛進を仕掛ける。

 そして、最強と最恐が相対した。


「ジ・マテリアル!!」

「ヘル・ヴァロム!!」


 光と闇と応酬。衝突と同時に爆風が吹き荒れ、フロアの壁や天井に亀裂が入る。

 俺とギルバードは互いに目を逸らさない。剣の接触部にはとてつもない力が加わっており、俺の力を持ってしてもびくともしなかった。


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