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自殺したのに異世界来たら不老不死になっていた。  作者: 三毛犬
第1章:この世界へさよならを言うために
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4話:傭兵ギルド

 私を振り落とそうとするライニールと攻防した結果、前で抱えてもらう形に収まった。

 至近距離に今にもブチ切れそうなライニールの顔があるせいで若干居心地は悪いが、背に腹はかえられない。


「そんなに怒らないで下さいよ。体格差があるんだから仕方ないじゃないですか」

「黙れ、殺すぞ」

「いいですよ。ライについて行くのも、もともとそれが目当てですし」

「人の名前を勝手に略してんじゃねえ」

「私の故郷では親しい人はあだ名で呼んでも良いことになってるので」

「誰が親しい人だ」

「抱っこしてくれる人は十分親しいと思いますけど」

「……お前やっぱ自分で歩け」


 急に腕を下ろされたせいで落ちそうになった。

 慌てて首にしがみつく私を見て、ライニールは鼻で笑っている。


「ちょっと!落ちたらどうしてくれるんですか!!」

「嫌ならその減らず口を閉じろ、くそガキ」


 私が押し黙るとまた腕を戻して抱え直した。

 実は優しいタイプなのか、余程セシリアが怖いのかどっちなんだ。


 額に浮かぶ青筋からは優しさは微塵も感じられない。


「セシリアに弱みでも握られてるんですか」

「違う、怒らすと面倒なだけだ」


 私と目を合わさないようにしているが、会話には答えてくれるらしい。

 横顔を眺めていると、金色の髪から覗くある物体に気が付いた。


 いや、まさか、そんなファンシーなものがこの男に付いてて良いはずが……。


 恐る恐る髪の隙間からそれを引っ張り出した。



「い、犬耳……」

「触んな」

「は、いえ、随分可愛らしいお耳だと思って」

「あぁ!?」

「いちいち怒らないで下さい!器の小さい人だな!」

「お前がふざけたこと抜かすからだろうが!」


 この犬耳顔面凶器男、沸点が幼稚園児並みに低い。


「大体これは犬じゃねえ。何が混ざってるか分からないってセシリアの話聞いてなかったのかこのタコ」


 しかも口が悪いし面倒くさい。


「分からないなら犬でもなんでも良いじゃないですか」

「良くねえよ、俺を犬と同じにすんな」

「それより今どこに向かってるんですか?」

「…………宿舎だ」


 ライニールたちは国に仕えている騎士団とは違い、あくまで金で雇われている兵らしい。

 そのため定住地を持たず、その時々で住む場所を借りながら生活しているのだった。


 現在の宿舎は町外れにあるため普段は馬車で移動しているが、私のせいで歩くはめになっているというのを、嫌みったらしく睨まれながら言われた。


「傭兵ギルドに入るならそれなりに働かすからな」

「ファミレスのバイトしかしたことないです」

「ふぁみ……」

「ファミレス……、えっと、レストランで働いたことはあります」

「飯屋か」


 魔法で言葉が通じるようになってはいるものの、この世界に存在しない単語は翻訳されないようだった。

 ファミレスとバイトは分からないのにレストランは通じるのかよと突っ込みたくなる。

 慣れるまで話すのにも苦労しそうだ。


「料理が出来るならまあ、使いどころはあるか」

「え?出来ませんよ。私接客メインだったので」

「なんだよ使えねえな」

「それにこの世界の料理とか材料も謎すぎて分からないです」


 露店に並んでいる食材もさっきから知らないものばかり並んでいる。


 川で見かけた魚もどきが売られているあたり、食文化そのものが全く違う気がする。

 あんなの食べるなんて冗談じゃないが、食べ物があの系統しかないなら食べざるを得ないのか……。


 ものすごく死にたくなってきた。

 誰でもいいから私を殺してくれないだろうか。


 殺人鬼でも歩いてないかと辺りを見渡した。

 子供たちが元気に帰路を走っている。その後ろを母親らしき人が笑いながら追いかけていた。

 絵に描いたように平和な町だ。


 死ぬためのハードルが高い……。




―――――――――――――――――――――




 肩を揺さぶられて目を覚ました。

 また気を失ったのかと思ったが、今度は本当に寝ていただけらしい。


 私が寝ている間にすっかり日が沈んで夜になっており、宿舎はもう目の前だった。

 4階建ての、想像していたよりずっと大きな建物だったが、ライニールのようなサイズの人がいるならこれくらいの大きさが必要かと納得した。

 一人で歩かされた挙げ句、服によだれを垂らされたライニールは私を雑に地面に降ろした。

 そのまま宿舎の扉を開けて中に入ってしまうので慌てて後を追う。


 一階は酒場のようになっており、やたらとごつい男たちが酒を飲みながら騒いでいた。

 その中の見知った顔が一人近づいてきた。


「よお、ライニール!遅かったな」


 森でライニールと一緒にいたもう一人の大男だった。

 私を追いかけてきた生き物その2の方。


「もう先に飯食っちまったぞって、あれ?」


 その2はライニールの影に隠れていた私を覗き込んだ。


「おいどうしたんだよ。セシリアに預けて来なかったのか?」

「記憶喪失で帰る家がねえから、ここに入れる」

「このガキをって、正気か?役に立つのかこんなん」

「雑用係にくらいはなるだろ」


 この世界には失礼な奴しかいないのか。

 顔をしかめて睨んでいると、それに気付いたその2は笑いながら背中を叩いてきた。


「なんだ、言葉通じてたのか。わりいわりい!そんな顔すんなって」

「別にいつもこの顔ですけど」

「怒んなよ。オレは歓迎してんだぜ」


 嘘つけ、さっき役立たず扱いしたくせに。

 見た目はライニールとあまり変わらないのに、中身は随分軽そうなその2は、ケヴィンと名乗った。


「まあ飯でも食ってろよ、団長にはオレが言っといてやるから」

「ああ」



 ケヴィンが団長とやらに会いに階段を上っていくのを見送って、ライニールは奥のカウンターに私を連れて行った。


 しかしこの宿舎、住人が殆どライニールのような背丈をしている。

 当然椅子や机などもそれに合わせて作られているわけで。


「ライ、抱っこ」


 半分ほどの背丈しかない私は一人で椅子に座ることも出来ない。


 両手をあげてスタンバっている私にため息をつきながら、持ち上げて座らせてくれる。

 介護されているようで少し情けない。


「何が食いたい」

「何があるか分からないので、なんでもいいです」


 カウンターの中でコップを拭いていた男はライニールからメニューを聞くと、奥の厨房に入っていった。


「宿舎でご飯も食べれるんですね」

「その方が便利だからな」


 しばらくして、肉料理が盛られた皿とコップが置かれた。

 何かの肉を焼いたものの上にソースがかけられていて、美味しそうな匂いがする。

 コップの中からはブドウの匂いがした。


 想像していたよりまともで安心した。

 恐る恐る食べると、味も鶏肉に似ていて美味しい。


 何の肉か分からなくて、厨房に視線を投げると羽が生えた緑色の光沢のある何かが捌かれているのが見えた。


 ……見なかったことにしよう。



 酒場の料金は団員の報酬から天引きされているらしい。

 そのおかげで殆どの人が外で食べるよりも、宿舎で食事を取っているそうだ。

 利用者が傭兵の集まりなだけあってボリュームもそれに合わせられている。


 ライニールよりは少なかったとはいえ、なかなかの量をお腹に入れて胃が重たい。

 手のひらでお腹をさすって和らげているとケヴィンが戻ってきた。


「今なら会えるってよ」

「そうか」




 料理人にお礼を言って立ち上がり、ライニールは私を抱えて酒場を出た。


「どこに行くんですか?」

「団長の部屋だ」


 怖い人だから大人しくしてろと釘を刺される。

 私からしてみればライニールとケヴィンも『怖い人』に入るのだが。


 些か緊張しているようなライニールの様子に、私まで引きずられてしまう。


 傭兵ギルドの団長とは一体どんな人なんだろう。

 勝手にライニールのもう一回り大きいバージョンを想像していた私は、早くも予想を裏切られることになった。





 団長の部屋は4階の角に位置していた。

 ライニールがノックをすると、中から女性の声が「入れ」と答えた。


 扉を開けた先、部屋の中には数人の魔族が固まって何かを話している。



 3人の体格がばらばらの男たちに、黒い服を着た女が1人。

 さっきの声はこの女の人だろう。

 全員の顔を確認しようとするも、鷲の頭をした男と角が生えた男の影で隠れているせいでもう1人の顔が見えない。


「(どれが団長ですか?)」

「(黙ってろ)」


 私を床に下ろしたライニールは背筋を伸ばして声を上げた。


「団長、連れてきました」


「ありがとう」



 返事をしたのは、4人の中で一番体格が小さい男だった。


 小さいと言っても2メートルはありそうだけれど。


 鷲と角の男が道を開けるように彼の両側にずれたおかげで顔がはっきりと見えた。

 その顔を見た私は、思わず生唾を飲み込んだ。


 ライオンだ。


 百獣の王と呼ばれるその顔が、そこにあった。



 反射的に身体が強張る。

 穏やかに青い目が私の全身を眺めている。

 被食者としての本能だろうか、嫌な汗が背中をつたう。


 たてがみではなく、綺麗なストレートのブロンドの髪を流しながら彼は言った。


「こちらへおいで」



 戸惑う私の背をライニールが少し押した。

 震える足でゆっくり近づいて彼の前に立った。


 顔に似合わない色白い人間の手が私の頬を撫でる。


「名前は?」

「アオ、です……」

「年はいくつ?」

「18です……」

「まだ子供だね。そんなに怯えなくとも、私は子供を傷つけたりはしないよ」


 口調は穏やかだが、その口から覗く肉食獣の牙に私は怖じ気づいた。


「ライニール、この子は何が出来る?」

「治癒能力が優れており、大抵の傷なら自力で治せます」

「それは自分の傷だけか」

「魔力をコントロールしている自覚は無かったので、おそらくは自己治癒のみかと」

「他者で試してみたことは?」

「ありません」



 尋問されているような空気に息が詰まりそうだ。


 彼は私から手を離し、自分の顎を撫でて何かを考えていた。

 一瞬目が細められ、また開いた。


「バート」

「はい」


 角の男が傍により、彼の足下に跪いた。


 彼はおもむろに自身の腰に差していた剣を抜く。

 その白銀の輝きを少し眺めると私に剣先を突きつけた。


「では試してみようか」



 一瞬だった。


 目の前で剣が振られ、鮮血が散った。

 思わず自分の首を押さえるも、手が濡れることはなく痛みもない。


 ならこの血は何だ。


 足下でうずくまる男を見て、ようやく切られたのは私ではないことに気が付いた。



「ほら、やってごらん」




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